第28話 やりすぎゴメン
「お待たせ致しました。いや素晴らしい武力をお持ちでいらっしゃる。対戦した皇国の戦士も100位以内には入る実力者であったのですが、随分と侮っていたようでお恥ずかしい」
「ありがとうございます。それなりの使い手だったと思いますが、皇国の100位以内であればウチの人間と戦ったとしても難しいでしょうね」
「え? ランサード領の戦士は、今回の皇国戦士に勝てると?」
「そうですね。ウチの領でも100番目って所じゃーないですか?」
「ほほほほ。そ、そうですか。と、所で、今御触書をしたためている所ですが、本件を知った我が国の姫がランサード子爵殿に強い興味を持ったようでして、大変ご迷惑と思いますが、皇国にいる間、ご一緒させて頂けませんか?」
「え? それは無理ですね。一国の姫を同行させるなんてトラブルの匂いしかしませんし」
「いえいえ。もちろん移動や宿は別行動としまして、その責任も一切問いません。皇国も大国の一つ、癖の強い領主もいますし、その辺りを姫が同行することで、逆にトラブルを避ける目的も兼ねております。ランサード子爵殿は、世界を旅するとおっしゃられてましたが、アメリア皇国の次はユーラ共和国に行かれるのでしょう? ユーラ共和国の入国の際も、姫がいる事で非常にスムーズに入る事ができます」
「ユーラ共和国に入国するのは面倒なのですか?」
「それはもう。国民性はとにかく商売がベースとなり、商売とは信用が第一。初見で入国するには長くて2週間かかったと聞き及んでおります」
「へー。それは面倒ですね」
「またユーラ共和国に向かう過程で、皇国の名所と言われる場所も多くあります。是非とも姫様のご同行をお願いします」
「なぜそこまでして、お、私に良くしてくれるのですか?」
「いや。正直、ランサード子爵殿の知力と武力を目の当たりにして、少しでも仲良くさせて頂きたいと思った次第です」
まぁーこれに嘘は無いだろう。が、姫と俺を引っ付ける作戦も考えていそうだな。
けど、面倒が嫌いだし、メリットも大きいか。
「わかりました。とは言え、今日の宿を皇都で予約してません。ですから、移動してしまおうかと考えてましたが、準備は間に合いますか?」
「き、今日ですか、、今日は流石に間に合いませんが、明日であれば間違いなく大丈夫です。その代わりに私が本日の宿を予約致しますので、いかがですか?」
「であれば、遠慮なく」
「ランサード子爵が昨晩泊まられていました宿を同条件で予約しておきます。明日は本日と同時間にお迎えにあがります」
「わかりました。では宜しくお願いします」
◇
◇
◇
「でね。皇都には、美味しいスイーツがあるのよ」
「そうか。てか聞いてる? もう一泊する事と、姫が同行する話」
「ファリス! ライム様。私は聞いております。ライム様が決められたなら、私達は全く問題ありません」
「そうなのよ」
「そっか。なら、夕食までゆっくりしといてくれ。俺は皇都を散策してくる」
「わかりました」
美味い夕食の為につまみ食いは出来ないけど、街並みを見るのも楽しいし、街の人は活気があっていい。
恐らく遠くから監視されているだろう気配を感じるが、それはどこでも同じだろう。
「おやめください!」
急に大きな声が聞こえた方向を見ると、神父のような服装の男が、若い女の手を引っ張って連れ出そうとしている。
「お前は神の契約に基づき、神の奴隷として身を捧げるのだ」
「お父さんを騙して契約を結ばせて、こんな事、、ひどい! 誰か助けて!」
「神の契約は絶対。冒涜は許しませんよ」
「初めから騙すつもりだったのね? なにが神よ!」
「えーい! 神兵よ。この罪人を捕えよ!」
面倒そうだから、無視無視。
ってか、神兵? なんだそれ。
「なんだ貴様!」
「お姉ちゃんを離せ! 神の名を語る詐欺師め!」
まだ15歳に満たない恐らく女の弟が神兵の前に立つ。その子供に対して剣を抜く。
「あーーーーーー!」
面倒嫌いのはずが、助けたい気持ちと心で戦った結果。大きな声を出してしまった。
「なんだ貴様は! 我らの邪魔をするか!」
「ってか、お前たちって何教?」
