第20話 騎士団と裏団
この領地は森に隣接していることやダンジョンが多いため、ハンターがたくさん滞在する領地だ。だからそれに伴う店やホテルが沢山ある代わりに人的なトラブルも多い。
もちろん最低限の田畑を営む領民もいる訳だが、ハンター組合からの魔石販売による手数料収入が多いから、ハンター組合との協力は不可欠でもある。
「キュロス領のビルド組合長から話は聞いております。私はこのランサード領のハンター組合長のリアルと申します」
「うん。俺はライム・ランサード。就任早々色々助けて貰ってありがとう。これからも宜しく。で、早速だけど明日から騎士団の入団試験の件お願いするよ」
「はい。正直、いきなり騎士団の解散は驚きました。また一領民としましては、感謝致しております」
「かなり悪どい事をしてたようだし、本来であれば細かく調査して該当者は罰する所だけど、面倒なのであのような処置をした。その皺寄せはハンター組合に多少くるかもしれないが、すぐに安定できる目算だ」
「ですね。ゴロツキ共も静観しているようですし、逆に街は至って平和です。森付近の村に関してもランサード閣下のハンター手配によって安定しているようですし」
「まぁーゴロツキなんてのは、俺の目に入れば全員処罰対象だし、それは可能であるとキュロス領にいたゴローキ組だっけ? それを潰した情報は回っているようだしね」
「その話もお聞きしております」
「で、話は変わるけど、ハンター組合の活動についてだけど、ウチの領にかなりの数がいると思うんだけど、その数は把握してる?」
「数ですか。大体であれば約1000名程かと」
「なるほど、領民10000名に対して一割はハンターなんだ。それってほとんど他領出身だよね?」
「そうですね。ランサード領出身は100名程だと、他は家を賃貸したりホテル住まいのその日暮らしかと」
「うーん。有事の際に特に森からの魔物の氾濫が起こった際は、その辺りのハンターに防衛は任せれそう?」
「なるほど、それで行くと報酬によりますが、三分の一が残ればいいほうかと」
「ですよね。それじゃー困るんだけど、良い方法ないかな?」
「こればかりは我々組合も強制はできませんので」
「じゃー身を切る形になるけど、この領地で活動するハンターは魔物の氾濫のみの条件で、絶対参加の契約を全ハンターに言えないかな?」
「そう致しますと、かなりのハンターがこの街を出ると想定できますので、組合としましてはご協力致しかねます」
「うーん。ハンター組合ってあくまでも公的な国に所属しない団体としてあるわけだよね。逆に言うと、騎士団改めてランサード魔物対策軍のようなモノを創設して、ハンターを雇用しても問題ないわけ? そうしないと領地を預かる俺としては不安定なまま置いとけないんだよね」
「そ、それは魔物の取り合いになるとおっしゃられているわけですか?」
「だって、仮に1000名のハンターが生活できているなら、その費用だけで対策軍を賄えるわけだし、その契約の代わりに魔石販売などの手数料を組合より少なくすれば集まると思うんだけど?」
「こ、これは手厳しい。しかし我々は世界各国に支部を持つハンター組合ですので、国の圧力は受けない組織として今まで存続してきました」
「その言い方だと、ハンターがいなければ国や領地は存続できないと言っているのか?」
「いえ! 決してそのような」
「簡単に言えば、森やダンジョンが多くある我が領土があるからハンターもいるわけで、それが危機の時に逃げるなら、いい所取りってことにならないか? お世話になった領地が危機の時は協力しろってことだけで、領主圧力と言われても無理があると思うが? それならば俺も組合やそいつらの生活を確約してやる必要はない」
「一度、大陸の統括に確認させて貰えませんか?」
「構わないが10日で返答をくれ。出来なければ先程の案で周知する。俺は敵対したい訳ではなく領民を守るために考えてるだけだ。その辺りは勘違いしてほしくないな」
「り、領民のためと言うお考えは我々にとっても嬉しく存じます。もちろん敵対は組合にとっても避けたい所でございます。しかし10日。。いえ。わかりました」
「ではよろしく」
ハンター組合からの税が多い為、俺が下手に出ると思ったんだろう。
結局の所、この世界は力がものを言う。
俺が単独でダンジョンを討伐したことも知っている訳だし、少々ハンターの数が減ったとしても何とかなるって算段が俺にはある。それで強気な交渉が出来るわけだ。
◇
◇
◇
「はじめーーーー」
体力試験をクリアした総勢500人の騎士団候補が気合いの入った声で武術を披露している。300名程が体力試験で落ちたわけだが、かなりの人数が試験を受けにきた事がわかる。
気になる人物だけ、《鑑定》で確認したので、俺はそのまま奴隷商に向かった。
「これはランサード男爵様、いらっしゃいませ」
「ほう。俺がわかるか。早速だが怪我をしている元ハンターや戦える奴隷を探している」
