第19話 ギルティ
程なくして屋敷に到着したライムは王より賜った書状をもって屋敷の全員に周知した。
まずは、財務担当官と外務担当官、警備は騎士団だが全員クビで不在なので、2人と面談した。
「改めましてランサード男爵閣下。財務担当をしておりますカーネルでございます。以後宜しくお願い致します」
「私は外務担当をしておりますアーソでごさいます。宜しくお願い致します。して騎士団のクリックが来ておりませんが」
「あー。騎士団は全員クビにしたから誰もいない。今度募集する事にした」
「はっ? そ、そのような事をしては治安が」
「うん? この領地は騎士団が治安を乱していた。少し見て回ればわかるはずだが、お前達もグルなのか?」
「そっそのような事はございません! 我々も業務が切迫しておりまして、とても治安にまで頭が回りませんでした!」
「ふーん。じゃー外務担当は普段何をしている?」
「えっ? あっ隣接する領地との領民トラブルや災害などの協力体制の構築など、多岐にわたります」
「なるほど、では過去の事例と費用を資料にまとめて本日までに提出しろ」
「本日! とても間に合いません」
「なぜだ。交渉をすると書状や契約が発生するだろ? それが無いなら仕事をしたとどう証明するのだ? とにかく提出しろ。それとエリファスをつけるから、必ず一緒に作業するように」
「ぐっ。は、はい」
「で、財務担当。この領地の帳簿はあるな?」
「はい。こちらにございます」
俺は前世で沢山の財産を持つ家に生まれたため、この類の勉強は物心ついた時からやらされている。
「うん? たしか一昨年から税の比率が上がったと村の人間が嘆いていたのに、収入が3年前から変わっていないのは何故だ?」
「へっ? ぜ、ぜ税の比率は上がりましたが、不作が続きまして収入が確保できませんでした」
「ならば、なぜそう書かない? 別紙の生産量は同じに記載されている。他にも辻褄が合わない事が多すぎるな。よし、お前の家に今から立ち入り検査だ。もちろん問題ないよな?」
「立ち入り検査。。実は病気の母が寝たきりでして、とても領主様をお迎えできる状況にございません」
「かまわん。行くぞ。エリファスはアーソの一挙一動を見ててくれ。もう気づいたと思うが、お前達の事はまるで信用ならん。信用できるまで監視下におく。では行くぞ」
屋敷を出ると、執事が華麗にお辞儀をして馬車を準備している。
「ほう。気が聞くな」
「わたくしは執事長をしております。ザマスでございます」
「そうか。では、使用人すべての契約関係をヒアリングしておけ。ようするにリップとの不利な契約やその他の契約でスパイがいては安心して暮らせない。契約の確認は申告とするが、知っての通り契約診断で裏は取れるし、隠し事は無駄だぞ」
「はい。承知いたしました」
その後、財務担当は巨額の財産を隠し持っていたため、財産没収とし奴隷にした。
無期限奴隷となったカーネルは、俺を裏切らないがんじがらめの契約を結ばされて、生きる屍として財務担当を継続してやらされる事になった。
「正解な数字に書き換えて税制をキュロス領と全く同じに変更して周知せよ」
「わかりました。が、騎士団がいませんので周知ができません」
「そうか。ならハンターに依頼しろ。以上だ」
「賜りました」
まるでロボットのような人格? になっている。まぁー自業自得だな。
「して、ザマス。どうだった?」
「はい。言いにくいですが、私も含めて全員契約を結んでおります」
「それってリップが死んでも継続するのか?」
「いえ、片方が亡くなれば契約は消滅します」
「うーん。ってか、使用人は奴隷じゃないよな?」
「一部奴隷もいますが」
「なら、契約の対価はどのような物なんだ?」
「軽い者は給金が対価で5年といった条件ですが、私などは両親が商人でごさいまして、継続した取引が担保となっております」
「ふーん。なら、継続を一旦破棄しようか?」
「えっ。そんな。何卒お助け頂けませんか?」
「違う違う。たしか破った方が罰を受けるから、一旦破棄すればリップが苦しんで、さらに契約が解けるだろ?」
契約は明らかな契約不履行に関しては、破った方に恐ろしく強い痛みが随時全身にはしる恐ろしいものだ。
本来奴隷以外に使うモノでもないが、逆に両者の同意があれば解除出来るらしい。
エルフ奴隷姉妹は、明らかな違反をしていなかったためリップは罰を免れていた。さらに結局俺が治療したため事なきを得たってことだ。
もちろん契約破棄はリップに同意させて解除してある。
