第8話 一般教養

 

 コンコンッ


「はいってくれ」


「失礼します」


「騎士団に訓練をつけれくれたのだろう。どうだった?」


「はい。すごく洗練され士気も高い素晴らしい方達でした」


「うむ。謙遜抜きにして、本音はどうだ?」


「はい。もう少しレベルを上げる方法を訓練に取り入れるべきかと」


「なるほど。それなりに高いレベルを持っていると思うが、足りんか。ちなみにライム君のレベルは聞いてもよいか?」


「・・・・・・。これはゼットさんだけの秘密でお願いできますか?」


「もちろんだ。キュロスの名に誓って」


「レベルは、、200です。今はステータス偽造してます」


「に! にひゃ。。まぁそうだろうな。あれだけの魔物を瞬殺すると言っていたし」


「それは特殊スキルが関係するのですが、自分自身を霧に変えられるのと、それを攻撃に転用できますので、対魔物になると非常に優位なスキルとなります」


「ほう。では今度家族と一緒に狩りをしに出かけないか? 騎士団はそのスキルを知っているんだろ?」


「そうですね。構いませんよ」


「それはよかった。で、今後の話だが、やはりハンターで活動する方向性かな?」


「そうですね。とりあえずは自分の食い扶持くらいは稼ごうかと思ってます」


「まぁーその力を有効活用するのは良い事だ。ただ世の中は過信する人間がほとんどなんだが、ライム君の場合は逆で、強いことは理解しているが、を分かってない。要するに過小評価していると言う事に大きな問題がある」


「そ、そうですか。8歳から森で生活してたから、もしかしたらそうなのかも知れません」


「それがそもそも異常なんだ。あの森の奥は神の庭と呼ばれ恐れられている。Sランクのハンターがチームを組んでも生きて帰れない。もし奥まで行ってなかったとしても、通常より魔物の数が多く、とてもじゃないが暮らすことは不可能だ」


「最終的には恐らく中心に近い湖の辺りに小屋を建ててキリと一緒に暮らしてました」


「なんてことだ。神の泉、、、本当に存在したのか」


「神の泉? 普通の湖でしたけど」


「普通の? そんな筈はない。その水を飲めばあらゆる病を治し不老の効果があると伝説にはあるぞ」


「えっ! 不老!? えーーー」


「鑑定したか? はぁー。してないだろうな」


「はい。すいません。。」


「とんでもない奴が家族になったもんだ。しかし、それさえあれば王妃様を治す事が出来たと思えば少し残念だが」


「えっ。王妃様が病気なんですか? あっそういえば飲み水として今もってますよ?」


 ブーーーっと紅茶を天井に向けて吹いた。


「ごほごほっ。なんだと! み、みせてくれ」


「は、はい。えーと、これです」


 収納スキルから水を入れた壺を出した。

ゴブリン集落からもらった壺だが、水を貯めるのに重宝していた。

 ゼットさんはすぐさま鑑定しているようだ。


「ライム君。どうかこの神水をわけてもらえないだろうか? どうかこの通りだ」


 深々と頭を下げるゼットに呆れながら


「やめてください。ただの飲み水ですから!」


「一度、自分で鑑定してみてくれ」


 そんなに言われると気になるし鑑定してみると、神水しんすいとなっている。


「あっ本当だ。神水ってなってる。効能はわからないけど」


「はぁー。常識を伝える前に非常識をぶつけられるとは。しかしこれで王妃が救えるかもしれん」


「どうぞ。差し上げますので、如何様にもお使いください」


「すまない。この件は王にもしっかり伝える」


「あっ! それは厄介ごとの匂いがしますので、ご遠慮いたします」


「なに?! これだけでどれだけの価値が、、ふぅー。そうだったな。わかった。厄介ごとは私がすべて排除しよう。とにかく深く感謝していることは理解してくれ。いずれにしてもライム君に常識を伝えるのは難しいが、このままハンター組合に登録するにしても、トラブルの匂いしかしない。もはや相手が可哀想だ。だから、セバス! おるか?」


「はい。旦那様」


 いつのまに! セバスさんは転移魔法でも使えるのか?!


