第6話 OHANASHI
「でね。ライムお兄ちゃんがね。パチッとね。こうやってね」
「これアイン。嬉しいのはワタクシも同じですけど、少し落ち着きなさい」
やはり才覚ある子供とはいえ、会話を聞いていると無邪気な子供だ。
馬車の中は思ったより広く、団長は恐縮しながら隅に座っている。
ランクの低い魔物も気が引き締まった騎士団には相手にならないようで、順調に進んでいる。がいつ到着するのか肌感覚で2時間は乗っているような気がする。
「サーラ様。まもなく我が街キュロスに到着致します」
「ライムお兄ちゃん! もうすぐ着くからね。着いたら僕の部屋で遊ぼうよ」
「お部屋で遊んでやりたいが、少しゆっくりさせて貰えると嬉しいかな」
「アイン。無理を言ってはいけません」
目に見えてショボンとしてるアインを見てると可哀そうだし。
「キリ。この子と遊ぶか?俺はやる事が多い」
キキッと嬉しそうに返事をしたのでオッケーってことだろう。
「ライム様。よく見るとそのキリちゃんはキリングモンキーでは‥‥‥」
「そうですよ。けど、見ての通りテイムしてますし危険はありませんが心配ですか?」
「キリングモンキーをテイムされるなんて、ライム様はとんでもないお方ですこと。危険の心配などしておりませんわ。むしろ感心しておりますの」
「それならよかった。アインくんキリだよ」
キリは俺の方からアインの頭に飛び乗った。
「うわ! ビックリした~やったなぁ~」
少し時間が経つとアインがキリの毛づくろいをやらされてる‥‥‥。
上下関係ができたようだ。貴族の息子を下にするなんて、キリは凄いよ。
「サーラ様、アイン様、ご帰還。ご開場~!!」
御者の大きな声が聞こえて城壁に守られた街の姿が見えた。
でっか! オズワルド辺境伯より遥かに活気があって見ててワクワクする。
馬車はそのまま奥へ奥へ進み、一番大きな宅地と言うか城に到着した。
馬車の扉が開くと、兵士並びにメイドや執事が綺麗に整列している。
「あなた!」
「サーラ! すまない。俺のせいで。アインもすまなかった」
今にも泣き出しそうな顔で迎えるのは、恐らくゼット・キュロス領主なのだろう。素晴らしい家族愛だな。
「あなた。この方がライム様で全員の命を救って頂いた英雄でございます」
「いや。えい「貴公が!! 早馬で報告を聞いてから私も気が気でおれんかったが、とんでもない早業で賊を討伐したときいて」」
「あなた様。ライム様はお疲れのご様子。まずはゆるりと過ごして頂いたらいかがですか?」
間違いなくアインはゼットの子供だろうと思ったことは秘密だ。
「これは失礼した。まずはライム殿この度は我が家族の危機を救って頂き感謝する。私はこのキュリオの地を治めるゼット・キュロス辺境伯だ」
「これは、ご丁寧に」
おっと。思わず貴族言葉で返答するところだった。
「俺はライムです。助けられたのはそちらのアイン君が命をかけて助けを呼んだからこそだと思います」
誇らしげに胸をはる猿付きのアインもなかなか可愛いじゃないか。
「そうか。アインよくやったな。では、早速だが本日はご夕食をご一緒にいかがでかな? 料理長も気合十分の様子。是非とも」
「森での生活が長かったので、美味しいものを頂けるのは嬉しく思います。是非ご招待にあずかりたいと思います」
うん? ちょっと丁寧語が上手すぎたか。
今は、話し方がちぐはぐなのは仕方ないか。
「よかった。では食事まではそちらのメイドがご案内するゆえ、ゆるりと過ごしてくれ」
「ご丁寧にありがとうございます。では後程楽しみにしてます」
軽く会釈してメイドの案内についていく。
いや~フルコースとか前世でもほとんど食べたことないぞ!
え? フルコースだよな。
「こちらにございます。英雄様」
「いやいや。英雄様なんて呼び方は」
「いえ、我々や家臣団も含めて本当にキュロス家を大切に思っております。おこがましくもありますが、ゼット様もサーラ様も私たちを家族と言ってくださいます。そんな大切な家族の命を救って頂きましたこと。英雄以外の何物でもありません。本日から誠心誠意お勤めさせて頂きますので、何卒よろしくお願い申し上げます」
今のライムには少し刺激が強い。なぜか嬉しくもあり、うらやましくもあり。
なんとも言えない感情の中で言葉に困った。
「ありがとう」
「あっ。すっかり熱が入り申しわけありません。夕食まで少々お時間がございます。先に湯あみをされますか」
「おっ! それはぜひ」
ライムは普通に嬉しかった。うん? そういえばキリは?
そっかアインと一緒にいるんだ。あいつ風呂嫌いだし先にいくか。
◇
◇
◇
「ふぅ」
かぽーん。って音がよく似あう庭園つきの露天風呂。
もしかしたら今回生まれて初めての幸せの感じているかも。
そんな静寂を打ち破ったのは、メイドさんかーい。
体洗う気満々の気概を感じるが、ここは戦いだ。俺は一人で風呂に入れるのだ!
