第17話 王都

 バンス商会に行くと受付の女の子が顔を見るなり走り去って、またしてもバンスさんが走ってくる。

 ゼットさんとの打ち合わせした内容と条件を伝えると快諾したので、話を進める事になった。試作機の件だが、実はあれから徹夜で一対だけ作ったようだ。後は核心技術の刻印だが、バンスさんが俺に刻印スキルのスキル書を差し出してきた。相当な価値があることはわかるが、逆に本気度が伝わってくる。

 刻印スキルで電話改め、連絡機に刻印しキュロス家とバンス商会でテストをした。

それが成功したため、リップ男爵領まで瞬間移動し、これも成功。

 やはり距離によって魔石の消費が変わる。

相当な魔石が必要となるが、問題ないだろう。

 ゼットさんは相当嬉しいのか、子供のようにはしゃいで、無駄に魔石を消費したことは内緒だ。



「よし、ライム準備は出来たか?」


「はい。ですがこんな服装は久しぶりで疲れそうです」


「そのうち慣れるさ。よく似合ってるしな」


 いやー。ケツ痛!

定番だけど、1日でこれなら3日でケツ割れるわ!

 なので、ゼットさんにサスペンションの重要性を説いて、発明の許可をとったが、自分の領地でやれと言われた。


「キュロス辺境伯。ゼット殿ご入場」


 この掛け声と同時に大きな扉が開く。

高段にある立派な椅子に黄金の冠をつけた威厳ある王様が鎮座されている。

 その両端には、貴族と思われる煌びやかな人達が整列している。

 ゼットさんは5メートル手前辺りに跪き首を垂れる。俺もそれに合わせて同じ動きをする。


「表をあげよ」


「はっ!」


「よくきたゼットよ。そして貴殿が我妻を救ってくれたライムだな?」


「はっ!」


「うむ。話しにくい。楽にするがよい」


 色々と決まりはあるが王の言葉は。楽にせよは楽にしなくてはならない。


「して、ライムはキュロスを通じて我が妻でありこの国の王妃の命を救った。その恩賞は何を望む」


「発言よろしいでしょうか」


「好きに話せ」


「では、私の恩賞は全てキュロス様のお導きの結果にございます。是非にキュロス様にその恩賞を捧げたく存じます」


「ふむ。その篤実な姿勢は益々評価に値する。が、キュロスには別に考えておる。よって余が褒美を決めるとするが、よいか?」


「ありがたき幸せ」


「ならば、ライムよ。この度の褒美として騎士爵を叙爵する」


 おーっと貴族達が騒めく。

馬車で移動中にゼットさんから聞いたけど、新たな貴族家が叙爵されるのが数十年ぶりらしいから、当然っちゃー当然の反応のようだ。


「更にリップ男爵の悪事を暴いたこと、そして氾濫寸前のダンジョンを討伐した褒美として男爵に叙爵する。そして元リップ男爵領を統治せよ。では、ライムよ跪け」


「はっ!」


 即座に跪き、王自ら俺の肩に剣を置く


「ライムよ。本日よりライム・ランサードを名乗るがよい。これからはその名に恥じぬようオリンポス王国に貢献するがよい」


「このライム・ランサード。身命を賭してオリンポス王国に忠誠を誓います」


「うむ。よう心がけだ。してキュロスよ。後程、余のサロンに来い。新たな男爵も連れてな」


「心得ました」


 その返事を聞いて王は退席された。

その後、上位貴族順に退席していくが、上位貴族は俺の事を華麗にスルーし、逆に子爵や男爵は挨拶してから退席していく。

 一気に名前は覚えられねーよ。


