第2話 プロローグ2


「おい! ライム」


 大きな声で弟であるはずのボンズが俺を呼び捨てにする。


「なんだ?」


「なんだとはなんだ! 俺は聖騎士スキルを授かった次期領主様だぞ」


「でその次期領主様がどうかしたのか?」


「俺は家庭教師から修行を付けてもらっているから、寛大な気持ちで少しお前にも教えてやろうと思ってな。ちょっと付き合えよ」


 俺はすでに8歳となっていた。ボンズは6歳にもかかわらず既にこの態度だ。

恨めしいことに聖騎士のスキルを得たことで、正直まったく

 毎回こうやって俺を叩き込むことが日常化しているが家の者は誰も見向きもしない。俺も影に隠れて前世の修練を思い出しながら頑張ってはいるが、この特殊スキルってのは、ある種ぶっ壊れスキルだ。剣術や魔法の適正を大幅にアップさせることで、とてもじゃないが勝てる見込みはない。さらに父の計らいで魔物を倒しているから既にレベルが10を超えたと聞く。俺はもっぱら部屋に軟禁状態だから勿論レベルは1のまま‥‥‥。


「ほら。そこの木刀を持て。いくぞ!」


 恐ろしい程の速さで懐に潜り込まれて、胴に強烈な一撃が撃ち込まれる。


「がっ!!」


 俺は地面でのたうち回るが、そこに水魔法を撃ちおろされる。

水圧の強さに、本当に死ぬかと思うほど息が出来なくなる。


「ひゃははははは。よっわ。ゴブリンより弱いな」


「ボンズ。弱いもの虐めはいけませんよ。貴方は次期領主なのですから哀れみも覚えなさい」


「お母さま! そうですね!」


「そんなのはほっておいて、新しいスキル書を買いに街にいきますよ」


「えっ! ほんとですか! やった~」



 こんなに情けないことはあるのか。俺もレベルさえ上がれば、、

いや。特殊スキルが霧の時点で積んでんのか。

ドロドロになった体を水魔法で洗い流し、外で服を乾くのを待つ。

 前世の記憶を合わすと30歳にもなろうとしている男が6歳に‥‥‥。

泣いたよ。声を出して。泣き終わる頃には感情が麻痺してくる。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「ない!! ないよ!!」


 朝から屋敷の中が騒がしい。どうやらボンズが何かを無くしたようで騒いでいる。


「昨日お母さまから買ってもらった収納スキル書が無いんだ!」


 そう大声が聞こえたと思ったら、俺の部屋に義母のローズが執事を連れてドカドカと入ってくる。


「この屋敷で盗みを働くなんて有能なスキルを授かったボンズを逆恨みした屑しかいませんわ! ここを調べなさい」


「ちょっと! そんなことするはずないだろ! 勝手に触るな」


 この部屋には亡き母の持ち物も大切に保管している。

だからこんな奴に荒らされたくない。


「奥様!! ありましたよ!」


「なっ!!」


 やられた! 初めから濡れ衣を着せようと。


「ほら見なさい。この屋敷に犯罪者の居場所はありません。牢に入れて旦那様に裁量をお伺いしましょう」


 もう何もかも諦めた。促されるまま牢に向かう。

恐らく家を追い出して、ボンズの領主を確固たる物にするための策略だろう。

なぜこの世には救いようのない人間が多いのだろうか。


 もういいや。諦めよう。どうでもいいや。





「ライム。お前は我が家にスキルで恥をかかせ、あろうことか盗みを働き更に恥を上塗りした。よって勘当処分とする。正式な手続きは後日行うとして、今より他人となる。今すぐ出ていくがよい」


「はい。ですが、どのみち死ぬのです。部屋から母上の遺品を一つ頂きたいのですが」

 

