異世界にも社会主義を!
水薦苅しなの
第1話:青年、異世界へ転生する
「与党の先進党の党首がばかだから、日本はだめなのだ。共産党ではなくては」
「いやいや、あの党首が例え裏金を流していようとも、外交関係について頑張っているからこそ、日本は安定しているのだ。ここで政権交代なんて起こってしまったら、外交問題が再び噴出し、日本は核の炎に包まれるだろう」
「そもそも、日本の政治機構はおかしい。いまや、旧財閥系企業や総合商社が経済界にのさばっており、それのせいで格差が発生してしまうのだ。やはり共産党を与党にしてこの世の構造を変えてもらう必要がある」
「いやいや、そもそも憲法に書かれている自由権によると――」
ここに、SNSで政治について激しい論争をする有象無象がいた。
そして、その中に熱烈に社会主義の実現を望む一人の青年がいた。彼は、社会運動を起こす学生が多く集うような、リベラル系の雰囲気がある大学を中退していた。
中退したとはいえ、その大学の精神は彼の心を感化しており、それ以来、ずっと働きもせずにこうしてSNSで議論を交わしては、日本政府の体制に不満を表明するのであった。
――俺がこの日本を変えてやる
彼は働きもせずにそう決意したのであった。
ある日の早朝、彼がいつも通り寝床から起き上がり、スマホを立ち上げて、「さあ、例の先進党の信者を論破しようではないか」と思ったその時、彼の心臓に激痛が走ったのであった。
青年は、熱心に社会主義を信奉しており、そのため友達というものは一人もいなかった。しかも、中退したあと、就職もせずにSNSで日本社会に恨みつらみを吐いていたので親からもほぼ勘当状態。
それゆえに助けを求めることなど出来ず、青年は、日本社会を変えられなかったという後悔を胸に、死んでしまったのだった。
ところが青年は死んだ後奇妙な状態に陥った。
青年は死んだのにも関わらず、彼は暗い空間に立っていたのである。
そしてさらに驚くべきことに――青年は無神論者であったのにも関わらず、青年の目の前には、女神がいたのである。
女神は青年にこういった。
「あなたは死にましたが、神に寄ってあなたの運命は異世界を魔王から救い平和にすることにあります。転生してその使命を果たしなさい」
しかし青年は神など端から信じておらず、自らの前にいる存在がなんであるのか疑問に思った。そこで彼は簡単な質問をすることにした。
「あなたの言葉しかと受け止めた。しかし私には疑問が残る。あなたは私に運命が定められているといった。これは西洋の職業召命観に相似する考え方だ。したがってあなたは西洋の宗教の神であると私は推測する。しかし西洋の宗教の原点によると、偶像崇拝は禁じられている。それは神というものが神聖であり、形ないものであるからだ。ならば、私の前に実像として立っているあなたは、一体どういう存在なのだろうか。お答え願いたい」
女神は微笑みこういった。
「あなたはたいそう人間界の思想に詳しいようで。ならば、あなたは『対象が認識に従う』という言葉をご存知でしょう。例え実体がなくとも、私は民衆に宗教の中で知覚されています。『存在することは知覚されること』とはよく言ったものですね。その存在がこうして二人きりの状況であなたの認識に従うことは不思議ではないでしょう。逆説的に見れば、あなたは本当の無神論者ではないのかもしれませんね」
青年はその答えに満足した。
「あなたには、何度死んでも復活できる呪いと今までのも含めて記憶をずっと保持する呪いを掛けました。これでもう死を恐れる心配はありません。さあ救世主よ、運命に従い勇敢であれ」
青年の納得した様子を伺って放たれた女神の言葉とともに、青年の視界は真っ白になった。
――そうして青年は異世界へと転生した。
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