第18話 革命

 まずゼットさんが連絡機の概要を説明し、試験機を出した。

 アーサー王とエルザ妃は、大袈裟に驚いている。


 「おい。甥よ。こんなとんでもない技術を開発して、よく平然と座っておるな? 普通なら興奮して夜も寝れないだろ! 褒美が欲しくないのか?」


「アーサー叔父さん。俺は家族に利益を求めませんよ」


「ぶー! ライム! 王に対して流石に不敬だぞ!」


 慌ててお茶を吹き出したゼットさんが怒ってくる。けど、俺は家族に遠慮はやめたんだ。

その代わりじゃないけど、全てを母上の国へ。母上のお兄さんに。


「うふふっ。ゼット殿。ここはサロン。妾の甥っ子は家族と言いました。ならば不要です。ね? アーサー?」


「くくく。ガハハハ。ゴホゴホッ! ダメだ。リアリスの生き写しのようだ。楽しくてたまらん。よい! ライム、お前はプライベートにおいて全ての不敬を許す。だが公式の場では控えろ」


「わかりまし、いや俺は全力で母上の国を守ると誓った。だから叔父さん。遠慮なくお願いしますね」


「それでよい。してライムよ。この技術をどうするつもりだ?」


「単純に国の防衛と国力の増強。生産はバンス商会にするけど、その代わりに国の監視下に入る事は許可とってるし、核心技術である空間魔法の刻印は俺しかできないから。

とはいえ、この連絡機は国と各貴族を一対配置すること以外の使用は一旦やめかな。何を企むかわからないしね。でも交換手を王国に作る事で、貴族同士の連絡も有料で受ければ交換手の運営費も賄えるし、そこからスタートかな」


「うむ。完璧だ。交換手は当然契約すれば情報漏洩はない。さらに貴族達の情報を王国が一元管理できるというわけだな?」


「そのとおり」


「この国の貴族はざっと80名程だが、全部完成させるのにどれくらいかかる?」


「予算と納期をバンス商会に確認してきていい?」


「今から? 流石に3日は待てない」


「いや、10分で大丈夫だよ。瞬間移動スキルで行くから」


「瞬間移動だと? よもや伝説級のスキルも持っているか。やれやれ。本来は王城で転移などされたら警備も泣き出すだろうが、お前ならいいか。行ってこい」


「では。いってきます」


 言葉と同時に姿を消すライムを見て。


「王よ。貴族位を上げるのは簡単だが、足りなくなると言った意味がわかりましたかな?」


「ふふっ。リアリスはとんでもない忘形見を王国にもたらしてくれたわ。しかしそれと帝国がやったことは別だ。この連絡機を用いて更に軍部を強化するぞ」


「本来ダンジョンの脅威によって軍も分散されてきましたが、情報統制によってライムに駆けつけて貰えれば、その辺りも無駄を無くせます」


「それはそうだが、あまりライムにばかり無理をさせるのは反対だ」


「それは勿論ですが、それもライムに相談しましょう」


「たしかに良い案があるやもしれんな」


「そうそう。ライムは確か18歳と聞きましたが、妾が良い伴侶を見つけてあげなければ」


「エルザ様。今ライムを勇者と呼んでいるエルフがいましてな。その母親は元セイント王国の王族と聞いておりますが、どう思われまか?」


「勇者?」


「はい。どうやら神の庭の奥地で取れる神水や果物を持つ人間をエルフの王族では勇者と呼ぶらしいですぞ」


「ほう。ライムはまさに勇者に相応しいが、婚姻の事を差し引いても、その名称は使えそうだな」


「王よ。ライムは厄介ごとを嫌いますので、一度相談してからにしないとヘソをまげますぞ」


「そうか。ではそうしよう」



「お待たせ! 条件をまとめてきたよ」


「聞かせてくれ」


「全部で160個の魔道具を1個金貨100枚で納期は30日。そこに俺が刻印するから追加で3日は欲しいかな。魔道具の値段はかなり安い理由は、王国の認定商会として王国内のどの場所でも商売していい認可が欲しいと言ってたけど、問題ないよね? 勿論動かすための魔石は含まれないってこんな感じだけど、どうする?」


「うむ。それで進めてくれ。注文書と認可については、余から指示を出しておく」


「じゃー先にこれを渡しておくね」


 連絡機を2対出して、王とゼットさんの分と、王と俺の分を渡した。


「ふむ。これは助かるな。召喚状を届ける時間も登城する時間も削減できる。改めてとんでもない代物だな。ライムよくやった」


「ありがとう。じゃーこれから宜しくね。叔父さん。エルザさん。ゼットさん」


「余だけが叔父さん呼ばわりとは、エルザもおばさ」


「アーサー。それ以上は許しませんよ? ライム。私の事はエルザお姉さんとでも呼びなさい」


「わかったよ。エルザお姉さん」


「うふふっ。良い子だこと」


「危ない危ない。エルザの逆鱗に触れるとこだったわい。さて、今日はこのくらいにするが、次回は余の子供を紹介することにしよう。お前からすると従兄弟になるな」


「それは楽しみですね。では早速バンス商会で打ち合わせがあるから、帰ってもいいかな?」


「普通はありえないが、手続きは余が指示しておこう。では頼んだぞ」


「いってきます」



 実はバンスさんとは、俺が元リップ男爵領をもらった事を話して支店を出してもらうよう依頼していた。そして行きの馬車で力説していた馬車のサスペンションの開発を依頼している。

