第15話 あきない

「すみません。バンス商会ってどっちですか?」


「あんた。バンス商会を知らないのかい? 

あれよあれ。あの大きな建物だよ」


「ありがとうございます」


 へぇーほんとに大きな商会だな。

店頭以外にも倉庫みたいな建物も隣接してる。

とりあえず受付でバンスさんを呼んでもらうか。


「すみません。ライムと言いますが、バンスさんに相談があって、取次お願いできますか?」


「ライム様。バンス会長とお約束はございますか?」


「え? 約束はしてませんが、バンスさんに一度だけ聞いてもらえませんか」


「はぁ。では少しお待ちください」


 この世界って電話ないもんね。

アポ取るにしてと、逆にどうするの?

2回来るとか面倒だわ。



「ラッライム様、大変失礼致しました「ライム様。ご無沙汰しておりました。ささっどうぞこちらに」」


 受付の女の人の背後からバンスさんが、飛び出してきた。周りのスタッフも驚いている。

受付女子は混乱しているようだが、少し申し訳ないことをしたように思うが仕組みが悪い。


「先日はどうもありがとうございました。無事に取引を完了しまして、私共もお陰様で利益を享受させて頂いております。して本日はどのようなご用でしょうか?」


「それはよかったですね。で、今回相談したい事は、新たな武器というか装備を一新しようと思ってまして、良い鍛冶屋さんの知り合いを紹介してほしいなと」


「ライム様のような実力者に提供できる職人は限られておりまして、私でご紹介させて頂けるのが一人だけおりますが、少し癖が強いドワーフですので、、」


「ドワーフですか! いいですね。是非お願いします」


「はい。勿論可能ですが、ただ失礼があってもお許し頂けませんか? 腕も口もたつといいますか。とにかく納得しない仕事はしない職人でして」


「勿論。ドワーフはそれがお決まりですから」


「おっお決まり? ご容赦頂けるなら後程場所と紹介状をお渡し致します」


「ありがとうございます。しかし、今回の事もそうですが、あっそうそう。受付の女の子を叱らないで下さいね。この世界は電話とか無線とか、そういう概念はないのですか? 要するに態々一度来てから約束と取り付けて後日来るなんて面倒ですよね」


「電話? 無線? ライム様。恐縮ですが私では理解できない言葉でございます。それがあれば約束を取り付ける手間がはぶけるとするならば、世界を変える発明となります」


 バンスさんが興奮して身を乗り出している。

あちゃー。あまりに非効率だから余計な事言っちゃったかな。

 えーい。ままよ!


「例えばこの世界で光魔法を付与したランプのような魔道具やら沢山の発明品があるじゃないですか? あれらは魔石で動いていますけど、例えば空間魔法で相手と話を出来る魔道具を発明すると、態々行く必要がないのかなと。魔石の関係もあるけど、なんなら持ち運びすら可能じゃないかなって思いますけど。あっ。これって戦争に利用されたら不味いか?」


「ライム様!! そのお話は是非にバンス商会にお任せ頂けませんか!?」


「うーん。話しちゃったし問題ないけど、よくよく考えたら戦争に利用されちゃうと不味い技術になりそうだし、ゼットさんに相談してから進めましょうか」


「商人の誇りを持って秘密を厳守致します。その証拠に、今から契約スキル担当を連れて来ますので、本件の内容を守秘する契約を致します。ですので、もし実現可能な場合は是非にお願い致します」


「バンスさんの所に空間魔法が得意な人います? 契約するなら一旦その開発担当に全て説明しますので、その人も合わせて契約しちゃいません?」


「商人よりも合理的なご判断。貴方様はいったい」


「勇者なのよ」


 急に妹ちゃん改めファリスちゃんが爆弾発言を投下する。


「ゆっ勇者!?」


「無駄にその話をするなよ! ややこしくなる。バンスさん。俺の事も守秘内容に盛り込んでください」


「は、はい!」


 バンスさんは慌てて空間魔法を得意とする担当、魔道具開発担当と契約担当を呼んで来たので、俺も電話の機能を一通り説明をする。

 従業員にこれだけの人員が揃ってるってのも大した商会だなと思う。しかも全員生涯の契約を結んでいるので、裏切りの心配も不要なのが更に商売をやり易くしている。

 で、電話については概念というか、ただの家電話の線がないバージョンだが、俺の瞬間移動スキルは付与出来ないため、空間魔法にある収納や転移を双方向の通話にどう流用するかってことだけど、俺自身が空間魔法を得意とする人にある程度コツを教えて貰うと、元々空間魔法を取得していた事もあってアッサリ収納や転移を使える事ができた。

