第16話 組織

 私の名は、パール。

オズワルド辺境伯の小さな村の出身で、孤児として教会で貧しい暮らしをしていた。

両親のことはハンターであったということ以外知らない。どうやら村に魔物が襲撃してきた時に亡くなったようだ。

 15歳になり教会を出ないといけないこともあり、両親と同じハンターの道を選んだ。

 幼い時に得た剣士という特殊スキルで、それなりに活躍することが出来て18歳になる頃にはレベル30のCランクハンターとして、少しは名が知られるようになった。

 たまたま、同じ村の出身の子とタッグを組むことになって安定したハンター生活を送っていたのに、ちょっと慢心したかな。私のミスで相方が大けがをしたことで状況が一変する。責任を感じた私は、彼女を治療するためお金が必要になった。

 ちょうどその時、隣国との小競り合いで兵士の募集を見つけた。かなり好条件だったこともあって、その話に飛びついた。

 小競り合いといっても年に何度も行われる恒例行事のような感覚があったので、特に危険はないと思っていたのに‥‥‥。

 小競り合いのはずが、馬鹿なが、相手の兵士を殺めてしまったようで、このままでは大きな争いになることを避けるため、お金で雇われた私たち数人の足を斬り、人柱にして退却していった。要するに相殺するためだろう。

 気が付けば、牢に入れられその後この奴隷商人に引き渡された。

私も戦争捕虜の奴隷落ちの待遇は知っている。無条件で全てを。。。

 もう泣くのも疲れ、死ぬこともできず、ただ絶望の中にいた。


 はずなのに、


「で条件は無しだったな。だから、条件を決める。キュロス家すべての情報を他に話さないのと、俺の情報も他に話さない。この二つが条件だ」


 さすがの私も耳を疑った。たぶん年もそう変わらない青年が金貨1000枚を持っている事実。そして帝国でも耳にするキュロス家を語り民衆から喝さいをうける男。

 しかもそのあとが更に理解不能だった。恐ろしく強力な光魔法で私の動かない足を治療し、金貨数枚を握らせ


「とりあえず今日は服でも買って、飯食って、宿に泊まって、風呂に入って、明日キュロス家に来いよ。来たくなけりゃー好きにすればいい」


 御礼も返事もできなかった私は、呆然と立ち去る男を見送った。

その後ろを追うエルフの二人がこちらを見て、ニコリとする顔が印象的だった。



 翌朝 


「ライム様。おはようございます。玄関にライム様に会いたいという女性が来ておりますが心当たりはありますか?」


「え? 女性に知り合いはいませんが」


「お兄ちゃん。昨日の奴隷なのよ。それは可哀そうなのよ」


「あっ。そうだ。たしか来いっていっちゃったな。別に用はないのに」


「勇者様。恐ろしくひどい事を言ってますけど、金貨1000枚払った奴隷の扱いが更におかしいように思います」


「ほう。ライムが奴隷を金貨1000枚で買ったのか?」


 と、ゼットさんがニヤリとしたので、女性陣の冷たい目線をかいくぐりながら、その奴隷の事情を説明すると全員が納得して、朝食を一緒に食べるようにセバスさんに指示していた。


「あの。あの。えと。私のような奴隷が皆様と一緒に食事などできません」


 と半泣きになって訴えてくる。気持ちはわかるよ。凄くわかる。

それでも強制的に食べされられ、しかも会話が


「して、ライムよ。いつになったらオズワルドを攻め込むのだ? 

二日後の王都の用事を済ましたら、その足でいくか?」


 隣国との戦争をまるで観光ついでのような扱いで言うゼットさん。

それを使用人はじめ誰も咎めないキュロス家の異常性を奴隷の子はスプーンを握りしめながら呆然と聞いている。


「あっ。あの。発言をよろしですか」


 緊張してまるで中国人のような発音になってしまっているが、サーラさんが優しくどうぞと相槌をうってあげる。


「わ、わたしはパールです。しょ正直このような待遇を頂く理由がわからなくて、いまから私はなにをされるのでしょうか? というか私は生きてますか? ここは天国ですか?」


 さすがに全員が爆笑した。使用人も本来は感情を出してはいけないマナーではあるが、吹き出してしまっている。


「はははっはは。苦しい。いや。すまない。我はゼット・キュロスだ。この辺境の地で領主をしている。お前は死んでないし、何もされない。そこにいる我々の家族であるライムにお主は救われた。理由は簡単で同じ敵を持った同志って所だろう。これからはこのキュロス領で暮らすがよい。どのように生きるかは後でライムに相談するがよい」


「ゼットさん。エルフのことと言い、今回のことも間違いなく俺の責任ですが、どうやって面倒を見ればいいのか全くわからなくて困ってるんですけど、アドバイス貰えませんか?」


「うーむ。ならば少し早いが後二日後のことだし言っておくか。ライムには本当に申し訳ないが、ライムは王より男爵に叙爵されることになる。そこで隣のリップ男爵は平民に落とされそこの領主に据え置かれることが決まっている」