「ライム。なかなか礼儀もうまく出来てたじゃないか」


「ゼットさん。もう無理っす」


「何を言ってんだ。今から王のプライベートサロンに行くのだぞ? まぁ後少し頑張れ」


「あーー。頑張ります」



「キュロス辺境伯、ランサード男爵。こちらでお待ちください」


 サロンと言われる豪華な部屋に立って王を待つ。5分もすると王がニコニコと笑いながら入ってきた。その後ろに美人な恐らく王妃が着いてくる。


「おーキュロス、まぁ座れ」 


「はっ!」


「何をボーとしてるライムも座れ」


「は!」


「ここはサロンだ。少し崩して話せ」


「はい。ですが新人がいます故」


「くくく。新人か。おいライム。余がアーサーで、そっちが妻のエルザだ」  


「あっ! おれ、いや私はライム、ランサードです」


「王よ。そういじめてやりますな。こう見えてライムは恐らく王国いや世界でも最強の実力者ですぞ?」


「わかっておる。だからこそじゃ。だから余が名乗った。そして改めてだが、ライム。ありがとう」


「ライム殿。今回は妾の命を救ってくれた。何よりもお陰で子供の成長を見続けることができる。本当にありがとう」


 王妃は少し涙ぐみ。そして王も・・・・・・。

ゼットさんもなにやら嬉しそうだ。


「王よ。ライムの素性は前に説明した通りです。またその力は神の庭を散歩がてらに闊歩できるほど。ですが、それを王国の私利私欲で使う事は、私も妻のサーラも絶対に容認できません。今回の事を持って、お約束頂きたいのですが」


「うむ。わかっておる。サーラにドヤされるのも恐ろしいしの。だからこそ男爵位と領地を与えたわけだが、とはいえ、ライムよ。もし王国の非常事態の場合は助けてくれまいか?」


「おれ、いや。私はゼットさんに家族にして頂きました。家族が非常事態になれば、それは全力でお助け致します」


 これは失礼は承知で、王国ではなくキュロス家を大切に思っていることを伝えた。


「ふははは! よいよい。余とキュロス家はすでに家族である。親戚だしな」


「あっ。そっか。いえ! そうでございますね」


「うふふっ。ライム殿、妾はどのような方が助けてくれたのか今日という日を本当に楽しみにしておりました。さらに本日を持って家族となれば、より嬉しく思うわ」


 サーラさんのお兄さんが王様だから、そりゃ親戚だもんな。なら家族か。でもいいのかな?


「恐れながら、私のような者が家族になるなど反発が起こって逆にご迷惑をおかけするかと」


「余とゼットに反発など、そんな気概のある貴族も偶には見てみたいものだな」


「そうでございますな」


 この王国ってワンマン経営なのかな?

二人の作り笑いがパワハラのそれに聞こえるんだけど。


「して、妾は先程から気になっていたのですが、アーサーとライム殿は少し似ているように思いますが、ゼット殿はどう思われるか?」


「エルザ様、仰る通りでして、我が妻のサーラとも似ておりまして、日頃から気にはなっておったのですが、ライムにあまり深く聞くのも過去を思い出してはいけないと思って聞けませんでした」


「ゼットさん。今は昔の事も家族のお陰で何も思いません。しかしダメス・オズワルドの子供であることは間違いないかと。それと母親の事は産後すぐに亡くなられたので、詳しくは知らないのですが、昔から髪と目が瓜二つと聞いておりました」


