第5話:女神との対話

「あなたの見たものが、私があなたを救世主とした理由です」

 女神は青年を一瞥すると、開口一番そういった。

 青年はその言葉の意味が分からない様子で、言葉も発せないようだった。

「あの世界では、元々人々は神の元に平等であり、――利害対立を起因とする紛争はいくつかありましたが――身分格差による争いなど起きませんでした。しかし、数年前に、彼ら――私たちはそう呼んでいます――らが世界に訪れると、その平和な日常は一変しました。彼らの見た目は、悪魔とは異なり、川の底に溜まった泥を練り合わせて、そこに人間の腕や足を何本も突き刺した形をしていました。彼らがあの世界でしたことはとても酷く、それは――筆舌に尽くしがたいものでした。」

「……あんな奴らを相手に、俺が何を出来るっていうんだ!?」

 青年は振り絞った声で女神に問いかける。


 少しの間を置いて、女神は答えた。

「私が問題視しているのは、決して彼らの強さではありません。それよりも、彼らが来てからの人間の振る舞いにあります。彼らは、当時の人間の首長――身分の格差が無かったとは言っても、大勢の人間をまとめる存在は必要です――に、人間を奴隷にするように要請しました。そして、こう付け加えたのです――従わなければ武力を以て強制的に奴隷にすると。それに慄いた首長はそれに従い、女は性奴隷に、男は労働力として奴隷となりました。そして彼らは首長を奴隷を束ねる存在へ擁立し、今現在まで、この体制が続いています。私があなたに望むことは、この不平等な状態の是正です」

 そう言うと、青年を再び例の世界へと送り込んだ。


 青年は気がつくと、女性の子供と一緒に眠っていた。夕方くらいである事が周りの景色から推察された。

 どうやら青年は危機を乗り切ったらしい。


 夜になり、女性が家へ帰ってきた。女性は無事に生存している二人の赤子を見て安堵の表情を浮かべた。

 女性は、自らの選択が誤っていないという事をただひたすら祈るしかなかった。

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