ピエロはぐちゃぐちゃの世界を望む~ドラゴンを連れた鍵師と史上最弱なパーティーの仲間たちKAC版~

野林緑里

第1話

 ピエロは鼻唄を奏でながら、真っ暗な廊下を一人歩いていた。


 人の気配はない。


 ピエロの軽やかな足音だけが響き渡っているだけだ。


 いや違う。


 人がいないわけではない。


 いるのだ。


 ピエロの後ろには無数の人の姿がある。ただ誰一人立っているものなのおらず、重なりあうように倒れているのだ。


 それだけではない。よくみると壁に引き詰められたレンガがくずれ、人びとは下地気になっている。そこには生命の息吹を感じることもできず、ぐちゃぐちゃになった世界がピエロの通った道になるか拡がっているだけだった。そんなことも気にせずにピエロはスキップしながら歩き続けていく。


 やがて階段を降りていく。



「よお、久しぶりだねえ」


 一番下まで降りたピエロは視線の向こうにある鉄格子の向こう側にいる人物に話しかける。


「なにしにきた?」


 すると、鉄格子の向こうから男の声が聞こえてきた。


「久しぶりにあったのにせつないねえ」


「なんのようだ?」


 鉄格子の向こうの男は敵意丸出しに質問するも、ピエロはとくに気にしたようすもなく楽しげに笑う。


「きみを出してやろうかなあと思ってさ」


「………どうするつもりだ……」


「もちろん、鍵をあけるんだよ。そして、ぼくといっしょに遊ばないかい?」


「遊ぶ?」


「そう。君とぼくとでこの世界すべてをかきみだすんだよ」


「かきみだす? 俺とお前でか?」


「そうそう。楽しいと思うよ。この世界、いやそれだけじゃつまらないから、平行に存在するあらゆる世界をかきみだして、ぐちゃぐちゃにしちゃうんだよ。おもしろそうじゃないかい」


 ピエロの提案に鉄格子の向こうの男が黙り混む。


「あれれ? 君は知らないの? 簡単なことさ。いろんな世界をつなぐ扉の鍵を解除しちゃえばいい。そうすれば、もうあらゆる世界が入り交じって、混ざりあって、混沌へとかわるはずさ。そうなれば、どうなるんだろうね」


 ピエロは心から楽しんでいるらしく、目を輝かせる。


「くくくく。それはよいかもしれん。されど、どうする? この鉄格子は破れんぞ」


「大丈夫。僕にまかせておいてくれ。さて、僕とともに世界をぐちゃぐちゃにして楽しもう」


 ピエロの言葉に鉄格子の向こうの男は口角をあげニヤリと笑みを浮かべた。

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