「え? えーーー! そんなの無理ですよ。面倒だし」


「わかっておる。だがな、ライムのおかげで王妃が回復したことを王家として褒美なしでは体裁が保てないのだ。しかもその情報は既に広まっておる。もちろん全力で止めておるが、腐っても貴族は貴族。どのような手を使ってくるかわからん。そんなことよりライムの性格からすると、その貴族が逆にいなくなる。あまり貴族の数が減るのもよくないしな。当然、運営は優秀な文官を手配するし、生活は今まで通りでかまわん。多少の行事は参加してほしいが。頼まれてくれんか?」


「ゼットさんやサーラさん、アインや皆もそうだけど、俺を家族として扱ってくれて、そんな家族にお願いされて断れるわけないんだけど、でも俺は元々オズワルド辺境伯の息子ですけど、大丈夫なのですか? この国の貴族の人たちも色々思うところがあると思うのですけど」


 パールは本日で一番驚いた! って顔してるけど、ここはスルーして。


「むろん問題ない。他国はしらないが、この国の王は非常に力を持っている。王に進言は出来るが決められた事に反発する貴族など皆無だ」


「しかし遺恨はありそうですね」


「それは追々、結果で黙らせばよい。して、受けてくれるのであれば、ライムに恩を感じている人材を適材適所に配置すればより良い組織が出来るのではないか?」


「なるほど。そうします」


「案外あっさり受けてくれたのは、領地運営に興味があるのか?」


「ええ。このキュロス家の領地を見てると皆生き生きしてますし、街づくりって面白いかもって思っちゃいました」


「おぉ! それはいい。なに。困ったことがあればすぐに駆け付けれるくらいの距離だ」


「そうですね。なんだかワクワクしてきました。俺もこちらで何かあれば一瞬で駈け付けれますし」


「一瞬はいいすぎだろ」


「あっ。そういえばダンジョン討伐した時に瞬間移動スキルゲットしたので一瞬です。もっと言えば空間魔法の。そうだ、あとで二人で話せますか?」


「ちょっとまて! 瞬間移動?」


「はい。今の魔力だとリップ男爵領からここまで100名くらいなら一瞬で移動できますよ」


「あらまぁ。ますますライムは凄くなって。アインも頑張って強くなるのよ?」


「ライムお兄ちゃんに修行してもらうんだ。約束したよね!?」


「約束したよ。でもせめて10歳くらいまでは」


「ライムお兄ちゃんは8歳で魔物と戦って強くなったんでしょ? 僕もあと3年で8歳になるんだ。えとスキルもね」


「ちょっとアイン。そのお話はあとでね」


「むー。ライムお兄ちゃん約束だよね」


「わかってるよ。アイン。約束は守る。なら後3年後な」


「うん!」



「して、ライム話というのはなんだ?」


 バンス商会に行って、たまたま思いついた電話の話を説明する。

守秘契約をまいたこと、その作り方は凡そ俺しか出来ないことを力説した。


「そんなことが可能だとするなら、我が王国は頭一つ飛び出た国になるだろう。バンスでよかった。ライム、流石に思いつきでも余りそのような革新的な技術については他言はよろしくない。まずは俺に相談してくれ」


「すみません。あまりにも不便で愚痴のつもりが、そういえばと


「うむ。ライムよ。言いにくいとは思うが、たまに変な発言をすることに違和感を感じる時がある。説明してはくれないか?」


「あ。で、ですよね。うーん。実はこの世界とは全く別の世界の知識があります。このことを黙っていて申し訳ありません。けど、このような世迷い事を簡単には言い出せなくて」


「なに? まったく別の世界の知識だと? それはどのような世界なのだ?」


「簡単に言えば、魔法の無い世界で魔法の代わりとなる科学が進歩した世界です。科学とは、うーんちょっと説明しにくいですが、先程いった電話たる技術であったり、馬を必要としない馬車があったり、魔石の代わりに電気という物で動くものがほとんどなのですが」


「馬が必要のない馬車。想像しただけでとんでもないな。そうかこれは俺以外に誰にも言うなよ。さすがにかばいきれん。が、自分の領地でどの道なにかと開発していくのだろうが、せめて先に相談してくれ」


「なんだかすみません。ちゃんと先に相談します」


「して、電話? の件は、開発のめどは立っているってことだな?」


「ですね。ただ、双方向のみですので、すべてを網羅すると途方もない数になってしまいます。ですので一部を除いて、国の管理下の元、交換手という中間地点を王家に配置して、緊急の場合は速やかに王国全体で情報共有できる仕組みを作るのが良いかと思っております」


「なるほど! 緊急時は王家に情報を集中させて、適所にすぐさま連絡をさせることができる仕組みだな?」


「その通りです。俺とゼットさんやゼットさんが信頼する人たちには双方向のみでよいかと思いますが、本来の目的は国の防衛でもありますし、もっと言えば、技術流出を避けなければなりませんし」


「その通りだ。明後日までに試作機を作ることは流石に難しいか?」


「いえ、許可頂ければすぐにでもバンスさんの所で実験してみます。魔道具になりますので、革新技術以外はバンス商会に作らせようと思っていますが、どう思われますか?」


「そうだな。バンスには悪いが、その場合は製造部に関しては国の直轄となるだろう。逆にバンス商会の信用や格は一気に王国一となるだろう」


「では、そのように言っておきます」


「ではたのんだぞ」










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