第9話 無双

 ライムはこの世界では強い者が、何を言ってもまかり通ると認識している。

前世の性格からすると考えられないが、


「おまえ!いい度胸だ。訓練場にこい! 指導してやる」


「買取カウンターの人、それでいいの?」


「自業自得だねーわたしゃ知らないよー。ただしこの中で戦闘したら除名だからねー」


「あー。じゃ~いくか。案内してくれ」


 周辺の飲んだくれのハンターも盛り上がっていて、よくあることなのかオッズが決まって掛けが始まっている。

 案内? されるまま訓練場について条件を話し出す。


「俺っちが勝ったら俺の奴隷になれ。自信があるなら受けるだろ?」


「まぁ~安い挑発だが、受けてやるよ。じゃー俺が勝ったらお前は俺の奴隷だな」


「口頭だが全員が証人だ。守ってもらうぜ?」


「それはお互い様だな。で、ルールはどうするんだ?」


「自分の奴隷になる奴を殺すわけないだろ。ルールはなんでもありだ」


「たしかに。じゃーそれで」


 掛けの胴元になったと思われる奴が仕切りだす。


「聞いての通り、ルールはなんでもありで負ければ奴隷だ。では、はじめ!!」


 こんな奴らにスキルを見せびらかすのも気が引けるし、鑑定するとレベル20の雑魚だごり押しでも瞬殺だな。


「いくぜ! おらっ!」


 威勢のいい言葉と同時に、くそノロい動きで剣を振り下ろしてくる。

それをで弾き飛ばす。


 ガーンっ!と音と共に名前も知らない雑魚の剣は、訓練場の壁に突き刺さる。

訓練場にいる全ての人間が、「えっ?」と呟いたように聞こえた。


「まだやる? 正直弱すぎて一撃で死んでしまいそうだから降参してほしいんだけど」


「なっ! なっ! おまえ卑怯な手を使ったな!!」


「うーん。ステータス的には卑怯っぽいけど、なんでも有りなんでしょ?」


「こんなのは無効だ! なにか裏があるに違いない!」


 なんだか面倒になってきたから。

切り落としちゃうか?と考えたと同時に行動に移した。


「ぎゃーーーーーーーー」


「まだやる?」


 そこにセバスさんと髭を蓄えたおじさんが訓練場に入ってきて


「ライム様。そこまででお願い致します」


 とセバスさんが仰々しくおじきをしてくる。


「あっはい。セバスさんハンター組合って色々ルールがあって覚えるの大変ですね」


 そういうとセバスさんは吹き出した。


「失礼。あまりにも面白くて笑ってしまいました。そこのハンターはほっておいて、こちらに来ていただけますか?」


「わかりました。一応勝った方が負けた方を奴隷にする約束があるのですが、この世界は奴隷制度があるんですね?」


「そうですか? では組合長そのように手続きお願いしますね。ライム様、奴隷は初めてのご様子、本日屋敷に戻られましたらご説明いたします」


「ありがとうございます」


 訓練場にいるハンター達は、セバスさんや組合長がいる前で、あっけらかんと話すライムに戦慄を覚えているようで絶句している。



「ライム殿すまなかった」


 ビルド組合長が何故か俺に頭を下げている。


「え? 頭を上げてください! ビルド組合長から謝られる理由がわかりません」


 またしてもセバスさんが笑ってる。屋敷ではまるで感情がないかのような対応をするセバスさんの楽しいそうな顔を見ると俺も嬉しくなる。


「ビルドさん。お話した通りのお方です。御屋形様はこれを先に読んでおられたのでわたしを派遣したのですよ」


「面目ねぇ。今後こうならないようにスタッフに強く言い聞かせる。またハンターの奴らにも言い聞かせるが、すでに言う必要もなくなったかもしれんな」


「別に私どもはハンター組合に無理強いはしませんが、ライム様はキュロス家のでございます故、トラブルになった時の仲裁は期待されないほうがよろしいかと」


「あんたが来た時点でちゃんと理解してる。が遅かっただけだ‥‥‥」


「ライム様。登録は出来ましたか?」


「はい。それはスムーズにできましたが、魔石の買取でもめちゃって」


「なるほど、、組合長。先程お話した通り、ライム様がお持ちの魔石は種類、数ともに少々刺激が強いと思われますので、専用窓口をお勧め致します」


「ライム殿、どれくらいお持ちで?」


「ビルド組合長。俺への話し方は出来ればいつもどうりにお願いできませんか?できれば俺も楽に話したいし」


「おっ! 助かる。お前も好きな話し方でいいぞ。で、ここに少し出せるか?」


