第3話:三回目の転生
青年はまた例の空間に立っていた。目の前には女神がいる。
青年は聞いた。
「神というのはそこまで厳格なのか」
「それはどういう意味なのでしょうか」
「私が無神論者であるからと言って、私に、このような無限地獄を味わわせるつもりなのか、という意味だ」
「いえ決して。そもそも我が子一人が私の教えに背いたからといって、執拗に罰しはしませんよ」
「では何故私をあのような地獄へ何度も送り込むのか」
「それは……一番最初にあなたに会った時に伝えたはずです」
――救世主
その言葉が青年の脳裏をよぎる。
「そもそも、人間が救世主を欲するのはどういう時なのか、頭のいいあなたなら分かるはずでしょう」
青年に追い打ちをかけるように女神はそう言った。
「――では幸運を」
そう女神は言い残し、青年をまたあの”地獄”へと送り込んだ。
それから青年は、数十回誕生を繰り返した。そして、赤子を捨てに来た全裸の女性を数多く見て、ついにある一つの事実を導き出した。
――赤子を墓場に捨てるのは、社会で育てられないからだ。
青年はいくつかの歴史書の読解を通して、子供はどのような世界であっても尊重される事を知っていた。それは、産んだ女性が赤子を育てられなかったとしても、その先がどうであれ、社会全体で育てる仕組みが官民問わず存在している事を意味する。
だから、この世界においても、そのような社会で子供を育てる仕組みが存在していると、青年は信じていたのであった。
しかし赤子を墓場という場所に捨てる事や、捨てに来る女性が皆全裸であった事は、この世界の文明レベルが、例え墓があろうとも、とてつもなく低いか、またはこの社会が極度の男尊女卑社会であるかのどちらかである事を示していると青年は考えた。
どちらにせよ、そういった社会では文明が成り立つ事すら危ういのであるから、計画外の子供や、まして見知らぬ子供の育成なんて不可能に決まっていると青年は推理したのだ。
社会で子供を育てられない、という事実を導いて以降、青年はその反例となるように努力をした。
青年は自身がこの世界における肉体ごと生まれ変わっていると思っていた。しかしよく観察してみると、どうやらそれは間違いであり、肉体は使い回されているらしかった。
そこで青年は歩行や便の調節などを、自身で出来るように、無限にある人生を使って訓練したのである。
そして――数十回死にながらも、歩けるようになり、数十回生まれながらも、自身の排泄行為を制御できるようになった。
ようやく一般人と同じふるまいができると青年が確信したその時、ついに彼はある計画を実行することにした。
また例の如く女性が赤子を捨てに来た時、青年は立ち上がり、女性の元へと駆けていった。そうして女性の間近まで来ると、その女性に向かって一言「助けて」と言ったのであった。
その声を聞いた途端、女性は驚きの表情を浮かべた。この墓場には赤子の骸か、虫の息の赤子しかないはずであるから無理もない。
「助けて」
その言葉をもう一回繰り返した。
――数分が経ち、女性は決心したように、青年に向かって「ついてきて」と言った。そうして女性は、青年と――捨てようと思っていた赤子と共に、もと来た道を戻っていくのだった。
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