「うむ。して母の名は?」


「リリーと言う名です」


「リリーとな。しかしこの髪と目は別の国でも相当に珍しいと言うか聞いた事がないがな」


「あっ。写真はありますよ」


 と、唯一の遺品であるロケットペンダントを収納から取り出す。


「なに!! こ、これは!」


「へっ? これは唯一の遺品ですが」


 アーサー王とエルザ妃、ゼットさんまで相当驚いている。


「なんと。なんということだ。とすると、ガイア帝国め!」


「アーサー! 落ち着いて! 短気で戦争するのは時期が悪すぎます!」


「王よ。ならば我が単体で乗り込んできましょうぞ」


「ゼット殿! 貴殿は王を諌めるお立場! 冷静になさい! 妾の立場からすると、そのお陰でライム殿が生まれ妾が助かったのです!」


「ぐぎぎぎ。しかしこの代償は必ず償わせてやる」


 王は流石に王である。この膨大な殺気と覇気のようなモノは、レベルが高い俺にすら畏怖を覚えさせるほどだ。にしてもこれだけ怒る理由は、まさか。


「ライムよ! 察しのいいお前なら気づいただろうが、簡単に言うと、お前は俺の甥になる。サーラにとってもだ。 お前の母は余のもう一人の妹。名はリリーではなくリアリスだ。このロケットペンダントは王家が持つ秘密の収納魔道具で、そして、、その写真は間違いなく余の妹である」


 急な展開で呆然としてしまう。

それと同時に、この国の王が唇から血を流すほど大切に思っていた人が母親であったことを、なぜか嬉しく思った。


「ライム殿。いやライム。妾から少し説明する。リアリスはアーサーの妹であり、妾とサーラ、そこのゼットも幼き頃から共に育った家族でした。そして時が経ちリアリスが16歳となった時に馬車が襲われ攫われたのです。しかしその当時この国はガイア帝国とアメリア皇国の連合による侵略戦争をうけていて、ユーラ共和国の助力を得てなんとか凌いでいる状況でした。なので大規模な捜索を実行する余力もなく。。その話が今から20年前になります」 


 母上は攫われたんだ。

そこから俺を産むまでの2年はどうやって過ごしてたのかな。恐らく悲惨な生活だろう。

どんな気持ちで俺を産んだのだろうか。


「ライム。リアリス様は本当に心優しいお方だった。それこそ使用人を家族と思うほどに。

人質を取られれば、我が身を削る事など平気で出来るお方だ。恐らく人質の条件で卑怯な契約を交わしたのだろう。それを考えると我は我慢が出来ぬ。出来ぬが、ライムが今ここにいる事を神に感謝している自分が、感情の暴走を止める。それはもしかするとリアリス様のお心なのかもしれないと」


 家族。そうか。きっと母上は俺を愛してくれてた。そんなにも愛情深い人が自分の息子を愛さない訳がないもんね。

 うん。そうだ。決めた。


「ゼットさん。ありがとう。俺はね今嬉しいんだ。生まれてすぐに亡くなっちゃった母上が、こんなにも愛されていた事が。

そして、俺は今やっとわかったんです。

この世界に俺が生かされた理由を。

少し前までは、がむしゃらに力をつけて誰にも邪魔されないように生きるって決めてたけど、それって無意味な事だって、薄々気づいてて、母上と話した事はないけど、18年の時を経て、愛する家族のために力を使うよう教えて貰ったように感じました。

 でも、いや。だからこそ。もちろん受けてもらいますが」


 ライムは自身で気づかずうちに、膨大な魔力のこもった殺気を放出してしまったようで、が震えてる。


「がっ! まっ! まて。ライム! とめろ!」


「あっ! すいません」


「すいませんって、そんなとんでもない殺気を撒き散らすな! 城中がパニックになるわ!」

 

「す、申し訳ございません!」


 サロンに護衛の人達から慌ただしく声がかかる。


「アーサー王! ご無事ですか!!」


「よい! 問題ないゆえ全員に武装を解くように指示しろ。のイタズラだ」


「妾もそれなりに武を嗜んできましたけど、流石に冷や汗をかきましたわ。うふふっ妾の甥っ子は頼もしいこと」


「たしかにとんでもねーな。しかしゼットよ。余の甥が男爵では爵位が合わない。さっさと公爵にするか?」


「王よ。それは追々で大丈夫かと。ライムはこれから間違いなく活躍します。実績を作りすぎて爵位に困りますぞ? で、早速その実績の件で一つ相談があるのですが、もう少しお時間頂けますか?」


「なに? 実績作りの相談とな。うむ聞こうか」



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