 これにより魔道具と魔道具を繋げて音声を空間接続し、通話することは出来そうだ。

 が、複数を認識させ各々話すことは難しい。

電話交換手が必要かな? いずれにしても一般普及は難しいだろう。


「ってことで、一度預かりますので、また来ますね」


「この事業が上手く行きましたら、我が王国の戦力は大幅に向上し、また王都と各領主との連携が即座に取れる事で、どのような状況でも即座に対応できます。そのような事を我が商会で少しでも携われるならば、もう死んでも構いません」


「気概は伝わりましたから。でも死ぬには早いと思いますけどね」


 暗にまだまだアイディアがあるぞと言ってやると、目を見開きウルウルさせていたので、急ぎ退散した。


ファリスちゃんが、


「なんであのおじさん泣いてたのよ?」


 と、しつこく聞いてくるのを無視しながら歩き続ける。


「あーーー! 鍛冶屋の場所聞いてない」


 なんだか帰るの気まずいからエリフェスさんに聞いてきてもらった。

彼女は結構クールに対応してくれるから助かってる。



「ごめんください」


「あー? ワシは店頭で売ってないから、武器が欲しけりゃ他所にいきな」


「いや。ワンズさんに武器をオーダーしたくてバンスさんから紹介を受けてきました」


「バンスから? お前は貴族の息子か何かか? あいつは相当じゃないとこんな事はしない。だがワシも道楽息子に剣を打ってやる程暇じゃねー。悪いが帰りな」


「俺はこう見えてAランクのハンターです。前回のグリフォンとの戦いで武器の重要性に改めて気づきまして」


「グリフォンだと? あれは物理攻撃にとにかく強いと聞いている。その時に使った武器をみせてみな」


 ライムは今の今まで昔ゴブリンの集落で拾った一番良さそうな剣を愛用していた。


「なんだこりゃ? お前これで今まで戦ってたのか? こんな程度の剣でグリフォンを斬れるわけないだろ」


「それなりに見た目はいいかと」


「お前馬鹿か? 騎士が好む派手な剣で性能はそこらの大量生産モノと変わらない。よく今まで生きてこれたな。というか、Aランクって本当か?」


 そこまで武器の見る目がないのは、若干ショックだが、ハンターカードを見てもらって信用してもらった。


「が、断る」


 いやいや。いけるパターンだろ?

ここで断られたら、酒出せや展開か?

 が、無い。


「いやいや。頼むよ。逆に何が駄目なんですか?」


「幼いエルフの姉妹を奴隷にしている変態野郎とは付き合いできねー」


 あー。なーるほど。それもそうだ。

これは俺が言い訳しても同じなので、エリフェスにお願いした。


「そうだったのか。お前達も苦労したんだな。で、お前さんもさっきはすまねー。エルフの勇者とはな。俺もビックリだぜ。わかった俺が剣を作ってやる」


 そこからは剣のサイズとかの調整を行い、素材はミスリル銀を使ってくれるようだ。金貨500枚を請求されるようだが、まったく問題ないし期待が膨らむ。


「今から一週間後に取りに来い」


「3日後に王都に行くので、多少遅れるかもしれませんが先にお金を払っておきましょうか?」


「バンスの紹介だ。それは後からでいい。あと遅れる分には問題ない」


「ありがとうございます。ではよろしくお願いいたします」


 いやーよかった。ライムはかなり満足して上機嫌で街を散歩していると、

何やら大きな声で喧嘩をしている場面に出くわした。


「俺が先に目を付けたんだ!」


「違う! 今日俺が契約する約束になってるんだ!」


 何やら奴隷の買い付けで揉めてるようだ。前に聞いた奴隷契約の話の中で、唯一無条件となるのが犯罪や戦争捕虜の奴隷だ。

犯罪の場合はその保証金額の内容に応じて期間や条件が、戦争捕虜はその家族が買い戻してくれれば奴隷から解放されるが、期間が過ぎると戦争補償として奴隷として売却される。それこそ犯罪者よりも条件が悪くなる可能性がある。


