第7話 家族
「でだ。ライム殿。もし嫌じゃなければ、この屋敷に住まないか?」
「えっ? いや。それは有難いですが、、」
「何かやりたい事でもあるのか?」
「いえ。ただ理不尽に負けない力が欲しいと。その一心で頑張って来ました。逆に今となればやりたい事は何もありません」
「であれば、それが見つかるまで此処にいればいい。なに、力があればハンターとして身を立てる事も安易だろう。住む事に関しては気にしなくていい。見ての通り部屋は潤沢にある」
ライムは初めての善意に戸惑ってしまった。
残念な事に他意を勘繰ってしまう悲しい性格が返事を邪魔していた。
「ライムお兄ちゃん! 僕を鍛えてくれませんか? 僕も母上を守れる男になりたいんだ」
淀みのない綺麗な心に背中を押された。
「わかった。強い心を持つアインならすぐに強くなれるよ」
「おー。では、今日からライム殿は、いやライム君は家族としてキュロス家に迎え入れることとなった。めでたい!」
「嬉しいですわ!」
「やったーーー」
キキッ! なぜかキリも嬉しそうだ。アインに相当懐いたようだな。
「恐縮ですが本日よりお世話になります。皆さんも宜しくお願いします」
ワーっと屋敷中から歓声が上がった。
ライムは嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。涙はなんとか誤魔化せたようだ。
◇
◇
◇
翌朝、家族で朝食をとっていると。
「ライム殿! 改めてですが先日は命を救って頂きありがとうございました。この通り完治致しまして今日より復帰いたします。早速ですが、本日お時間が空いておられましたら、騎士団を鍛えて頂けないかと。キュロス家のため何卒お力添えをお願いしたく」
「おいおい。ザッツ。気が早いだろう。ライム君もまだ環境になれていないんだ」
「いえ。お役に立てるなら是非に。食べ終わり次第準備しますね」
「おーー! 流石は英雄殿だ! では裏の修練場でお待ちしております」
「わかりました。ただザッツさん。俺に敬語は不要です。ただのライムとお呼びください」
「はははっ。わかった。ライム殿。是非に頼む!」
「わかりました」
「ライム君。すまないな。ザッツは俗に言う戦闘狂でな。前回は不覚を取ったが、本来はかなりの強者なのだ」
「身を張って弓矢を受けた忠誠心と勇猛さを理解しております。それが無ければ俺がいなくても対処できたこともわかります。だから俺も協力できる事はしたいと思ってます」
「そう言ってくれると嬉しいな。でその前に主たる使用人を紹介しておく。皆のものは入ってくれ」
「改めてまして、私が執事長を務めておりますセバスと申します。隣におりますのがメイド長のベッキーです。そしてこちらが料理長のボンズでございます。どうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそ。居候をされて頂きますライムです。よろしくお願いします。あっそうだ!
少しばかりのお礼といいますか、沢山の食べ物を持ってまして、お肉中心ですがこのままだと腐るだけなので、貰ってもらえませんか?」
「おー! 是非にお見せ頂けますか!」
料理長のボンズがテンション高めで喜んでくれた。
「森で取った獲物や果物が中心ですが結構な量がありまして、どこに出しましょうか?」
「ライム殿は収納スキルをお持ちですか。では裏に食糧庫がありますので、そちらにお願いできますか?」
「わかりました。では早速」
ひゃーーーー!
