第2話:革命者、異世界に生誕する

 まばゆい光とともに、青年は異世界へと送られた。そして、彼は――墓場で目が冷めた。

 青年は自身を取り巻く状況に疑問を思った。異世界転生といえば、通常名家の豪邸の子息となるか、着の身着のままで路上に放り出されるかの二択であると思っていたからだ。


 青年はすぐ日本語で助けを呼んだ。しかし、彼はその時、自分の声が妙に高く、若々しいことに気がついた。そうして自身の体を見渡して、初めて青年は自分が赤子となっていたことに気がついたのだった。

 ――結局しばらくの間、青年がいくら泣き叫んでも誰も来なかった。


 青年は女神の言葉――死んでも復活できる――を思い出しながら、精一杯この人生を有効活用しようと考えた。そこで彼はまず、自身の置かれた環境を観察してみることにした。

 周りを見渡すと、そこには同じようにここで死んだのであろう、赤子の死体が数百体放置されていた。その光景はさながら、戦火の中で集められ放置された死体のようであった。

 彼は前世で見た光景のどれよりも酷い光景に言葉を失った。


 そうして、その凄惨な光景を目に焼き付けながら――彼は死んだ。


 彼はしばらくして、また前の白い空間で目覚めた。


 そこには前と同じように女神がいた。

 女神は言った。

「あら? 随分早かったですね。」

「ああ、とてもひどいものを見た。私は今ひどく不思議な気分だ。あの光景はまさに『神なんていない』という言葉を体現するようであった。――神は目の前にいるのに」

「まあ」

「それで――あなたは言ったはずだ。何度でも甦れると」

「ええ」

「それはどういう意味なのだ?」

「『百聞には一見に如かず』です」


 そういうとまた青年の視界は真っ白になった。

 そしてしばらくすると――青年は、また元の墓場にいた。


 青年は女神の企みが分かった気がした。

――きっとあいつは、俺に無限地獄を味わわせる気なのだ。俺が無神論者であったばかりに。だから、こうして俺はまた赤子となり、そしてまたこの墓場で死ぬのだ。


 青年はもう泣くのをやめた。そして自分の寿命をすべて、降り立った世界の観察に充てる事にした。

 何故ここには赤子の死体があるのか? あるいは何故こんなにも赤子が死んでいるのか? 日本の清潔な環境で生まれ育った彼にとって、それは理解できないことだった。


 突然、遠くから赤子を抱きかかえた女性がやってきた。しかしその女性の姿を視界に入れた途端、彼は自身の目を疑った。女性は全裸であったのだ。全裸のまま、赤子を抱きかかえて墓場に来ているのだ。何故そのような状態であるのか、青年は疑問に思った。

 そうはいっても、彼にとってそれは助かる絶好の機会だった。そこで彼は今までに出したことのない大声で泣くことにした。

 墓場に響く二人の泣き声。片方は青年でもう片方は女性の抱えている赤子。

――さすがに、ここまで泣いたら気づくだろう。

 

 その彼の予想とは反対に、女性は青年に憐れみの視線を向けるだけだった。


――何をしているのだ? 赤ちゃんが墓場で一人泣いているんだぞ。


 すると突然、女性は青年にとって予想外の事をした。――自身の赤子をこの墓場にのだ。そして、「彼もまた捨てられたのね」と言い残して、女性は墓場から立ち去ってしまった。


 捨てられた赤子の泣き声が弱くなっていくにつれて、彼もとうとう衰弱していき、最後には死んでしまった。

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