思わず、なに中? 的な感覚で聞いてしまった。
「世界の唯一神を奉るバーゼズ教を知らぬと申すか!」
「知らん。俺はオリンポス王国出身だが、そこでもバーゼズ教なのか?」
「当たり前だ! 各々教皇は違うが、バーゼズ神はこの世界の唯一の神様でおられる。って、それを知らないとは、オリンポス王国とは土民しかおらぬのか?」
神兵共々、オリンポス王国を笑う。
ちょっとむかついちゃったなー。
「じゃー。アメリア皇国のバーゼズ教は女一人を騙して、さらに子供に剣を抜く腐れ外道でも神を語る神父になれるのか?」
「な! なんと不敬な! そして神を冒涜するか! 不敬罪で叩き斬ってやる」
「あれ? この場合ってやり返して殺していいのかな? 他国の法律って難しいからな」
と、姉を守ろうとした弟君に聞いてみた。
「えっ? あの、貴族様や神父が、相手の罪を証明できれば問題ないけど、俺たちみたいな市民は、基本殺しは犯罪だけど、、」
「へー殺さなければいいのか?」
「僕の知ってる限り、やり返した人がいないから、、」
「それもそうか。じゃー俺が他国の貴族の場合は?」
「え? そうなのですか? 聞いたこともないですし、益々わかりません」
「だよな。なぁーそこの生臭神父。俺は他国の貴族だけど、やり返してもいいかな?」
「な! なに! 戯言を! 他国の貴族がこの様な状況で首を突っ込むはずがなかろう! 大人しく死ね!」
「たしかに、、じゃー殺すのは勘弁してやろう。それなら明日、姫とやらが上手くやるだろう」
と、言った瞬間、ライムを攻撃しようとした神兵の腕が飛んだ。
観衆は、驚きを超えて口を開けて、飛んだ腕の行方を見ている。ドサっと地面に腕が落ちた時、神兵共々、全員が悲鳴をあげた。
「「「「ぎゃーーーーーー」」」」
「で、そこの神父、女から事情を聞く。その間、少しでも動いたら足を斬り落とすから」
「ひっ!」
「で、そこの女、事情を聞きたいが話せるか?」
「ひっ! はっはい! えと、あの、」
「落ち着いて話せ」
「は、はい」
事情を聞くと、父親が病気で治療のための薬剤や魔法を治る前提で神父から受けた。その対価として、ハンターとしてCランクだった父親は高額な治療費を月賦で払う契約をした。保証人として娘を設定したのだが、一時的に治った父親は、すぐに全く同じ病状で病が再発した。
よって稼ぎが無くなり、支払いが一度出来なかった。その翌日にこのような事になったらしい。
ここで難しい事は、完治したか否かの判断がつかない。が、恐らく故意であると思われる。 理由はこの娘は一般的には美人であるから、それを狙っての事だろう。
「なるほど、おい神父。お前は完治の契約をしたのだろう?」
「か、完治などの契約はしておらん! あくまで治療だ! 実際一時的に治ったであろう! 再発したのは我々には関係のないことだ!」
「契約ではそうだな。しかし神を語る神父が一時的な契約をする。良心に逆らい、逆に人を欺く契約を巻くとは恐れ入ったな。
まさかアメリア皇国として、この事を放置しないだろう。もし加担してるならば、俺なら国を見限るな」
と、俺を監視する暗部に目線を送る。
その時、騎士団と思わしき集団が馬に乗って駆けつけてくる。
「ランサード子爵殿! これはいったい・・・・・・」
例の騎士団の人達だ。
「ありゃ。何度も申し訳ないが、詳しくはあそこにいる暗部に聞いてくれ。その結果の返答次第では、俺は今すぐこの国を出る。少なくともそこの神父は余罪があるはずだ。時間が必要なら俺がここで断罪してやる」
「なっ! す、少し待たれい!」
神兵と言われる奴らは、なんとかヒールで止血出来たようだ。恐怖で震えているが。
「ランサード子爵殿! 詳細は確認した。ここは騎士団にて厳正な取り調べを行う故、預からせて貰えないか?」
「構わないが、今回のそこの娘と神父の契約については、今ここで破棄させろ。国とグルの可能性もあるから、安心できん。領民もこの件はしっかり見ているぞ? 国としてバーゼズ教の悪事を放置した結果は、この領民の目をみる通りだ」
「どうやらその通りのようですね。皆のもの聞け! お前達が納得する調査および結果を騎士団として約束しよう」