「怪我をしている戦闘奴隷ですか? いるにはいますが、肉壁にでも使われますか?」
「余計な詮索は不要だ」
「わかりました。でも少々見苦しい部屋ですがこちらにございます」
案内された部屋には、10名程の奴隷が男女に分けて収監されている。
すべて犯罪奴隷や戦争奴隷のようだが、片腕がなかったり、足を引きずっていたり、下半身が火傷ので息苦しそうな呼吸をしていたりする。全員が目に覇気がない。
「うん。こいつら全員を買う。条件は?」
「金額は1人金貨50枚です。条件は期間共にありませんが、どのような契約をされますか?」
「金額はそれでいい。条件はこのランサード領に関わる全ての不利益な行動、言動を禁止する。尚、俺の命令は絶対とする」
「・・・・・・わかりました」
うん? この奴隷商は中々奴隷の事を考える、いい奴なのかもしれないな。
「お前は何か勘違いしてると思うが、俺は奴隷を使い捨ての様な使い方はしないから心配するな。早く契約をすませてくれ」
「そ、そうでございますか。では早速契約担当を連れてまいります」
契約後、馬車を手配させて屋敷に移動させる。屋敷の裏に全員を整列させた。
改めて全員を《鑑定》すると平均レベル30くらいで、中々期待できる特殊スキルや魔法特化のステータスの人間もいる。
「お前達の主となったライム・ランサードだ。今、皆は不安に思っているだろうが、今からお前達の怪我や病気を治そうと思う」
奴隷達がザワザワしている。
「この領地は俺に変わった事で今大きく変わろうとしている。現に騎士団を全て入れ替えるために試験を行っている所だ。で、お前達を買って治療する理由は、わかりにくいと思うが特殊部隊を作ろうと思っている。言わば隠密行動を得意とする部隊だ。もちろん危険は伴うが、給金も払う」
「あっ。発言を宜しいでしょうか?」
「いいぞ」
「領主様は、我々を治療してくれて、隠密部隊として働ければ給金も頂けるという理解で宜しいでしょうか?」
「その通りだ。しかしお前たちのレベルを、そうだな100位まで上げてもらう必要があるし、それなりに厳しいぞ?」
「レベル100ですか? そんな事は可能なのでしょうか?」
「俺がレベリングしてやる。まぁー信じるかどうかは自由だが俺のレベルは200だ」
「に、にひゃく・・・・・・」
「とにかくそこの火傷してる奴は苦しいだろうから、まずはお前からだ」
この世界は魔力ごりおしで効果が変わる。
パーフェクトヒーリングを順番にかけてやると、各々の怪我が全て治る。
奴隷全員が泣きながら抱き合ったりお互いの怪我の治り具合を確認しあったりしてる。
げふっ。流石の俺も魔力回復薬を3本も飲んだ。
「よし、これで全員治ったな? 今日は男女別に風呂に入って、しっかり睡眠を取るがいい。明日は朝から装備を整えて、昼から各自得意な戦闘方法を見せてくれ。以上だ」
使用人に連れられて、ゾロゾロと奴隷あらため隠密部隊は屋敷にいく。
大忙しのザマスではあるが、父の商会に明日朝に多用多種な武器防具を屋敷に持ってくるように指示した。
騎士団の試験は明日魔法試験と筆記試験が続く。筆記試験は俺監修のメンタル試験でもある。当然領地を守る健全な心を持っている事が前提である。それ辺りを試験に盛り込んだ。
◇
◇
◇
翌朝
「これはこれはライム・ランサード男爵閣下! 私はロイド・シルドと申します。シルド商会の代表を務めております」
「うん。紹介ありがとう。俺はライム・ランサードだ。ザマスには世話になってるよ。で、お互い忙しい身だ。早速依頼の商品を屋敷裏に並べてくれ」
「はっ!」
いそいそと商人が装備を並べていく。
俺の剣のようなミスリルはさすがに用意されてないが、それなりに良い品がある。
「お前達は戦闘に身を置く事になる。変な遠慮はせずに必要な装備をとれ」
「「「「はい!」」」」
素早く装備を吟味し、各自装着していく。
やはり戦闘を生業にしていただけあって様になっている。
「取った装備の金額はザマスと詰めてくれ。俺と隠密部隊は今から森に向かう。エリフィス悪いが後は頼んだ」
「わかりました」
装備を整えた全員を瞬間移動で、ランサード領の森近くに移動した。かなり混乱していたが、治療の件があったので、どうやら受け入れているようだ。
「で、ここら辺は低ランクの魔物しか出ない。俺も帯同するが、基本1人づつ順番に戦闘してくれ。久々の戦闘だし、上手く行かなくても構わない。その辺りのフォローもお前達でやってくれ」
「はい」
「うん。今度からお前達の返答は御意に変えてくれ。その方がしっくりくる」
「ぎ、御意!」
だって隠密と言えばこんな感じでしょ?
殿様に仕えてもらうんだから。
で、男女問わず魔法特化や接近特化、バランス良く両方を使う奴もいる。
所でこの中からリーダーを決めなければならないし、名前を新たに付けてしまおう。
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