「1万個くらいあるけど、大きいの出せばいいの?」


「い!いちま。。はぁ。大きいの10個くらいで頼む」


「じゃ~。コレとコレとコレとかどうかな」


 先日、食料として提供したハイオークとボア、で人型トカゲとかも結構大きい魔石を持ってたな。


「なんだこのサイズは‥‥‥。鑑定していいか?」


「してもいいけど、オークとボアとトカゲだよ?」


「なっ! ジェネラルオーク、ハイグレードボア、リザードンボス。セバス殿、彼はいったい‥‥‥」


「はい。キュロス家の家族でございます。それ以外の何者でもありません」


「おっと。キュロス家の家族を詮索して死にたくないわ。で、ライムこのレベルの魔石はどれくらいある?」


「うーーん。このサイズは1000個くらい?これの半分くらいのが大半かな」


「1000個か。100個ほど売ってくれないか? あと残りも厚かましいお願いだが他には売らないでほしい。小さい方は任せるが、これはトラブルを防ぐためでもある」


「それは別にいいけど、これってどれくらいの価値があるんだ?」


「一つ金貨100枚。素材があれば別途だ」


 セバスさんの顔を見ると、にこやかな顔をしているから問題ないだろう。

一応、金銭を現世感覚で話すと、金貨は1万円、銀貨は千円、銅貨が百円、鉄貨が十円といった感覚だ。その上が金貨10枚で白金貨となる。

だから今回は、100万×100個だから1億円!!


「素材はオークやボアはキュロス家で食べる予定だから、トカゲとかなら別にいいけど」


「やっぱりあるのか。お前の言うトカゲはリザードンボスといって骨や皮膚が武器や防具に流用できる希少価値の高いものだ。Sクラスのハンターが数人で討伐するレベルの魔物だから一体まるまるあれば、一体金貨1000枚は下らないぞ」


「へぇ~腐らすのも勿体ないし、100体ほど出すよ」


「100か、、組合が破産するわ!!」


「ではライム様、よろしければキュリオ家が買い取ってオークションにでも出しますか」


「セバスさん。キュリオ家で買うなら、お金はいらないですよ」


「そんなわけにはいきません。御屋形様に叱られます」


「じゃー半額の金貨500枚で。逆に俺もそれが条件です」


「いやはや。一度相談いたします」


「なんつー話をしてやがる。しかし頼むウチにも10体だけ売ってくれ!」


「俺もハンターになるし、お世話になる予定だからいいですよ。セバスさんいいですか?」


「それはもちろんでございます」


「じゃー魔石とトカゲをどこに置いたらいい?」


「おぅ! こっちにきてくれ」


 組合の裏にある解体倉庫みたいな場所に連れてこられた。

解体担当に組合長から説明をしているみたいだが、疑心暗鬼な目で見てくる。

別にいいけど。

 とりあえず、魔石とトカゲを指定の場所に出したら、担当者が腰を抜かして倒れてる。


「支払いはこのハンターカードってことですか?」


「話が早いな。そうだ。で、ついでにハンターランクをAランクまで上げてくるから少し待っててくれ」


「え? いきなりAランクは不味くないですか? セオリー的に」


「セオリー? いや。文句は言わせない。世界のSランク総出でもお前に勝てる見込みがないのに、誰が文句を言えるんだ。ハンターは実力でモノをいう業界だ」


「やっぱりそうですよね。だからさっきそういったのに。あっ! 奴隷くんはどうしよ。今更だけど、やっぱりアレいらないや」


「うちの受付も悪かったが、めちゃくちゃ可哀そうだな。あの腕じゃーどのみちハンターは続けられねぇ。どのみち奴隷落ちだ」


「うーん。セバスさんいりますか?」


「売れば良いのでは?」


「あんまり奴隷を売るってのは気持ちが悪い感じがするんですよね~。じゃー腕を治してあげるから、次はないってことで解放します」


「腕を治す?! お前も無茶苦茶だな。もういいや。それで頼むわ。後は俺がちゃんと指導しとくからよ」


 医務室によって、斬った腕を付けてやった。

神様のように崇められて御礼を言われるが、そそくさと退出して組合長からAランクのハンターカードを貰って、屋敷に帰ることにした。

 本当は街の散策をしたかったけど、なんだか森にいるより疲れる。

人と話すのが相変わらず苦手なようだ。






















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