料理長の大きい叫び声が屋敷に木霊した。
突然の事でライムのビックリして固まってしまった。声を聞きつけゼットさんやサーラさんまで来てしまっている。
「なんだ! これは・・・・・・。ジェネラルオーク。ハイグレードボア。幻の果実のバーナ、、、ちょっと待て! なんだこれは」
「え? ジェネラルオーク? ただのハイオークですよ。こんなのは腐るほどありますが」
「ライム君は魔物を鑑定しないのか?」
「最初は鑑定してましたが、どのみち瞬殺なので最近はやってませんね」
「瞬殺、、、皆の者この件は守秘とする。でライム君。ザッツとの訓練が終わり次第少し世間の常識について擦り合わせをしよう」
「世間の常識ですか。。わかりました」
◇
◇
◇
「おかしいなぁ。まさか常識を疑われるとは」
「おっ。ライム殿! 待ってたぞ!」
「お待たせしました。ちょっとひと騒動ありまして」
「いやいや。でいきなりで悪いが吾輩とひと勝負してくれんか?」
「問題ないですが、俺の場合は特殊スキルを使うと、生意気ですけど無敵なんですが、剣だけにしますか?」
「ほー。いやいや。吾輩もスキルを使わせてもらう故、是非に」
「わかりました。では」
見渡すと100名程の騎士団が全員? 集合して周りを囲んでいる。
「では正々堂々。はじめ!」
ザッツさんは合図と同時に凄いスピードで間合いを詰めて槍を突いてくる。
槍と盾の正に騎士。そしてどの攻撃も一流であることに疑う余地はない。
が。
《霧化》
そう。ライムに物理攻撃は当たらない。
「なっ! ならば《ファイアーボール》」
素晴らしい判断で魔法を放つ。
しかしあの骸骨との一戦から、その辺りの弱点も克服している。対策は何通りもあるが、
《氷霧》
かなり魔力を込めた《氷霧》を自信の周辺に展開することで、ファイアーボールは途中で飛散する。つまり魔法は魔法に干渉するのが摂理だが、氷霧は魔力を込めることで魔法すら凍らすことができる。
《濃霧》
「なに? どこだ!」
背後から優しく首に剣を置いて濃霧を消した。
「これで終わりです」
ザッツはプルプルと肩を振るわせた。
怒ったかな?
「ガハハハ!! キュロス騎士団よ。この吾輩が何もできずに負ける姿を見たか? これが英雄様だ。ファイアーボールを凍らせたスキルを、もしこっちに放たれていたら勝負は一瞬で決まっていただろう。そしてその英雄様が我らの家族になった。だからこそ英雄様から学び、もっと精進してキュロス家に貢献するのだ! わかったかー!」
「「「「「おーーーー!」」」」」
「えー。。ザッツさん恥ずかしいからやめてくださいよ」
ライムは家族と言われた事、また騎士団からも受け入れられた感じがして少し照れたと同時に、守りたいとも思った。
「ライム殿。改めてよろしく頼む」
「あっはい。こちらこそよろしくお願いします」
「でだ。ライム殿はこれからどうするつもりだ? もちろん騎士団に入れなど言わないが、入って貰えれば嬉しいが」
「お気持ちは嬉しいですが、俺自身も自分の進むべき道に迷っている状態ですので、とりあえずはハンターにでも登録しようかと思ってます」
「残念だがライム殿の気持ちを優先すべきだな。ハンターになれば明日にでもSランクだろう。ただ一つおりいって相談がある」
「ありがとうございます。で相談とは?」
「うむ。ライム殿に助けてもらった賊の件だが、奴らは唯の賊ではなかった。非常に訓練された集団だ。恐らくはサーラ様やアイン様を誘拐し、ゼット様になんらかの要求をするつもりだったのだろう。知っての通りキュロス家は大きな力を持つ大貴族だ。考えたくはないが王国内での派閥争いの可能性が高いと思われる。そうでなければあのタイミングを狙えるとは思えないのだ。だから出来ればその力を使ってキュロス家を守ってほしい。本来は吾輩の責務であり誇りも持っている。が吾輩の小さなプライドよりもキュロス家の安全を守りたい。どうだろうか」
前世でもこんな出来た人物がいただろうか?
こんなにも忠実な人の願いは応援したくなる。
「わかりました。どれだけ出来るかわかりませんが、ご期待に答えられるよう尽力します」
「おーーー! 本当か! ありがとう!」
半泣きになって感謝されるのは人生で初めてだ。今になって自分が力をつけた本当の意味を、この為だったのかと思えるほどに。
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