「明日ハンター組合にライム君を案内してくれ。それから組合長のビルドにライム君の事を説明することを忘れるな」


「はい。賜りました」


「あっ。セバスさんよろしくお願いします」


「喜んでご一緒致します。では明日。失礼いたします」



【ゼット談】


「サーラ喜べ。王妃を助けることが出来るかもしれん」


「えっ! しかし義姉さんは不治の病で完治はしないと」


「かみの。神水が手に入ったのだ」


「あなた。誰ぞに騙されるとは、あなたらしくないわ。あれは伝説。あったとしても誰も取りにいけませんわ」


「一人いるだろう? 神の庭で暮らせる人間が」


「まっ、まさか、ライム様が?!」


「そうだ。その神の泉のほとりで暮らしていたそうで、彼からすると、ただの水のようだが、鑑定すると神水となっている。これを見よ」


「あーーー。神様。ワタクシ達は彼にどのように恩を返せばいいのでしょうか」


「ふふっ。厄介ごとは嫌だそうだ。全力で守るぞ。たとえ相手が王であってもだ」


「うふふ。初めからそうでしたね。ええ。ワタクシもご一緒しますわ」


「とはいえ。またしてもライム君に助けられたな」


「そうですわね」



 明朝、朝食を済ませて準備をした。

元貴族という事もあって、少し生活に順応しつつあるが、遠慮もありながら生まれて初めて落ち着いて暮らしている。


「セバスさん。本日宜しくお願いします」


「はい。では参りましょうか」


 やはりというか豪華な馬車が屋敷前に到着し、セバスさんから乗るようにそくされる。

こんなキュリオ家丸出しの馬車でハンター組合に乗り付けて大丈夫なのか?


 やはり。領民からも慕われているようで、通る道でも皆が頭を下げる。

 ライムは恐縮するが、セバスさんはニコニコとごく自然に振る舞っている。

 どれくらい走ったか、ゆっくり馬車は停車した。


「どうやら到着したようです」


「そうですね。では俺は登録してきます」


「はい。私は組合長にご挨拶してまいりますので、終わりましたら合流しましょう」


 ハンター組合に入ると想像以上に普通だった。役所の受付のような感じだが、少し違うのが昼酒が飲めそうなBARのような場所が隣接していることだ。

 毎日命懸けの仕事だから酒くらい飲みたくなる気持ちもわかるが、ちょっとうるさいかも。


「あの。ハンター登録をしたいのだか」


「はい。登録料として銀貨1枚頂きます」


 予め用意していた銀貨を差し出す。


「確かに頂戴致しました。こちらの水晶に手を当てて魔力を流してください」


 言われた通り水晶に魔力を流す。


「こっ。これは。少し魔力が多いようですね。登録名をいかがなさいますか?」


「え? 名前はライムだけど、偽名でもいいのか?」


「偽名といいますか、あだ名で登録される方もいますので」


「まぁ。ライムで登録してくれ」


「承知しました。ではこれで登録は完了です。このカードを無くさずにお待ちください。銀行機能も付いておりますので無くされると再発行に銀貨5枚をお支払い頂く事になります。また今回ライムさんはFランクからのスタートとなりますが、依頼達成度や依頼受託数によってランクアップ可能です。Sランクを目指して頑張って下さい」


「実は既に魔石を納品したいのだが、買取はどこで? それと納品はランクアップの評価につながると聞いたのだか」


「そうですよね。ハンターに登録される方は遅くても15歳。ライムさんは独自で活動されていたってことですよね。買取はあちらのカウンターでお願いします。もちろん実績として上がりますので評価には反映されますよ」


「そうか。ありがとう」


「どう致しまして。では。

次の方〜?」


 非常に淡々として的確なやり取りに満足して、買取カウンターに移動した。


「魔石の買取をお願いしたいのだが」


「はーい。ハンターカードを」


 ハンターカードを差し出した。

わかりやすく面倒くさそうな顔に変化した。


「このカゴに魔石を入れてー」


 八百屋さんに有りそうな小さなカゴだ。

もちろんライムが持つ量を考えると全く乗らない


「数えてないが、恐らく魔石が一万個程あるのだが、もう少し大きなカゴはないか?」


「はぁー? 何おかしな事いってんのーFランクが変な見栄はるんじゃないよー」


「いや。見栄というよりさっさとハンターランク上げたいだけなんだが、難しいなら100個ならいけるか?」


「ほんと口が減らないFランクだねー」


「見て貰えればわかるだろ? じゃーそのカゴに大きめの魔石5個ほど積むよ」  


 この一連のやりとりがトラブルに見えたのか。

この買取スタッフと面識のあるハンターが声をかけてきた。


「おいおいお兄さん。少し話が聞こえたがFランクで魔石を100個だのなんだのって嘘言っちゃーだめだよ? もし持ってるなら俺っちに見せてみな? 話通してやるからよ」


「嘘じゃないけど、オタクに預ける理由はないから、もういいよ」


「ちゃんと説明しなかった俺っちが悪いが、これでもDランクハンターだ。先輩の言うこと聞いた方が身のためだぜ?」


「すいません。自分より弱くてもハンターランクが上なら言うことを聞くのが一般常識なのか?」


「なにっ!!」


「いや。一般常識の勉強中なんだ」


 ハンター組合中が笑いに包まれた。

ライムには、何がどうなってるか理解できない。



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