第23話 天災

 半分以上は回収したはずなんだが、結構の数が押し寄せてきている。


「ほれ次が来たぞ。頑張って戦えよ。お前達が蒔いた種だ」


 新たな奴隷はで、戦わされている。文句でも言うもんなら、一瞬で見殺しにされそうな雰囲気に黙って戦っている。


「お館様! この村より南に5キロ付近に恐らく500体ほどの魔物の群れが直接ランサードの街に向かって暴走しているようです」


「わかった。すぐに向かう。お前達はこっちを頼んだ」


「はっ!」


 すぐさま霧化して移動すると、大きな魔法の爆発音がする。


「ぐあー!」


《エリアヒーリング》


「おっお館様! 申し訳ごさいません。我らでは止められず」


「大丈夫。急いで下がって」


 《濃霧》《氷霧》

 

 広範囲に広げた霧を一瞬で凍らせて前線の魔物は動きを止めた。

 しかし、その屍を乗り越えて理性を無くした魔物が突進してくる。


《濃霧》《氷霧》


 神の庭の中層あたりの魔物だけあって、多少の耐性がある魔物や火を吐く魔物などは、その勢いから、俺を無視して街の方へ突進していく。正直今はその魔物を構っている暇はない。


《雷霧》


 多くの魔力を込めて、殺傷力を意識するが、やはり発動に時間を要すため勢いを止められない。霧スキル一辺倒だった戦い方が通用しない。魔法の使い方の練習をサボったツケがきている。


「ライム! お主が後に晒した魔物は、このザッツに任せよ!」


「ザッツさん! 助かります!」


 これでとにかく《氷霧》で数を減らし、負傷させるだけで一旦防げると判断した。


 《氷霧》《氷霧》《氷霧》《氷霧》


「はぁ。はぁ。流石に全力の氷霧連発はキツイ。でも、後は」


 ギギギギギャーーーー!


 昔住んでた森の泉でも一度しか会わなかった魔物。あの時は隙をついて雷霧を放つことで、隠れながら戦えたから勝てたけど、今の状態で、真正面から戦うと不利だ。

 だって、本物のドラゴンだもん。いわゆる西洋の神話に出てくる巨大なサイズ。


 目が合った瞬間に口から灼熱の炎を放ってくる。


《濃霧》《氷霧》


 周辺の霧は一瞬で巻き上げられ、氷霧は炎を止められない。霧化で交わす事もできないため、己の身体能力で物理的に躱す。


「真正面は部が悪い。視界を遮って戦うしかないな」


《濃霧》《濃霧》《濃霧》


 辺り一面が濃霧に包まれるが、口からでる炎で水分が蒸発し、蜃気楼のようだ。


「くそ! 《雷霧》」


 会心の一撃とはならなかったが、それなりにダメージを受けたようだ。翼と左足が炭化している。


 その時、バシュっという音と共にが吹っ飛んだ!


「がっ!」


 どうやらウィンドウカッターだろう。

普通に考えてドラゴンは飛ぶ。あの巨体を飛ばすには風魔法有きが当たり前だろう。


 恐ろしい数のウィンドウカッターが飛んできた。正確には見えないけど、空間の歪みが見える。


「や、やばっ」


《アースウォール》


 思わず唱えた土魔法のアースウォールは、それなりに魔力を込めた為、半分以上を残して耐えた。


《濃霧》《氷霧》


 アースウォールで俺を見失ったはずだから、一旦、霧化で反対に移動する。

 そこで落ち着いて、


《雷霧》


 辺り一面に雷が落ちる。その力はドラゴンの鉄壁の鱗すら貫通する。ドラゴンは全身を真っ黒に染め、無言で倒れた。


「倒せたな。あっ! いてーーーー」


 自分で自分の腕を持って引っ付ける治療は思ったより痛い。本当は通過させた魔物や森近くの村も心配だが、血を失い過ぎたのと魔力が底をつきかけているのか、力が入らない。


「お館様!」


「ライム。よくやった!」


「いやー。もっと行けるかと思ったけど、今のままだと難しいと改めて知りました。そういえばゼットさんにお願いしてる魔法の講師。まだかな?」


「何を言っておる。高ランクの魔物をあれだけの数と戦い、トドメに伝説級のドラゴンと来た。吾輩はあの戦いを間近で見れただけで孫子の代まで自慢できるわい」


「俺的には不甲斐ないですが、それより村に行かないと」


「お館様。すでに氾濫は収まった様子。警戒は継続中ですが、最後の方はドラゴンから逃げてきた魔物が大半だったようです」


「そうか。なら俺は少し休むと言いたい所だが、死傷者は?」


「全員無事です。多少怪我をした部下もいますが、こちらで対処可能です」


「そうか。ザッツさん達はいかがですか?」


「同じく問題ない。ゆっくり休むがよい」


「ザッツさん。お礼の件については後日」


「家族に要らぬ気を使うでない。では吾輩達はキュロス領に戻ることとする」


「ありがとうございました。キュロス騎士団に敬礼」



 「ザッツ。ご苦労だった。してどうだった?」

 

