一体どうしてくれようか?
緋雪
なんでそうなる?
春なので……というか、夫の転職ついでに、いろいろと片付けをすることにした。
娘たちは、かなり前に、それぞれに独立している。義父が2年半前に亡くなり、義母は一昨年の暮れに脳出血を起こし、病院暮らしとなった。なので、今は、夫と二人、こんな広い家に住んでいるわけだが。
そもそも。ここの家族は、とにかく片付けが下手。娘たちは綺麗に片付けていたが、もう住まなくなると、夫が片付けきれないものをどんどん放り込むので、今や物置状態。なので、どの部屋から片付けよう? と頭を悩ませているところだ。
片付けとは、「物を置く場所を決め、使い終ったらそこに戻す」。それだけのこと。至ってシンプルなことだ。
それから大事なことは、「必要ないものは捨てる」ということ。
うちの家族は、これができない。
特に、私の夫。
夫の部屋を「片付ける」? あの「ぐちゃぐちゃ」を? 「ぐちゃぐちゃ」に比較級、最上級があるとすれば、彼の部屋は「the mostぐちゃぐちゃ」だ。
見なかったことにしたい。あれは幻影。蜃気楼。現実のものじゃないの。
まず、ゴミがちゃんと捨てられない。分別できないので、その辺中に転がっている。あと、箱。畳むということを知らないのか、送ってきたままの形で放置。あんなにしょっちゅう通販の荷物が届くのに…。そして、趣味のもの。カメラ関係、本、漫画、CD、ギター関係。それから仕事に使うドライバーなどの工具。極めつけに、仕事の書類。
これらが、見事なまでに、ぐちゃぐちゃに部屋に収まってい……いないな、ちょっとはみ出ている。
もう、これは、「カオス」。
以前、「天才の部屋は片付いていない」という説をきいたことがある。実際、東大に行った、某タレントさんのお部屋は、それはそれは、ぐちゃぐちゃだった。
確かに。確かに、自分の夫を褒めるのもどうかと思うが、彼は頭が良い。学歴関係なく、
頭の良い人は、それがどこにあるのか、ぐちゃぐちゃになっていてもわかるらしい。頭の中で整理されているのだな、きっと。
が、夫は、物が探せない人。上から見た範囲でしか探さないし、同じ所を何回も探す。頭の悪さを自負している私が探した方が、余程早い。
何故?何故なくす?
それは、即ち、使ったらもとに戻さない。もしくは、決めたところに片付けない。そして要らぬ物を捨てないから、物が増えてわからなくなる。
会社勤めをしていた頃、物凄く仕事のできる上司がいた。
彼は、退社時、机の上に何も残さず帰るのだ。書類もきっちり整理され、彼の退社後の連絡については、その机の上にメモで置いておけば、その翌朝、ちゃんと伝わるようになっていた。
一方、自分は仕事ができる! と、勝手に思っている課長。
彼の机の上は、常に「カオス」。
「課長、これって、何がどこにあるのかわかるんですか?」
一度、聞いてみたことがある。
「わかるよ〜。頭のいい奴は、どんなにぐちゃぐちゃにしてても、どこに何があるかわかってるんだよ。」
……そんなものなのか。そう思って、放置していた。
ある日、本部から電話がかかってきた。
「3課、あのセミナー、どこのクライアントも出席しないのか? 締切日過ぎたぞ?」
「セミナー?」
電話を取った先輩社員。
「通達で回ってきてるだろ!!」
「確認します!!」
「○○のセミナーについての通達って、どこで止まってる? 読んだやついるか?」
前述の仕事のできる上司が皆に尋ねるが、皆、顔を見合わせるばかり。
「まさか……?」
「ここ……?」
丁度外出してしまっていた課長。の、デスク。の、書類の山。
それは本当に「山」なのだ。まっすぐ重ねられないようで、うず高く、緩やかな稜線を描き、バランスを絶妙に保ちながら、書類が何層にも重なっている。
感心している場合ではない。
皆で、山を崩して探す。
「あった!! これだ!!」
先輩が見つけた書類は、とっくに締め切りを過ぎ、セミナー自体の締め切りさえも危ういところだった。
私達は、すぐに十数件のクライアントに手分けして電話をかけ、ギリギリ、出欠をとることができた。先方に滅茶苦茶怒られた。ついでに、報告先の本部にも散々叱られ。
そして、ヤツは、平和な顔をして、会社に戻ってきたのである。
部下に散々、
「こんなに書類をぐちゃぐちゃに管理してたら、重要事項を見逃すことだってあるでしょう!!」
と言われているのに、そのぐちゃぐちゃ書類を、またぐちゃぐちゃにされたことを怒っていた。
そしてまた、ヤツも、支店長に「お呼び出し」を食らったのは言うまでもない。
夫の話に戻れば。
実は、無謀にも、彼の部屋を2度ほど片付けたことがあるのだ。
いろんな物を種類ごとに分けながら進んでいると、大きく伸ばした私の写真が出てきた。
普通なら、「うふふ」と喜ぶところだが……
コーラの染みで半分以上汚れて出てきた「それ」に、どう反応すべきかわからず、黙って夫に見せた。
あの時の、彼の気まずそうな顔を妻は忘れないであろう。
めでたく片付けは中止になった。
皆様、「ぐちゃぐちゃ」には、くれぐれもお気をつけて。
一体どうしてくれようか? 緋雪 @hiyuki0714
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