第6話:邂逅
数年の時が経った。青年は、赤子から児童へと成長し、女性の勤めていた店で給仕係を任せられるようになっていた。
店で雑用を任せられて、店中を走り回っているなかで、青年は女神の言っていた歴史を体感していた。青年は、自身が前世で一所懸命に勉強していた人権や、ロック先生の唱えた自然権など近代社会学における重要概念は、すべて人間社会において人間のために創られたものであることを痛感した。
青年の仕事は、商品の維持管理や顧客の対応だけではなく、壊れた商品の回収も任せられていた。
店主いわく、青年が入る前は青年の店は薄利多売を基としており、人件費を極限まで惜しんだ結果、安く商品を買い叩き、かつそれらは使い捨てで、その商品の処理でさえ他の商品に行わせていたらしかった。それは、ナチスがアウシュヴィッツで収容者にガス室にある犠牲者の処理を行わせていた、という状況と何一つ違いはなかった。
しかし、青年が入って以降、商品の処理を一任できる人ができたため、商品に壊れた商品の処理をさせることはなくなった。これは、しかし、商品にとって不運なことでもあった。その仕事の分だけ、報酬が減るからである。
この店においては、そもそも商品は基本的に使い捨てであるために、商品に対して碌な賃金など払われていなかったが、しかし、運良く生き残ってしまった場合に生活が苦しくなる原因となるため、やはり、報酬の減少は死活問題であった。
彼らの商品に対する扱いは、彼が資料で見たどんな虐殺の手段よりも酷かった。彼らは、人間と違い、商品を性的対象ではなく、一種の玩具として見ているらしく、雑に扱うことの方が多かった。彼らは――例えば、手足をもいだり、体に穴を空けたりして、商品で遊んだ。そして、商品に飽きると満足して報酬を払い退店した。
ある日の日も沈みかけたころ、いつものように、青年は死体回収を始めた。青年が働き始めてから一年くらい経っているために、もう死体には慣れていた。
今日はどのような惨状が広がっているのか――そう思いながら掃除道具とともに部屋に入ると、そこにはいつものように血溜まりが広がっていた。
これは骨が折れそうだ――そう思いながら掃除に取り掛かったその時、青年は隠れている女性を見つけた。どうやら彼女は、彼らのお遊びから生き残ったらしかった。しかも、無傷で。
青年には葛藤が生まれた。彼女を店主に引き渡してしまえば、何らかの報酬がもらえるかもしれない。しかし、それは人道に反するのではないか。
一年もこの店で店主に従事している、という点で今更「人道が」とか言う資格はない――青年はそうも思った。
数分の時が経ち、青年は決断した。
「俺のところでかくまってあげようか?」
青年はそう彼女に問いかけた。
異世界にも社会主義を! 水薦苅しなの @Misuzukari_Shinano
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