第29話 面倒

 馬鹿な傲慢姫から逃げ出し、3人は無事にアメリア皇国の国境に街に差し掛かってきた。

 修行により常人のそれとは比べ物にならないくらいの速度で移動できる事で、道中はお決まりの盗賊イベントもなく平和な時を過ごした。


 国境付近の街といっても、ユーラ共和国はこの大陸から離れた島のため、ここから交易船に乗り込み入国する必要があるらしい。


 ってことで、新鮮な海の幸を堪能すべく、まずは街にはいるための検問の順番待ちだ。

 やはり商人が多いようで、周囲の会話をそれとなく聞いてると、やれ物価が高いや流行りはコレだ的な会話が多い。


「次!」


「Aランクハンターのライムです。これがカードです。他2名もハンターです」


「ほう。Aランクか。問題ないだろう。ただし問題を起こすなよ?」


「わかりました。ありがとうございます」


「ハンターにしては行儀がいいな。では通ってよし」


 門を通って街に入ると、とんでもなく活気に溢れた雰囲気に驚いた。

 恐らくメインの通りであろう道に、左右露店が立ち並び、そこに多くの人々が往来している。城壁の外からはわからなかったが、街のサイズも皇都に負けず劣らずの規模に思える。


「にいちゃん! 他所から来たのか? 名物の串焼き食べてみな!」


「いいね。いくらだ?」


「おっ! 1本銅貨3枚だよ」


「じゃー3本くれ。銀貨1枚ね」

 

「ありがとね! ほい! 釣りと串3本ね」


「ありがとよ。ほらお前たちも食べるだろ?」


「むー。エルフはお肉食べないのよ」


「あっ! 忘れてた。出店で野菜だけの物って少ないかもな。まぁーとにかく宿の確保とユーラ共和国に渡る船の情報が必要だな。何やら面倒って言ってたし」


「そうですね。私達だけでハンター組合で情報を仕入れて来ますので、ライム様は組合前でお待ちください。トラブル回避です」


「ハンター組合は確かに情報を待っているだろな。トラブルは俺のせいじゃないのになー。まぁいいや。外で待ってるよ」


「お任せください」


 前回ハンター組合に行った時も、ハンターカードに何か書かれていたようだし、さらに先日の話も追記されてるだろう。

 うーん。俺ってハンター組合をもうすぐクビになるかもな。それはそれで、世界を旅するには不便になりそうだ。


「お待たせなのよ」


「あれ?エリフィスは?」


「お姉ちゃんは、裏にある訓練所で喧嘩してるのよ」


「え? なんで? いつも冷静なエリフィスがどうして喧嘩なんか」


「いつもの事だけど、変なハンターが声を掛けてきて、いつものように無視してたのよ。そしたらカードを盗み見たのか、オリンポス王国登録ってバレて、馬鹿にされたのよ。で、お姉ちゃんがキレて決闘を申し込んだのよ。条件は、ハンター引退と、あっちは奴隷なのよ」


「よくそんな状況で、1人で出てきたな」


「あんなクソ雑魚に負けるわけがないのよ」


「とはいえ、見に行かないとズルされるかもしれないだろ」


「それなら全員やっちゃえばいいのよ」


「エルフって案外武闘派なんだな」


「こだわりが強いだけなのよ」


「そうか。じゃーとりあえず行くか」


 ハンター組合に入ると、受付も含めて誰もいないから、そのまま奥の訓練所がある場所に向かう。


「これじゃー賭けにならねーよ! 誰かエルフに賭けやがれよ」


 どうやら賭け事に発展しているようだし、せっかくだから乗ってやろう


「俺がエルフに金貨100枚賭けてやろう」


「あーん? 金貨100枚なんて、逆に賭けが成立しねーよ」


「なら、金額はそのままで総取りでどうだ?」


「え? 本気で言ってんのか? いいぜ! のった! おい! テメーら! 物好きがエルフに金貨100枚賭けたぞ! 総取りだ。最低金貨1枚で、山分けだー!」


 儲かると踏んだのか、えらく盛り上がって金貨が飛び交う。このままだと無駄に儲かりそうだな。勝った分はエリフィスに分けてやろう。


「では、今から決闘を始める! エルフが負ければ、バズの奴隷。反対にバズが負ければハンターを引退とする。殺しは反則負けとなる。戦い方や武器は自由だ。双方よいか?」


 ハンター組合の人間がこの決闘を仕切ってるようだが、組合としてこれでいいのかな?


