かまってちゃんの、裏返し【BL】(KAC20233)

大竹あやめ@電子書籍化進行中

裏返し

「こらキヨ! 脱ぎっぱなしにしない!」


 僕はキヨの家に入るなり、ポイポイと制服を脱いでいくキヨを追いかけた。


 まず拾ったのはコート。見事に袖が裏返っている。僕はそれを直しながら、次の衣類を拾った。


 制服のジャケット、ネクタイ、シャツ、……まったく、尾行でもされていたら、すぐに行き先が分かるんじゃないかと思うほど、点々と衣類が落ちている彼の家はぐちゃぐちゃだ。やりっ放し、片付けないのはいつものことだけれど、もう高校も卒業するんだし、ある程度の生活力を付けてもらわないと困る。


 僕は最後の靴下を拾って表へ返すと、リビングにたどり着いた。そこにはスウェットを着ている最中の、キヨの姿がある。


「ありがとなー、ユウ」

「ありがとなーじゃない。そう思うなら自分でやって」


 僕は口を尖らせるけれど、キヨは聞いちゃいない。それどころか、ニコニコと嬉しそうに着替えを済ませ、さっさと寛ごうとしているのだ。


 幼なじみのよしみで、留守がちなキヨの母の代わりに家事をやっているけれど、これでは僕がキヨの母親みたいじゃないか。そりゃ、キヨの笑顔に絆されて、あれこれと世話を焼いてしまう僕も僕だけど。


 それに、僕たちは幼なじみという域を超えてしまっている。つまりはその、……恋人同士なのだ。


 家事以外は何でもできるのに、家事だけはダメっておかしいよな。僕はそう思って、はたと気付く。もしかして、今更ながら重要な事実に気付いてしまったかもしれない。


「あのさ、キヨ」


 勉強も、運動もできる方のキヨだ。だから器用ではあるはずなのに、そこだけぽっかり弱点になるなんて、やっぱりおかしい。


 僕は思い切って聞いてみた。


「わざとじゃ、ないよな?」

「えー? ないない! ユウがいなかったら、部屋だって散らかりまくりのぐっちゃぐちゃになるって知ってるだろ!」


 目に見えてるから、春から一緒に住むってなったんじゃないか。そう言ったキヨは笑顔だけれど、早口だ。あやしい。


 けれど僕はこれ以上深く聞くのは止めて、拾った洗濯物を洗濯機に放り込むため、浴室に向かった。


 なんだ……。僕の口角が上がる。


 まあいいか。部屋を散らかすのが僕を繋ぎ止めるための行為なら。これからもずっと一緒なんだし。僕も片付けは嫌いじゃない。


 甘いよなぁ、と僕は浴室で独りごちた。


[完]


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