「英雄様。お体をお預けください」
「いや。俺は一人でゆっくりタイプだ」
「こちらもメイドとしての吟じがございます。さぁ。」
顔を見ると
そうのぼせそうなのだ。
「わかった降参だ。だが前は勘弁してほしい」
もうね。全力でピカピカにされた。もちろん前も後ろもゴシゴシタイプで、想像したピンクの要素はまるでない。垢すりを想像してほしい。
「旅の汚れは落ちましたね。ではごゆっくり」
「メイドの吟じを見せてもらった。感謝する」
もはや感謝しかない。10年分の汚れを落としてもらった。
確かにやりがいがある仕事だったかもしれんが、お疲れ様だ。
◇
◇
◇
「英雄様お時間でございます。こちらのお召し物にお着換えください」
「お。ありがとう。ん? これを着るのか? まるで貴族だな」
シルク生地の古代ヨーロッパ? のイメージしてもらえればわかるかな。
「英雄ライム様がいらっしゃいました」
「おお。湯あみをすると、ますます美しい髪と瞳をしている。少しサーラと似ているように思うな」
「あ~。10年も森で生活すると、あまりゆっくり風呂にも入れなかったもので」
「10年森で‥‥‥。まぁ~とにかくまずは乾杯しましょう。あなた」
「うむ。ライム殿。改めてになるが今回家族の命を救って頂き感謝する。我が領地は少し特殊でな、家臣含めて全てを家族と重んじる家訓だ。団長のザッツも勿論家族である。ライム殿にハイヒールをかけてもらわなければ間違いなく死んでいたと家臣からもサーラからも聞いておる。私は家長としてライム殿に恩を返さなければならない。もしかすると迷惑な話かもしれんが、是非ともお願いしたい。長々と話しをしてしまったが、深い話は食事をしながらにしよう。では改めてライム殿の活躍に乾杯!」
「「「乾杯」」」
参加者はゼット辺境伯と妻のサーラ、長子のアイン、長女のシェイラと俺となった。特別ゲストでキリだ。
食事は前菜から始まって期待の通りフルコースの様子。
「うまい!」
「まぁ! お口に合いましたか。それは調理長が喜びますわ」
「そうだな。相当気合が入っていたようだしな。さてライム殿お聞きしたいことがあるが、もし答えたくない事があれば断ってもらってよい。質問してもいいか?」
「そうですね。ここまで大事にしてもらって答えたくない事はないですが、答えることでご迷惑をおかけする可能性がありますので」
これはライムの本心だった。元貴族であること、ゴブリンの件で逆恨みで指名手配がかかってる可能性があること。オリンポス国内の村での一件も、問題になるかもしれないと考えていた。
もちろんライムからすれば何一つ間違えていないと自負があるが、それはそれこれはこれで、貴族はそれほど面倒なメンツやルールを持ち合わせていることを知っている。
「迷惑? ライム殿は何か大きな犯罪を犯しておられるのか?」
「いえ。人生で一度も盗みも殺しも。あっ先日の賊を一人殺めてしまいましたが」
「であれば、森で10年過ごされた事に理由があると言うことですね」
この家族の本質は前世の経験からもわかっている。
ここで働く人や騎士団の俺に対する対応一つでどのような人となりが嫌というほど理解している。だから。
「俺の人生を語りますが、もし少しでもご迷惑だと感じたら、遠慮なく言ってください。それが条件ですが、知っての通り力には自信がありますので哀れみは不要です」
「もちろんそれはあり得ないが、是非に言ってみてくれ。ライム殿の武力は疑いようがないが、私も貴族としてはそれなりに力はあるぞ」
「わかりました。では。」
ガイア帝国の辺境伯ダメス・オズワルドの長子として生まれ、霧という特殊スキルが原因で、義理の母と弟にいびられ過ごし更には罠で仕掛けられて齢8歳で追い出されたこと。
その後、特殊スキル霧が覚醒し森で過ごしゴブリンの集落を潰した時、助けた人から受けた侮辱。
その後キリと出会い、人として癒された事、そして今回の賊の襲撃の前に立ち寄った村での一件を隠すことなく伝えた。もちろん前世の事は伏せているが。
話し終えた後、重苦しい空気になった。やはり問題が多すぎるか。
「ということですので、明日の朝には出立いたします。皆さんの好意には感謝しております」
おもむろにゼット辺境伯が立ち上がった。
「おい!」
やっぱり怒られた。逃げようか‥‥‥。
「いくさじゃ!!!!!! 兵を集めろ! ガイア帝国など恐れに足りず!!」
「「「「おぉーーーーーー!!!!」」」」
「えっ? あれ? ちょっと」
「ライム様。いくさにございます」
「サーラさんまで可笑しな事を!! ちょっとゼットさんも待ってください!」
「ライム様、我ら家臣団、一番槍は団長がと申しております!」
「ダメダメダメ!! ちょっとスト―――ップ!」
大声で叫んで初めて行動が止まった。
冗談抜きで戦争するつもりだった? それはそれでどうなんだ!
「もしオリンポス王国とガイア帝国の戦争になったらどうするんですか?!」
「うん? まぁ~そのあたりは後で説明することにする」
「そんなのダメですよ! ってなんで誰も止めないの?」
「うふふ。ワタクシはこれでも王家の出自ですの。文句は言わせませんわ」
「ゼットさん、サーラさん‥‥‥。怒って頂いたのは嬉しいけど、今はちょっと待ってほしい」
「ふぅ。ライム殿がそういうなら。だが振り上げた剣を下す先は、先ほど聞いたオリンポス王国の村にいた騎士団だな。ザッツ! 病み上がりですまないが、あの辺りだとリップ男爵領だろう。騎士団共々締め上げてきてくれ」
「はっ!! 喜んでお役目頂戴致します! 完膚なきまでに!」
「ライム様ご安心ください。主人はこれでも辺境伯。武力なくして辺境伯は務まりませんわ。オリンポス王国最大の武力にして他国からも恐れられておりますのよ」
「はぁ。正直、今の今までムカついてましたけど、なんだか可哀そうに思えてきた」
「いえいえ。オリンポス王国にそのような品位の無い騎士団は不要ですので、よい機会ですわ」
「では、とにかくもう一度食事に戻ろうか?」
どんだけ切り替え早いんだ!
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