「問題ありません」


「ひひひ。問題なーし」


「では、初め!!」


 バズって名前のハンターが、魔法を唱えようとしている。

 と言うか、魔法を唱えるだけで隙だらけになる奴がどうやってエリフィスに勝とうと思ったのか。

 エリフィスはあえて無魔法で身体を強化し、ゆっくり前に進んでいく。


「くらえ! 《ファイアボール》」


 バーンとエリフィスに被弾する。

会場全体の雰囲気が、やった! となったのも束の間、巻き上がった砂埃から、何もなかったように、ゆっくり歩いているエリフィスを見て、バズ含めて全員が、ギョッとなる。


「ライム様に習って、両手とお別れしてもらいましょう」


 俺と同じことしなくていいのに、と思った瞬間には両手ではなく、両腕が宙を舞う。


「す、ストーーーップ!」


「あら。邪魔しないで貰えますか? まだ降参してませんよ?」


「これ以上やると死ぬ可能性がある!」


「そうですか。ではハンター組合退会の手続きを取って貰えますか?」


「ぐっ。ちょっと待ってくれ。まずは治療が先だ。それについては後程話し合いをする」


「話し合いも何も退会は確定事項です。治療は好きにやってください」


「おい! 治療を急げ!」


 ハンター組合の人間がバタバタと落ちた腕を拾い、泣き喚くバズを連れ出す。


「で、賭け金を貰おうか?」


「けっ。ほらよ。バズの奴しくじりやがって」


 ポンと金貨が入った袋を渡してくる。

倍にはならなかったが、50枚は入っていそうだ。


「ありがとよ。では俺はこれで」


「横にいるのもエルフか。お前達は一体何者だ?」


「Aランクのハンターだ。あまり見た目で判断しない方が身の為だぞ。なんなら俺と決闘でもやるか?」


「なんだよ。バズの奴もハズレくじを引いたもんだ。腕を斬られてハンター休業だな」


「休業どころか退会が決まっただろう?」


「へっ。それはどうかな? この街の組合は余所者にはわからない絆があるのさ」


「へー。絆ね。話し合いとやらに参加しとくか」


「余所者は余所者らしく、あまり首を突っ込まない方がいいぜ?」


「相手の力量を見抜けない人間は、早死にするぞ? 儲けさせてもらったし、柄にもなくアドバイスしておいてやる。じゃーな」


「そうかよ。じゃーな」



「エリフィスには珍しく怒ってたな?」


「私はライム様に助けて頂きました。人種はエルフですが、ライム様が大事にされている家族の国、オリンポス王国を馬鹿にされると我慢なりません」


「そう言われると嬉しいな。けど、無茶はするなよ。まだレベル100を超えた程度だ。世の中にはそれなりに強い奴もいる」


「ですね。レベル100をその程度扱いをされるのはライム様だけでしょうが、気をつけます」


「それもそうか。では組合長との話し合いに行くか? 俺も行くよ」


「はい。ありがとうございます」


 組合の受付に連れられ、エリフィスを先頭に、組合長の部屋に入る。


「そこに座ってくれ。うん? 3人なのか?」


「このライム様が私達の代表です。交渉はありえませんが、話があるならライム様とお願いします」


「む。そうか。では早速だが、バズの退会を取りやめて貰えないか? もちろん金銭で済むなら交渉に応じる」


「そうか。なら金貨1万枚なら応じてやろう」


「おん? 聞き間違いか? 金貨1万枚だと?」


「聞こえてるじゃないか。払うのか?」


「小僧が生意気な事を言うと怪我するぞ? この街のハンターは結束が固くてな。悪い事は言わない。金貨10枚でサインしておけ」


「頭悪い奴がいるもんだな。街中で俺達にハンターが手を出すなんて犯罪だろ? その場合は全員殺しても問題なしだ。逆に死にたいのか?」


「ほう。剛気なことだ。お前もハンターなんだろ? 見たところBランクってとこか?」


「どちらにせよ。交渉は決裂か? とはいえ退会については契約している。どうするんだ?」


「はっ。今は治療中だ。契約は成立する。居なくなれば無効だな」


 めちゃくちゃ直球で恐喝してくる。

ほんとハンター組合って大丈夫か? こんなのを見ると俺の領でやったことは間違いなかったと自分を褒めたいよ。


「そうか。好きにしろ。この街にハンターが居なくなると国は困るだろうな」


「街の領主とも組合は、上手くやってんだよ。もう引き返せないぜ?」


「ライム様申し訳ございません。私が責任を待って全滅させておきます」


「小娘が調子にのりおって!」


「なぁー組合長さんよ。だったら合法的に3人対この街のハンター全員で今から決闘をしようぜ? 条件は死ぬまで。生かすかどうかの判断は相手側と合意した場合のみとする。俺たちが負けた場合の条件は好きにつければいい。俺たちが勝った場合はそうだな。うーん。何かあるか?」


「金貨100万枚とかにすればいいのよ」


「それはいいな。ハンター組合との契約だしな。それでどうだ?」


「とことん舐めやがって! いいだろう! それで契約書を作る。開始は今から1時間後だ!」


「わかった。じゃーそれまでに宿を予約するか」


「はんっ。生きて帰れるつもりか。早く行け」


「へいへい。じゃー行くか? てか、組合長からもおすすめの飯屋聞いた?」


「だまれー! 早く行け!」


「大丈夫なのよ。ちゃんと色々聞いたのよ」


「そうか。ファリスが言うなら大丈夫そうだな」


「へへへ」


 まるで何も無かったような感じで部屋を出る3人組を見て、組合長は一抹の不安を感じたが、元Sランクであった事から気のせいだと気を紛らわせて準備に取り掛かった。

 それが命運を分けた判断だったと後から後悔する事になるのだが。


「案外いい宿だな。港町らしく旅館のような感じだ」


「旅館ってなんなのよ?」


「うん? まぁこんな感じの建物の事だ」


「ふーん」


「ってか、エルフは魚食べていいの?」


「もちろん問題ないのよ」


「それはよかった。間違いなく旨いはず」


「楽しみでお腹減ったのよ」


「あっその前に悪いけど、ちょっと準備したい物があるから手伝ってくれる?」


「いいですよ」





「もうそろそろ行かないと約束の時間になりますね」


「じゃーぼちぼち行くか」





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