 鍛冶屋の手作りとなるため高額になるが、間違いなくヒットすると確信している。

 その生産拠点を我が領地にすることで雇用創出、税収、特許料が入るから領地の運営が楽になる。はずだ。



 で、一度キュロスの屋敷に戻りいつものハンタースタイルに着替えて、パールとエルフの二人と一緒に、元リップ男爵領。いや既にランサード領を視察していた。


「うーん。前に行った森の中にある村もそうだけど、領地全体が森に隣接してるから、ハンターや騎士が多く感じるなー。もちろんダンジョンの氾濫も不味いけど、森もありえるし当然と言えば当然だけど、やっぱり治安は良くない感じもする」


「私たちを変な目でジロジロみてくるのは不快ですね」


「まぁーエルフってよりも美人だしなー」


「び、美人ですか。おほほほ。」


「当然なのよ」


 まだ全ての村は見れてないけど、一旦ランサード領主の屋敷がある街に来た。名称は今度考えよう。


「ちょっとそこのお嬢さん達。俺達と飯でも行かないか?」


「え? 見てわかりませんか? 私達はこの方とご一緒しております」


「どこぞのハンターだろ? 俺達はリップ騎士団、いやキュロス家の家族となったランサード男爵の騎士団だぜ? 悪い事言わないからこっちにこい。お前もそう思うだろ。ハンター君?」


「馬鹿か? いい訳ないだろ。消えろ。いや名前を言え」


「なんだ。この街は初めてか? ここで俺達に逆らったら生きていけねーぞ。わかったらさっさと女を置いてあっちに行きな」


 騎士団を語る輩は剣を少し抜いて威嚇してくる。となると、


?」


 その言葉と同時に、剣を抜いた1人の両腕を斬った。


「なっ! なにを! おい! 誰か騎士団を呼べ! 仲間がやられた!」


 斬られた騎士は、ぎゃーぎゃーと叫びながら、のたうちまわってる。

 周りの領民は、顔を真っ青にしてざわめきたってる。


「そういえば、キュロス領でもこんなことあったな? その時はゴロツキだったけど、今回は騎士か。一新するしかなさそうだな」


「勇者に威嚇するなんて馬鹿なのよ」


「ファリス。その前にここの領主だから」


 10名程の騎士団が馬に乗って駆けつけてくる。


「おい! そこのハンター。我らの仲間を傷つけたこと後悔させてやる」


「で、お前は誰だ?」


「こっこの! 俺様はランサード騎士団長クリック様だ! 大人しく縄につけ! 晒し首にしてやろう」


「クリックか。お前のような馬鹿が騎士団長となると、全員腐ってるな。丁度いいお前をやって今後の教訓を騎士団に刻んでやろう」


「ハンターが勘違いしたのか。よしもうよい。殺せ!」


 ドーン!

ライムはボディブローをクリックに当てた。10メートル程ほど空中に飛んで落下する。

 この嘘みたいな状況に全員が口を開けて倒れたクリックを見ている。


「そうそう。言うの忘れてたけど、俺がライム・ランサードだ。この馬鹿は見ての通り死罪。で、そこで転がってる馬鹿もクビ。で、他はどうする? 別に騎士団など居なくても俺が治安を守れば問題ないし、一度全滅してみるか?」


 恐らくこのあたりにいる悪人も善人も騎士団も死を覚悟しただろう。圧倒的な強者の前では無力であることを再認識しただろう。

 特に後ろめたい人物ほど効果を発揮する。


「こっこれはランサード男爵閣下。失礼致しました。私は騎士副団長のピックでございます」


「そうか。なら騎士団は解散。全員クビだ。装備を返却して立ち去れ」


「そっそんな! しかしそのような事をすれば街の治安は守れませんぞ!」


「お前達が治安を乱していることは明確だろう。で、この俺の領地で治安を乱すだと?」


 この街をぐるりと見渡して


「できんのか?」


 まるでヤ○ザのような言葉だが、この時全員ができる訳ないと思った。


「ほら。誰もしないってよ。だから不要だ。でだ。領地の皆さん。ハンターや元ハンターでもいい。腕に覚えのある者は、今度募集する騎士に応募してくれ」


 それを聞いた街の人は拍手喝采する。

騎士団に向かってザマーミロと叫ぶ人も多く、応募についても興味津々の様子。


「では、俺は屋敷に向かう。今日からこの領地は変わる。期待しててくれ」


 我ながらカッコイイ去り方だが、街の人達の印象は、怖いから期待に変わったと確信した。




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