第22話 ある日の事件

 少し時は経ち、領地経営もぼちぼち落ち着いてきたある日の朝、事件が起こった。


 この事件説明の前に、ランサード領はバンス商会が支店を出して、例の馬車の揺れを緩和する部品の開発に成功し、試作第一号を王家に献上する事で、爆発的な注文を受注することになる。当然高額であるため税収と個人的に手数料がはいるので、ライム自身はホクホクだった。

 さらに王家御用達のバンス商会がランサード領に支店を出した事で、シルド商会と組ませるだけで、魔物予備軍としての特典としても機能してきた。その為予備軍の登録数が大幅に増えた。それ以外にもランサード隠密部隊が密かに行動し全員がとんでもなく強く嘘か誠か全てのメンバーがレベル100と言う噂がある。もちろんワザと漏らしているわけだが。

 そんな事もあってか既に300人のハンターが魔物予備軍に登録している。

 勿論ハンター組合と両方に登録されている状況だ。


 そう、その事件とはハンター組合と予備軍登録者との小競り合いである。




 「で、シルド組合長。俺が把握している状況は、ハンターと予備軍ハンターとかなり大きな小競り合いが起きて、領民に怪我人が出ているとある。どのように処理するつもりかな?」


「ランサード男爵閣下。我々も諌めてはおりますが、やはり最初から無理があったのです。ハンター組合の人間として予備軍に登録することは裏切りに感じるようでして」


「ほう。予備軍は我がランサード領を守るための人員である事を知っていて、裏切りと感じるならば、ハンター組合は国や領主を軽く考えていると言うことか?」


「い、いえ! 我々は充分に理解しておりますが、ハンター組合員にもプライドや矜持がございまして、更に血の気の多い人間も多い者ですから」


「国や領地を守る人間に、ハンター組合員のプライドや矜持がどのような影響があるの?」


「ですから、そういった権力に縛られない自由と言いますか、自らの力で生活している自負と言いますか」


「なるほど、勿論多少は理解できるよ。ても、それならばここから出ていけば良くない?」


「統括が反対した理由でもありますが、前例が出来ますと、領地や国の垣根を超えて、それが基本ルールになる可能性が」


「であれば、ハンター組合で国でも作ればいいと思うけど? でもそれならそれで守るべき住む場所、引いては国を守る必要性が出来るよね? 同じだろ? 自由は担保する代わりに生活する場所を守る契約は本来普通の考えだと思わないのか?」


「そ、そうおっしゃいましても」


「いずれにしても騒ぎを起こした人間は捕らえているわけだし、俺自ら断罪してやろう」


「で、ですからその件でランサード男爵閣下にお慈悲のお願いに参らせて頂いております」


「お前が来て何の価値がある。俺は何度か機会を与えたぞ。断罪することで、この領地からハンターが居なくなったとしても全く問題ないし」


「ランサード男爵閣下! それは必ず後悔されますぞ!」


「なんで? やっぱりお前は勘違いしているようだな。不敬罪だ。壱こいつを捕えろ」


「なっ! やむを得ませんな。抵抗させて頂きます」


「やってみろ」


 シルドは元Aランクのハンターだったようだか、一瞬で首筋に剣を当てられ瞬く間に捕えられた。呆然とするシルドに。


「だから勘違いと言ったんだ。その程度で力があると思い込むハンター組合など恐れに足りず。剣を抜いた事実は事実だ。不敬罪でお前も処罰してやろう」


「ご、ご慈悲を!」


「別に殺さないが、終身奴隷として予備軍で頑張ってくれ」


 ハンター組合の組合長が、意見の相違であろう事か領主に剣を抜いたを、領民に流布し騒ぎを起こした全員を処罰した。

 その罪は重く全員を犯罪奴隷とし、すぐさまランサード家で買取り、予備軍として活動させた。これには賛否両論あったが無慈悲な領主として恐怖の対象となり、多くのハンターが領地を離れた。

 しかし、かたや領民には奴隷にも平等に給金を渡し、業務以外は自由である事や税も比較的に低い事を支持されて、国や領民を思う良き領主であると評価は高いようだ。



【ハンター組合大陸本部】


「デスキー統括! 大変です。例のランサード領のリアル組合長が反逆罪等で捕えられ、犯罪奴隷となり即座にランサード家に買取られました!」


「なっなに! 最近男爵になったばかりの小僧がハンター組合に喧嘩売りやがったな!」


「しかしキュロス家の後ろ盾があると情報があります。また個人的にもかなりの実力者とも」


「だまれ! 俺様は元Sランクハンターだ。そんなことより、ランサードにいるハンター共を全員引き上がらせろ!」


「はい。そのように呼びかけておりますが、恐らく半数以上が残るかと。すでに生活拠点となっている事や、予備軍に入る事で恩恵が多いようです」

 

「オリンポス王国のアーサー王へ相談をすぐにしろ!」


「前回、相談の親書をお送りしましたが、自分で解決しろと突き放されましたので、難しいかと」


「どうなってる。くっこのままだと俺様の評価に響く。おいっアイツらを呼べ」


「奴らですか。。致し方ないかと思いますが、魔物の氾濫を意図的に起こしますと死罪ですよ」


「すでにお前も同罪だ。今更つべこべ言うな。それでハンター組合の重要性を再認識してもらう。それを俺様の慈悲で助けるストーリーで一石二鳥だな。いつも通り手配しておけ。対象はランサード領だ」



 俺は新しい産業の創出に頭を悩ませていた。

この世界は魔法や魔石がある事である程度利便性を担保できているんだよな。

 しかし例の娯楽品の開発などは、特許のような概念があまりない為、盗んだ者勝ちでもある。すでに馬車のショック部品も真似はされている。粗悪品が多いので今の所は大丈夫だが、いずれは完全に真似をされるだろう。


 そう言った意味では連絡機のような刻印スキルで方式を守秘できる魔道具が理想だが、軍事利用できる物だと、数が売れないから儲けが少ない。後はテレビと冷蔵庫ってか?

