10.『巨大』な村(2/2)

「──それにしてもマントさん」

「ん?」


皆がほとんど食べ終わった頃、幸はあの女の人に話しかけられる。


「あなた、お連れさんの歳も知らなかったのね」


痛い所をつかれて、幸はちょっとしょぼくれる。


「…それに関しては……今、反省中なんだ」


顔中にご飯粒やらを付けながら言う幸に、女の人はクスリと笑っておしぼりでそれを拭いてやった。


「こんなに付けちゃって」

「わっ!」


そして、すっかり綺麗になると女の人はニコッと笑って、


「まぁ背中でも洗ってやって、なかなおりしてきなさい」


と言った。


「えっ、」


幸は急にそんな事を言われて少し赤くなりながら焦るが、そういえば自分が男だと思われているのを思い出し、


「あー…違うんだよ、ねーちゃん」


と言って、眉を下げた。


「こんなんでも一応、女でさ…」


幸の言葉に、女の人だけでなく周りまで一瞬しんとする。


「……えっ?!うそっ」


…その後、興味津々の人達にわらわらと囲まれて、幸は少しびっくりしてしまう。


「……じゃあ、一緒に温泉入る?」


注目を浴びる中、そう言う女の人に、幸は少し小さくなりながら、「ん……」と答えた。


「……」


そんな様子を、さすがに無視出来なかった016は、少しヒヤヒヤしながら見ていた。



***



『あらっ』

『……』

、ほんとに女の子だわぁ』

『ちょっ…』

『なあに、恥ずかしいの?』

『た……他人とお風呂入った事無くて…』

『あらぁ〜』

『わーっ!ねーちゃん触んなっ!!』


「……」


ブクブクブクブク…


隣の女湯から聞こえる声に若干の居心地の悪さを感じながら、016は程良く火照りながら何となく口元までお湯に浸かっていた。


…すると、


「女たちは一段と賑やかだなぁ」


という声と共に、ばさっ…!と大量のお湯が016を襲った。


「!」


016はぎょっとしながら避けようとするが、勢いが凄まじく頭の上に乗っけていた手ぬぐいが落ちるくらい、ばしゃーんと頭中に浴びてしまった。


「おっ、悪い悪い。…つい勢い良く入るとこうなっちまうんだ」


ちょっと不満げな顔をする016にそう言ったのは、


「よっ、にーちゃん。もうのぼせたか?」


幸と話していたあの大男だった。


大男はできるだけ波を立てないようにゆっくり016の方へ近づくと、隣によっ…と座った。


「お前さんの連れ、女どもに大人気だそうだ」

「……」


そう言って話しかけてくる大男を、016は何も言わずに横目で見る。


「にーちゃんは連れとどこ行くんだい?」


男の質問に、


「……遠く…」


と、水の中の自分の手を見ながら016は答える。


「……そうかい」


その後はしばらくの沈黙の間…と言っても向こうは騒がしいのだけれど、その間2人は少し心を許しあえた気がした。


「……にーちゃん、女を裏切っちゃダメだぜ」


その沈黙がずっと続くと思われた矢先、男がそう言った。


「……」


016は不思議そうに見上げてから、やがて彼の言いたいことを理解したのか目を細めて笑う。


「……あぁ…」


*


『僕はあの子を守る為の旅をしてるんだ。裏切ったりなんか……何があっても守るつもりだ』


「……」


向こう側から聞こえる声に、幸が黙り込んでいると、


「ヒュー♡」


…と、隣に居た少女に茶化されて、幸はブクブクと隠れるようにお湯の中に逃げた。


*


『マントちゃんが溺れたーっ!』


「!!」


幸が沈んで行ったのを叫んだ少女に、016は慌てるようにザバッと立ち上がり、バタバタと慌てて脱衣所まで向かった。


「あっ、おいにーちゃん!走ると危な…」


男は注意しようと声を張り上げるが、先の016の言葉……『何があっても守る』という言葉を思い出して、静かに呟いた。


「……頑張れよ、にーちゃん」



***



あの後、本当にのぼせてしまった幸は浴衣を着せられ、自室で大の字になって寝転がされて居た。


「……」


まだ冷め切らず頬も赤いままだったが、幸はぼーっとしながらゆっくり起き上がる。


『何があっても守るつもりだ』


「わっ!」


その時、幸の頭の中にさっきの016の言葉が聞こえて、幸は驚いたように大きな声を出す。


「わっ…」


それに、目の前で幸が起き上がるのを見ていた016も驚いて同じように声を出す。


「……」


2人は目を見開きながらしばらく無言で見つめ合う。


(びっ……くりしたー…)


本気で驚いて逆に顔が固まる016。


(……あれ、何でだろ…)


その間、幸は混乱していた。


(別に守って貰いたく無いのに…)


「……大丈夫?」


『何があっても守るつもりだ』


幸は016の声が聞こえないくらいに、またあの言葉を思い出す。


「…聞いてる?」


(何でさっき、あの言葉が頭にかえってきたんだろ……)


「ねぇ!」

「!」


016が拗ねた子供のような声で呼んで、やっと幸は016の方を見る。


「大丈夫なの?」

「えっ……うん」


まだ上の空のような幸に、016は小さくため息をついて、


「明日も歩くんだから、早く寝ちゃいな」


と言った。


「うん。……君は?」

「僕はちょっと聞く事。すぐ終わるから、…消すよ?」

「あぁ……おやすみ」

「ん、おやすみ」


そう言って、前幸がやったように、016は部屋の電気を消した。

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