 もう生きるのを諦めたが、命を懸けて生んでくれた今世の母に謝りたくて、どうせ死ぬなら共にありたいと思わず言葉がこぼれ出た。


「む。わかった。一つだけだ」


 その言葉を最後に、父は、いや父であった人は立ち去った。

執事同伴のもと部屋に戻り、母の写真が貼ってあるロケットペンダントを持った。

 その足で屋敷から追い出された。そう着の身着のままで。

ただしこの領地に居られるのは迷惑だから寄合馬車を手配しているようで、それに乗るように言われたので、馬車に乗り込みそこで執事と別れた。


 目的地もわからない馬車に乗って、ガタガタと揺られて呆然とする俺に声をかける人は誰もいない。俺が無能スキルを持っている事を知っている領民だろう。


 もう何時間経ったのだろう。おしりが相当痛い。そんなことを考えながらペンダントを開けたり閉めたりしていると、どこを押したのか変な突起が出てきた。

それを押すと、なんとアイテムボックスとなっていた。周りをキョロキョロして警戒するが、ほとんどは寝ているか起きていても俺には興味が無いようで明後日の方を向いている。そのアイテムボックスにはスキル書が入っていた。


 鑑定スキルと収納スキルだ!!他にも武器類も入っているようだ。

思わず心臓がバクバクとするが、冷静に再度収納し一人になった時に確認しようとペンダントを服の内側に隠した。


 「おい! 全員起きろ! 魔物だ!」


 ウトウトしていた時に、大声で御者が叫ぶ!

ゴブリンだ! しかも数が多い! 馬車が止まって数人が応戦しているが、かなりまずい状況のように思う。その時一人が叫ぶ。


「だめだ! 逃げろ!」


 この時は衝動的にか前世の教訓なのか、俺は慌てて森の中に駆け込む。

1匹のゴブリンに見つかって追いかけてくる。

俺は必死に走る。走る。走る。後ろを振り返る余裕すらない。


「あっ!」


 この自分のドジさを怒る間もなく、ゴブリンが接近する。

この一瞬で色々な事を考える。ペンダントに入った武器を出そうか?

目くらましに魔法を使うか?

 どうする? どうする? どうする? 

3回どうすると考えた時には、ゴブリンはこん棒を振りかぶっている。


 ‥‥‥間に合わない。


  ≪霧≫


 そう。に頼ったのは、役に立たない特殊スキルだった。


 スカッ!!!!!


 嘘みたいにゴブリンがした。


「へ?」


 ゴブリンも同じような「へっ?」な顔をしている。

混乱に乗じて一瞬で距離を取り、ペンダントからショートソードを取り出し構えることが出来た。たしかにボンズにはやられっぱなしだったが、自己流ではあるがそれなりに鍛えた剣術を駆使しゴブリンに応戦する。どうやら互角のようだが。


「あっ!」


 やはり初めての実践では、頭のイメージに体が付いてこない。

大振りの剣を振り下ろしたが、こん棒で強く弾かれて隙だらけとなる。

トドメだ。と言わんばかりにゴブリンがこん棒を振り下ろす。


スカッ!!!!!


 また!! この隙にゴブリンの首に剣を一閃。

どうにかこうにかゴブリンに勝つことができた。そしてどうやらレベルが上がったようだ。その時、大きな悲鳴と共に何人かがゴブリンに抱きかかえられて連れていかれている。一瞬で身を隠しやり過ごすことに決めた。今の俺では無駄死にだから。


 とにかく登れそうな木に上がり息を潜める。

まずは落ち着いて検証が必要だ。ゴブリンが空振りした理由は明らかに霧のスキルだ。しかし‥‥‥。いや鑑定スキルだ!ペンダントから鑑定と収納スキル書を取り出し、手を当てて魔力を流す。とスキル書は消えてなくなった。初めてスキル書を使ったが少し感動してしまった。

その勢いで、もう一つの収納スキルも取得する。

今更だが異世界を感じた瞬間だ。


「鑑定!」


名前:ライム【人間/男】 

年齢:8

レベル:2

体力 :30/100

魔力 :160/200

攻撃力:50

防御力:40

俊敏性:70

特殊スキル:霧【霧化】

通常スキル:鑑定、収納、

戦闘スキル:魔法【火、風、水、土、無】

      剣術


 あっ! 霧スキルに【霧化】が付いてる。

おーーー。それより剣術が付いてるのが嬉しい。努力の賜物だよな。


 で、霧化ってのがゴブリンが空振りした理由だろうな。霧化ってまさか俺が霧になるってこと? ちょっと待てよ。それって物理攻撃無効ってこと?

おいおい。それって無敵だろ? いや魔力が消費されるのか? っと、2回使ったから1回20ポイント消費ってことだよな。


 よしよし。少し希望が湧いてきた。

それにしても腹減ったな。あたりも暗くなってきたし、空腹を紛らわせるためにも少し寝ることにしよう。


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