 

 と言っても、実は魔石の売買と神の庭の魔物によって、かなり安定した高額な収入が入っていた。それは隠密部隊に騎士団や新メンバーの育成のため無理のないレベリングを行っている為、結果的に安定供給となっている。

 隠密部隊にもある程度の予算を与えているため、メンバーの補充や特にを持つ奴隷を集めるように動き出している。100人位になれば、この大陸くらいは網羅出来るはず。


「お館様。森の中に怪しげな集団、恐らく高ランクのハンターが、所々にこれを設置して回っております。全て回収するように手配しておりますが、相手も中々の手練。気づかれずに全て回収するのは難しいかと」


「ザマス。これが何かわかるか?」


「何かの葉っぱと小さな魔石が付いた魔道具。爆弾では無さそうですが、申し訳ございません。少しお時間頂ければわかるかと」


「と言うか、明らかにハンター組合からの刺客だよね? 相手は何人?」


「10名です。しかし恐らくレベル80近いと思われます。鑑定は妨害されましたが動きを見てそう思いました」


「じゃー念の為、隠密部隊3班と俺で行こう。案内してくれ」


「はっ!」


 壱から睦までの6名が綺麗にひざまづいている。って必要だよね? 


「うん。面倒だから真正面から討伐する。もしやり手のハンターだと殺すの勿体無いから、殺さないようにね。でも基本は俺がやるから、逃げられないように見張ってるのと、設置した装置を回収して回ることを優先してくれ」


「はっ!」


 案の定、ハンター組合大陸本部のデスキー統括と散々裏で悪事を行なっていたハンター達がチームとなって、遠く離れた魔人の国から仕入れたを使って魔物を混乱させるために時限式の麻薬装置を設置していた。


「ったくよー。デスキー統括も毎回面倒な依頼してくるよなー」


「仕方ないじゃない。その代わりかなり優遇してもらってるし」


「俺なんて犯罪を何回も揉み消してもらってるしな」

 

「ここにいる奴は、似たり寄ったりってことだ。しかし新しく赴任したランサード男爵だっけ? ハンター組合に楯突くとは馬鹿な奴だな」


「でもこんな面倒な事しなくても私達で男爵やっちゃえばいいのに」


「たしかに。全員Sランクだろ? 男爵程度潰せるよな?」


「ハンター組合も流石に国とは揉めたくないだろ」


「うん? なんだか霧が深くなったな。神の庭でも中層に入るか入らないのギリギリでやってんのに不気味だな」


「おいおい。もっと濃くなってきた。こんなもんでいいだろ? 撤退しようぜ?」


「そうだな? うん?」


「なんだ。警戒したのが馬鹿らしいくらい雑魚だな。残りはお前だけだ」


「なっ? なんだテメー!」


 一瞬で手足が動かなくなり、猿轡をはめられる。すぐそこには10代に見える金髪の青年が冷たい目で見下ろしている。


「お前達如きが俺を、ランサード男爵を倒すだって? 100人居ても無理だよ」


 で、この世界というか少なくともオリンポス王国とガイア帝国も平民の罪に関しては領主の裁量に基本は任される。当然、貴族の罪に関しては王国になる。犯罪に関しては事後報告で王国に書類で提出し、そこに嘘や冤罪があれば逆に領主が罪に問われる。


「で、お前たちは犯罪奴隷となり今から契約を結ぶ訳だが、俺の指示は絶対となる。二重契約によって天罰は免れると思うが、いずれにしても恐らくハンター組合の統括からの指示だろう。奴隷の証言は証拠になりにくい。今のうちに証言すれば多少の配慮はしてやるがどうだ?」


「ふん。誰が言うかよ」


「だよな。で、この葉っぱと魔道具についても言うつもりが無いのか?」


「ないね」


「他もそうか?」


「・・・・・・」


「なら、奴隷にしてからお前達に待たした上で、神の庭に運んで実験してみようか」


「くっ。そんな事をしても無駄だぞ。魔物の興奮は止まらない」


「うん? 興奮?」


「あっ。やべ」


「なるほど、この魔道具で魔物を興奮や混乱を招く煙でも出すのか。その材料がこの葉っぱってことね。ザマス、こいつらの奴隷契約を頼む。隠密部隊は至急騎士団を連れて森近くの村の防衛にあたれ。俺はゼットさんにこの件を説明してから直ぐに向かう」


「「「はっ」」」


 ゼットさんに先に報告するために、連絡機を起動する。


「あー。テステス」


「おい。ライムか? テステスとはなんだ?」


「おー。早く気がつきましたね? テステスはテスト、試験って意味です。で、ちょっと不味い問題が起こりまして、王にも相談願いたいのですが、このまま少し説明しますね? 


 〜 説明 〜 


ってことで、ハンター組合大陸本部長のデスキー統括の身柄を押さえてほしいです。で、魔物の氾濫がどれくらいの規模になるか想像できませんので、キュロス騎士団の応援もお願いしたいと」


「わかった。デスキー統括の件と騎士団の派遣については任せてくれ。証拠の品はあるのだな?」


「大量にありますが、全て取り除けませんでしたので、、」


「わかった。では武運を祈る」


「ありがとうございます」









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