「はっ。恐ろしい数の高ランクの魔物が押し寄せましたが、ライムが殆ど討伐し更には伝説のドラゴンとの一騎打ちは痺れましたぞ」


「ど、ドラゴン!? 勝った。そうか勝ったのだな。しかし今回はライムでなければとんでもない被害があったと想定できる。ハンター組合には責任をとってもらう」


「ですな。そのハンター組合とトラブルになった原因が魔物予備軍の登録でしたが、今回の氾濫で騎士団200名、魔物予備軍500名によって、一般市民に一切の被害がありませんでした。この際、この仕組みを取り入れることは我が国にとっては最良かもしれませんぞ」


「ほう。所属する街に滞在するハンターは街が魔物の脅威に晒された場合は戦闘などに参加する必要がある制度だな? 恩恵もしっかりしているし、両方登録可能だ。あとはハンター組合の問題か。。うむ。ザッツの意見も合わせて王陛下に報告しよう」


 早速、ゼットはアーサー王に連絡機で連絡する。


「あーテステス」


「ゼットか? 聞こえておるが、そのテステスとは、なんだ?」


「これはアーサー王陛下。ゼットにございます」


「ゼットよ。連絡機でそれほど畏まられても話が進まん。あくまでも急ぎだけだ。早く要件を話せ」


「これは失礼を。ではご説明いたします」


 〜 説明中 〜


「ほう。ハンター組合からライムの件で相談があったが無視しておった結果が、そのような暴挙を行うとは、直ぐ様捕らえてやろう。で、お前の言う魔物予備軍を受け入れさせれば良いのだな? 交渉時はお前も来い。それにしてもライムはドラゴンを倒したか」


「はっ。左腕を失いながらですから、かなり苦戦したかと」


「なっ! 左腕を?!」


「あっ。ご心配なさらず。ライムは自分で治せますので」


「なんと。。もうライムの件はよいわ。しかしドラゴンを倒した実績で、とりあえず子爵にでもしておくか?」


「ですな。これを他国に周知し警告もかねましょう。恐らくハンター組合へも事実確認が入るとおもいますが、今回は目撃者が多いので問題ありません」


「ガイア帝国から動きがあれば、面白くなるぞ?」


「アーサー王。それはそうとライムからの相談がありまして」


 ライムの魔法講師の依頼を王へ丸振りして、ゼットは連絡機を切った。


「ふぅ。ライムも無理をし過ぎているようだな。しかし今は頑張って貰おう。国力を上げねばならん」




「ライム様。負傷されたとお聞きしました。このザマス、それを聞いた時、心の臓が止まるかと思いましたぞ」


「いや。油断した訳じゃないが、やっぱりドラゴンはそれなりに強いって事だよ。でも次は魔法を鍛えて、攻撃の種類を増やすから問題ないよ」


「してドラゴンの亡骸はいかがなさるつもりで?」


「あーこれは王家に献上して、まだ内緒だけど褒賞として子爵に上がるみたいだ」


「それはそれはおめでとうございます!」


「ありがとう。で、改めて魔物予備軍の有効性は証明できたようだし、領民からの支持も期待できるな」


「それはもう。領民はランサード男爵に陶酔しております。お祭り騒ぎです」


「そうか。しかしまた同じ事が起こる可能性がある。引き続き隠密部隊と騎士団の強化。そして数を増やせるように予算を組んでくれ。今回の褒賞や魔物の販売で財政は問題ないでしょ?」


「それは全く問題ありません。ではそのように手配致します」


 目標は騎士団で500名、予備軍1000名、隠密部隊で100名だな。

伯爵以上になると王国軍を常駐される必要がある。規模にもよるが、今の領地だけでは賄えないだろう。


 さて、今回問題になったハンター組合のデスキー統括は、恐らしいスピードで捕獲された。

元Sランクハンターだったので、抵抗を想定して王国近衛隊、別名王国十志じゅうしの一人サルマンが出陣し、一撃で腕を、捕えたとのこと。

 デスキーには会った事ないけど、スカッとした。もし普通に捕まってたら俺がやりに行く程度には腹が立っているしね。そのサルマンさんにお礼でもしたいよ。

 



「たのもーー」


「はやくあけなさーい」


 お礼を受けるためなのか。王国十志おうこくじゅうけんの2人がランサード男爵領に乗り込んできた。

 そう。アーサー王は俺の剣の講師と魔法の講師をよこしてくれた訳だが。。


 隠密部隊の屋敷護衛担当が全員。みんなレベル100なんだけど、、

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