よっぽど不満があったようで大歓声が上がった。この姉弟は抱き合いながら、涙を流していた。こっそり父親用に神水を渡した事は秘密だ。恐らく生涯秘密にしてくれるだろう。
◇
◇
◇
「やっぱり1人で行動されるとトラブルが舞い込みます。これを想定して大丈夫ですかと質問しました」
「仕方ないだろう? 俺もギリギリまで面倒事を回避しようと思ったんだが、オリンポス王国を馬鹿にしやがったから」
「ライムお兄ちゃん。全員殺したのよ?」
「この国に来て2日目だし、前回の事があるから、神兵の腕を全員斬ってきた」
「甘いのよ。恩あるオリンポス王国を馬鹿にされて黙ってられないのよ」
「こら! ファリス。私も気持ちは一緒だけど、無闇に殺してはダメ」
「むー。無闇じゃないのよ。ライムお兄ちゃんの国なのよ」
「ファリスありがとう。けど、俺がヤるから心配するな」
「はぁー。これって良いのかな?」
「気にするな。明日姫ってのが来るし、面倒なら対応させとけばいいさ」
「姫の扱いがひどい」
◇
◇
◇
「ランサード子爵殿。お待たせ致しました」
「あれ? 騎士団の。ってか今更だけど呼びにくいし、名前を教えてもらっていいか?」
「これはこれは、お聞きいただき光栄です。質問されるまで意地でも名乗るまいと思っておりました。アメリア皇国騎士団副団長ボーレロと申します」
「すまない。出会いが最悪だったから、、改めて俺はライム・ランサードだ」
「ランサード子爵殿、改めて姫様の護衛を取りまとめさせていただきますので、我が国に滞在中は宜しくお願い致します。して、先日の神父の件ですが、多くの罪を重ねたと白状しましたので、死罪となりました。もちろん違法な契約により犠牲者も調査を進めた上で、国の威信をかけて救助する所存です」
「うん。それがいいと思う。中々やるね。ボーレロさん」
「ランサード子爵殿に褒められるのは、これは嬉しいものですね。しかし私もアメリア皇国の領民の一人として、本件は良いキッカケを頂いたと思う。個人的に御礼を言わせて頂きます」
「ボーレロさんと話してると、ほんの少しアメリア皇国を好きになるよ」
「はははっ。私もランサード子爵殿のような方おられるオリンポス王国に非常に興味があります。いつか行ってみたいですね」
「いつでも歓迎するよ」
「光栄でございます。今、準備が整ったようでございます。では改めまして、皇国の第8皇女のリリアナ・アメリア殿下でございます」
「どうも初めまして皇国第8皇女リリアナです」
超絶愛想が悪い女がきた。
チェンジ可能なのかな? ボーレロさんを見ても、苦々しい顔をしている。
「どうも初めまして。ライム・ランサードです」
「今回は宰相のたってのお願いで、其方を案内する事となった。本来ワタクシのような皇女がこのような業務につく事はないが、よっぽど上手く宰相に取り入ったようですね」
「ふー。面倒だな」
「はて。何か言いましたか?」
「面倒だと言った。皇女か何か知らないが、別に俺は頼んで無いし、やる気がないなら帰れ」
「へ?」
「リリアナ姫! だから何度も説明を受けたでしょう!?」
「こ、この無礼者! ワタクシの慈悲を「姫!」」
「ボーレロさん。悪いけど、この性格ブスは連れて帰ってくれないか?」
「ランサード子爵殿! 今しばしチャンスを!」
「かまわないけど、無理じゃないかな?」
「先程から何を言ってますの? 少々力があるようですが、とても皇国にとって必要な人材とは思えません。ましてやワタクシの伴侶など、とてもとても」
「姫。ハッキリ申し上げますが、宰相がおっしゃられた事を、守らなければ姫が皇国を追放される可能性が高いと思われますが、今一度態度を改めて頂けませんか?」
「ワタクシを追放? 姫であるワタクシよりこの男の方が大事と言うのですか!」
「ボーレロさん。悪い。行くわ!」
何やら後ろから声が聞こえるが、全力のスピードで逃げ出した。
後のことは、知らない。
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