一晩で一変した都市

星之瞳

第1話豪雨災害

その日は朝からいい天気、帰宅した私は母とテレビを付けながら夕飯の支度をしていた。(父は漁船の無線師だったので不在)

ところが急に雨が降り出す。その雨はだんだんと強さを増し屋根にたたきつける雨音でテレビの音が聞こえないほど。それでテレビを切ってしまった。

夕食を済ませるころになっても雨脚は収まらない。2階から道路を見た私は水があふれだしているのを見たが家の前は変わりなかったので寝てしまった。

翌日朝6時半ごろだったろうか、電話の鳴る音で目が覚めた。母が何やら話している。親戚からの電話のようだ。私は1階に降りて「テレビをつけて」と言う母の声に慌ててテレビをつけた。

そこに映し出されていたのはぐちゃぐちゃになった街の風景。

山肌は崩れ、橋が落ちていた。川があふれ、流れ出した土砂は容赦なく近隣の住宅や商店に流れ込みすべてが泥まみれになっていた。

道路は使えなくなり、アーケードの中に車が流されひっくり返っていた。

その光景に母と二人呆然とするしかなかった。

幸い私の家付近は何も被害がなかったのでこれが近くで起こっていることとはどうしても信じられなかった。


勤め先が川の近くだったので電話したら、被害はないが水が出ないので麦茶でいいから作って持ってきてほしい。と言われた。私の家は水道も電気もガスも止まっていなかったので作ってとにかく歩いて出勤した。


いつもの通勤の道はどうにか大丈夫だったが、橋が落ちていたので、遠回りして勤務先に就いた。

勤め先は土砂の流れ込みも少なくどうにか無事。その日仕事が出来たのかどうかは覚えがない


その頃物流のかなめであった国道ががけ崩れで通れなくなり物資の流入が減って物不足が起きた記憶がある。


しばらくしてガスは危険と言うので止められたが、まだ家にあった七輪で煮炊きをした。でも水道と電気が使えたのでまだましな方だったと思う。


土石流が起こった現場では行方不明者の捜索に陸上自衛隊が投入された。この後陸上自衛隊が災害現場に赴くようになったきっかけになった災害でもある。


復旧には随分と時間がかかったが、今、町はあの頃のことなど忘れたように賑わっている。


災害が起きた日には毎年慰霊祭などが行わていたがそれも近年はだんだんおこなわれなってきている。起きたころは「あの時どうしてましたか?」と聞き合っていたがそれも今は無い。


でもあのぐちゃぐちゃになってしまった町を私はその日が来るたびに思い出している。


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一晩で一変した都市 星之瞳 @tan1kuchan

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