はじめての料理

山本アヒコ

はじめての料理

 今日はママのためにボクが夜のごはんを作るんだ。

 まずは冷蔵庫からいるものを取り出して……うわあっ。引っ張り出したら落ちちゃった。

 あぶないあぶない。卵だったら割れちゃってたよ。気をつけなくちゃ。

 キャベツと豚肉を用意して、そうだ、まな板と包丁もいるんだった。ママはあぶないからって言うけど、ボクにだってできるんだ。

 豚肉、凍ってカチカチになってるけどだいじょうぶかなあ? ママはいつもどうしてたっけ?

 凍ってる豚肉はかたいなー。力をこめて小さく切る。

 次はキャベツを切るぞ。切ったリンゴみたいな形のキャベツを、切る切る切る。

 ママみたいにうまく切れない。ママはトントントンってすぐに切ってるのに。それにキャベツが散らばって集めるのがたいへんだ。床にも落ちちゃってる。

 次にいるのは、お好み焼きの粉! でもどこにあるんだろう?

 ボクはキッチンのいろんな場所を探す。奥のほうにあるのかもと思って、しょうゆやサラダ油を外に出してみたけど見つからない。

 ふりかけやみそ汁のもとがある棚を探していたら、クリップがついている使いかけのやつを見つけた。

 やった! 前にママがお好み焼き作ってくれたから、あると思ってた!

 しょうゆやふりかけの袋が床に散らかっているけど、あとで片づけよう。先にお好み焼きを作らないとママが帰ってきちゃう。

 お好み焼きの粉をボウルに入れて、水を入れて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

 ぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。

 キャベツと豚肉を入れてさらにかき混ぜる。

 ぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。

 料理がとくいなヒナナちゃんが、お好み焼きは全部混ぜればできるから簡単だよって言ってた。

 ぐちゃぐちゃ。ぐちゃぐちゃ。

 よし。混ぜたら次はフライパンで焼くだけだ。えっと……どのぐらいの熱さで焼くんだろう?

 まあいいか。一番強くすればきっと大丈夫だ。

 コンロのスイッチをぐりんと回す。

 そうだ。油をフライパンに入れないと。あっ。いっぱい出た。

 次は混ぜた粉を入れないといけないけど、ボウルにいっぱい入っていて重いから持てない。

 コップですくってフライパンに入れることにした。

 ジューっと音がして煙が出る。

 ヨーシ! これでお好み焼きができるぞ!



 帰宅した母親が見たのは、散らかり放題のキッチン。そして顔と体を粉だらけにした息子と、黒く焦げたお好み焼きだった。

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はじめての料理 山本アヒコ @lostoman916

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