 こそっと近くのおばさんにこの喧嘩の話を聞くと、どうやら今回はガイア帝国との小競り合いで捕らえられた捕虜のようだが、恐らく安く雇われたハンターのようで。ハンターといえど戦争に参加すると当然扱いは同じとなり、その保釈金を払えなければ戦争捕虜となる。そして今回は若い女性ということもあり、変態さん達が競っているようだ。


「はぁ。せっかく気分よかったのに気持ち悪いもの見ちゃったな」


「勇者様、助けてあげて」


「あの子、可哀そうなのよ」


「えー絶対いやだ。だってお前達すらどうするのか悩んでるのに増えたら、もっと面倒じゃん」


「あの子元ハンターでしょ? だったら私たちと組んでハンターで活動できます」


「そもそもお前達弱いし、捕まったくらいだからあの子も弱いはず」


「弱くないのよ。お兄ちゃんが異常なのよ」


「お願いします! 見ててほっとけないし、お金はハンターで稼いで私が返しますから!」


「あーもう。悪い奴かもしれないし話だけは聞くけど、事情によってはパスする。これが条件だ」


「それでいいのよ」


「あー。すみません。その奴隷ってどういう事情で奴隷になったんですか?」


 喧嘩を横目に奴隷商人に話かけると


「うん? 奴隷になった理由? まぁ少し同情しちまうが、相変わらずの帝国との小競り合いでオズワルド辺境伯に強引に争いに参加させられて、しかも火種のために嵌められて捕虜になったと聞いたぞ。当然、捕虜として帝国に請求したが知らぬ存ぜぬで見殺しだ。足の健を斬られてるし、まともに歩けないし本人は見た通り絶望してる。奴隷商やってる俺がいうのもなんだが、不運な女だぜ」


「ほう。オズワルド辺境伯に嵌められたって事ですか‥‥‥。して金額はいくらですか?」


「戦争捕虜だから吹っ掛けられて金貨1000枚。ただし条件はなしだ。要するにそこで争っている奴は、趣味が悪い奴ってことだな」


「そうか。なら俺が買うよ」


「見てわかんねーのか? 三つ巴で喧嘩するのも好きにすればいいが、あいつらは分かるだろ? 女を商売に使うようなやつらだ。揉めるのはおすすめしないぞ」


「ならあいつらを黙らせれば俺が契約ってことでいいですか?」


「できるならな。知らねーぞ」


「おーい。そこの二人、悪いけど俺がこの子買うことにしたから、諦めてくれないか?」


「おん? 何言ってんだ小僧!」


「今大人の話をしてんだ。テメーの出る幕じゃーねーよ? ケガするぜ?」


「あんまりこういうのは好きじゃないけど、俺はキュロス家の者だ。訳あってこの子を買うことにした。すまないが他をあたってくれ」


「キュロス家? テメー適当なこといってんじゃないぞ!」


「上等だ。お前ウチの事務所で話をしようか?」


 野次馬が一層増えて興味津々で状況を見守っている。

が、そこの一人が


「あっ! お兄さん。知ってる! 前にゴローキ組をボコボコどころか半殺しにした人だよな? あれは見てて爽快だったぜ」


 と前のゴローキ組との小競り合いを見てた人が大きな声で声を掛けてくる。

俺は知らなかったが、あの話は民衆の間でかなり有名なようで、治安が良くなったと評価が高いようだ。


「げっ! お前さんが例の?」


「早く言ってくれよ~。善良な市民の俺がキュロス領主様に逆らえるわけないじゃん」


 いきがってた二人は人が変わったように、どうぞどうぞと後ずさりしていく。


「別に商売に口は出さないけど、この街の治安を悪くしたら?」


「へい! もちろんです。ではこの辺で失礼します」「しちれいします」


 なぜか二人は手をつないで去っていった。

なかなかシュールな光景だな。


「っということで、金貨1000枚ね。で条件は無しだったな。だから、条件を決める。キュロス家すべての情報を他に話さないのと、俺の情報も他に話さない。この二つが条件だ」


「え。え。あの旦那。展開がはえーよ。金貨1000枚だして逆に条件つけるので?」


「まぁ~事情があるってことで」


 なぜか周りは拍手喝采となり、民衆はキュロス家を讃えている。

そうなるとなぜかライムも誇らしい気持ちになったとさ。

































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