雨の鳴る音
雨月 史
LOOP
雨の降る音……。
それは私にとっては癒しの音。
静かな雑踏は忘れていた何かを思い出す様な……心を騒がす音のよう……。
さわさわと…
静かな雨が降っていた。
深緑の季節、昼は眩しいほどの日差しが、
花を散らした桜の木の緑色を美しく照らす。
梅雨も間近に迫る5月の終わりの事だった。
私は駅で彼を待っていた。
きっと彼は傘を持っていない。
今日みたいな日はいつだって
「大丈夫。なんとかなる。」
て力強く、いい加減な前向き発言をして、
ずぶ濡れで帰る羽目になるのが目には見えていた。けれど……。
待てども待てども彼は来ない。
いつもこの時間の電車で帰ってくるのに……。
10分…20分…と時間は過ぎて、何か仕事でトラブルがあったのかも知らないと思い、後10分待った来なかったらあきらめて帰る事にした。もとから約束していたわけでもないし……。
陽の光が遠のくのと反比例して雨足は激しさを増した。サワサワがザワザワになって、私はついにはジャバジャバ、ゴーゴーと強い雨風に晒された。辺りを歩く人達も忙しなく、足早に歩みを進めて、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。
すると駅のアナウンスがながれてきた。
「荒天のため電車徐行させていただきます。ころより大幅に遅れる見込みです。」
だめだこりゃ……。
一応メールだけいれて帰ろう。
「ひどい雨なので迎えに来たけど、いつもより遅いみたいなので帰ります。傘が必要ならまた後で行くので連絡してね。」
返信もすぐには来ないと思っていたが、
驚きの速さで既読と返信が帰ってきた。
「別れよう。」
え?!!
「少し前から思ってたんだ。君との将来があまり良く見えなくなってきたんだ。俺もっと仕事に手をかけたいんだ。資格の勉強もあるし上司との付き合いもある。そうなると君の思う様な付き合いは出来ないと思うんだ。」
「そんな……一方的過ぎない?もし私の行動に問題があるなら直すし……というか今までの事だってあなたの為を思ってしてたのに………。」
返信を待つ……返ってこない。
10分、20分……たまらず電話を鳴らす。
すると突然誰かに肩をたたかれる?
「え?!」
「今日は会社休んだ。だから待っていても俺は来ないよ。無理なんだよ。もう……。」
「そんなの絶対にいやーー!!」
頭の中をぐちゃぐちゃと嫌な思いが駆け巡った。私は思わず彼を振り払い駅前の道へ出た!!
その時だった……
眩しいトラックのヘッドライトが私を照らした。私は雨風に晒されて全身グチャグチャになって前も見えなくなっていた。
運転手の慌てた顔がよく見えた……。
それでも私は車を避ける力なんてなかった。
その後はおそらく中を舞って細かな雨粒が一粒一粒鮮明に見えた。
それから腕時計の針がやたらと耳に残る。
カチカチカチカチと……。
あー私は今日で終わったんだ。
。。。。
さわさわと…
静かな雨が降っていた。
深緑の季節、昼は眩しいほどの日差しが、
花を散らした桜の木の緑色を美しく照らす。
梅雨も間近に迫る5月の終わりの事だった。
あれ?なんか前にも同じような事があったような……。
私は駅で彼を待っていた。
きっと彼は傘を持っていない。
今日みたいな日はいつだって………
違う!!やっぱり前にも同じ事を思っていた………。
「お姉ちゃん。」
小さな低学年くらいの女の子が私に話しかけてきた。
「ん?どうしたの?」
「お姉ちゃんはLOOPって知ってる?」
「LOOP?なんの事?わからないわ。」
陽の光が遠のくのと反比例して雨足は激しさを増した。サワサワがザワザワになって、私はついにはジャバジャバ、ゴーゴーと強い雨風に晒された。辺りを歩く人達も忙しなく、足早に歩みを進めて、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。
すると駅のアナウンスがながれてきた。
「わたしはね、もう今で69回同じ光景を見たきたの。」
幼い子供なのによくわからない事を言ってる。私は彼女が何を言いたいのかまるで理解出来ずにいた。
「雨がね強く降ってきてね。それで道路の、向こうにお母さんがいたからね、急いでお母さんのところに走ったの。そしたらね、大きなトラックが走ってきてね……それで私はお空へ飛んだわ……そんでね。お空からトラックからおじさんが降りて来るのが見えて……それでお母さんが走ってきて……その前にはグチャグチャの何かがあるの。なのにね……何度も何度も道路に飛び出すの。何回やっても何回やってもお母さんが来たら道路にね……。それがさ、さっき止まったの。
飛び出したい衝動が……。」
もう理解できないなりに、理解しようとしている自分にだんだん気づいてきた。それで聞きたくもない事を少女に聞いた。
「なんでその衝動は消えたの?」
「それはね……お姉さんが飛び出したからよ。」
「そんな……そんな馬鹿な?でも私は今あなたと話しているからこの後飛び出さないわ。だってこの後何が起きるか知ってるもの。」
「どうだろうね……LOOPはね、何か未練があるから起きるんだよ。私はお母さんに会いたい気持ちが強くてそこに残ってしまった。あなたは……何か未練があるんじゃないの?
未練と願いが複合して、複雑に時間を変えてしまうかもしれないわ。私はもう蟠りは消えたわ。気が済んだの多分ね……」
そうして彼女はスーと音もなく姿を消した……。いったいなんだっていうの?
私だって死んでしまうくらいなら、
あんな奴に振られても平気よ!!
そう心に言い聞かせて前を向いた。
そしたらあいつが道路向こうを歩いているのが見えてしまった。しかも知らない女と相合傘で……。
あいつめ!!一言いってやらないと気が済まないわ!!そうして私は吸い込まれる様に、
道路へ飛び出した……。
。。。。。
さわさわと…
静かな雨が降っていた。
深緑の季節、昼は眩しいほどの日差しが、
花を散らした桜の木の緑色を美しく照らす。
梅雨も間近に迫る5月の終わりの事だった。
………
雨の鳴る音 雨月 史 @9490002
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