「ザマスは優秀ってことは、馬車の準備や仕事の早さでわかる。だからその有能さを利用する。ただし、今までの事を悔い改めて今後は領民のために生きろ。で、両親にその件を伝えてくれ。それ以外の使用人は、ザマスも含めて給金が条件でランサード領が不利益を被る全ての事柄を禁止する。ただし、リップやその他と給金契約以外の契約をしている者は、残念だがクビだ」
「承知いたしました。このザマス。ランサード男爵に終生の忠誠を誓います。では失礼いたします」
◇
◇
◇
【ザマス】
私はしがない商人の次男に生まれ、幼き頃から両親にも兄にも気を使って生きてきた。それは恐らくそういう性格だったのだろう。そのような生活の中で、人の行動を先読みして準備したりして驚かすことに喜びを感じていた。
少し大きくなり父親の商会の取引先に丁稚奉公をする機会があり、そこで重宝されて秘書的な立場まで出世することが出来た。
そこから、リップ男爵の目に止まり、有能な秘書から執事兼秘書して雇用する提案を受けた。条件は破格で父の商会を男爵家のお抱え商会とすることだったため、父や母、兄の喜ぶ顔を見ると断る事ができなかった。
実は私自身もさらに出世できることを喜び、未来に期待していたのかもしれない。
しかし、やはり貴族とは恐ろしい。
領民の暮らしよりも自己を優先し、多くの人々を苦しめていく。いつしかその悪事を普通の事のように冷静に処理していく私も、同じ穴のムジナとなっていたかもしれない。
そんなある日、屋敷の前でリップ男爵をまるでそこらの雑魚のように扱い、誉高きキュロス家の騎士団長とまるで友達のように話す少年を見た。見事リップ男爵を出し抜き逮捕し、意気揚々と帰って行く後姿は正に英雄。
そんな少年が、男爵となりこの領地の主人となることを聞いた私は嬉しさと絶望を持っていた。
案の定、好き勝手していた外務担当と財産担当は、ものの数時間で断罪されていた。
しかも聞く所によると、騎士団長は街中で瞬殺され、騎士団全員をクビにし、その治安をひと睨みで安定させたと聞く、恐らくそのうち更に周知の意味で人柱が立つだろう。
私が悪党でも今は様子を見るしかないだろう。
そして私の番がきた。
恐らく契約関係や交友関係の確認と想定していた為、すぐに対処できた。
が、当然私はクビだろうと覚悟していたが、おこがましいといえ両親の商会だけは守りたいと思っていた。が、「継続を破棄しよう」
やはり、そんなに甘くはないのだ。
私は頭をついて懇願した。しかし返答は全く想像と違ったようだ。
「違う違う。たしか破った方が罰を受けるから、一旦破棄すればリップが苦しんで、さらに契約が解けるだろ?」
なんと合理的。しかし私ごときを。
「ザマスは優秀ってことは、馬車の準備や仕事の早さでわかる。だからその有能さを利用する。ただし、今までの事を悔い改めて今後は領民のために生きろ」
この私を有能と仰っていただいた。
それを領民のために使えとご命令頂いた。
私は思わず跪き、
「このザマス。ランサード男爵に終生の忠誠を誓います」
そう。私は終生の主を得たのだ。
◇
◇
◇
その後ザマスと契約を解除を実行したが、俺が介在した事でリップは罰は受けなかったようだ。が、契約は解除されたようで、晴れて俺と契約を結んだ。
「と、かなり人員がスリムになったが、仕事はまわりそうか?」
「はい。全く問題ないかと思います。ですが流石に騎士団の編成は必要かと思われます」
「その件だが、今から10日後に騎士団の入団試験を実施する。領内で募集を掛けてくれ。条件は使用人と同じく賃金に伴う契約。金額はこれもキュロス領を参考に決めよう。で、試験の内容は体力試験、武術試験、魔法試験、筆記試験だ。年齢、身分などは一切問わない。試験官はハンター組合と決めてくれ。合否の判断基準も含めて丸投げしよう。組合にはノウハウがあるのでそう難しくはないだろう。で、この件はパールが取りまとめてくれ。いけるか?」
「は、はい! が、頑張ります!」
「ライム様、募集の貼り出しなどの作業は、使用人を使っても宜しいでしょうか?」
「全てお前達に任す。予算についても今回は後回しで構わん」
「賜りました」
丸投げ作業完了。
で、かなり威圧的かつ暴力的に領地の改革を行っている理由は、せっかく領地を得た訳だから、早々に安定させて、前世の先祖のような隠密部隊をこの国に作り上げたいと思ってるんだ。俺の特殊スキルにしても隠密が向いているように思うし知識も多くある。
この国を裏から守る事が出来れば、侵略なんかに興味はないけど、前に聞いた連合軍による侵攻なんかも事前に防げるかもしれないしね。
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