第2話 思った通りの世界観


「・・・・どこだよここ」


 目が覚めると知らない部屋にいた。

 閉め切られた窓から、薄っすらと陽の光が差し込んでおり、そこから作りの悪い机や、その机の上に麻袋や剣やイカツイ弓が置かれていた。

 他にも大きな木の箱が置かれていたり、服装も何かの革? で作られた革鎧らしきものと厚地の布の服に変わっており、靴も頑丈な革靴に変わっていた。


 寝転がっていたベッドは柔らかなマットレスなど敷かれておらず、布が引かれているだけであり、枕はない。

 羽毛とは言わないけど綿も使われていないとか最悪である。

 そのことからここがどんな所・・いや、どんな世界なのかなんとなく理解できた。

 そう、ここは科学が未発達な世界だと言うことが。


「なるほどなぁ~」


 ベッドを降りて窓を開けてみれば、広大な畑が広がっていた。

 右を見ても左を見ても家はちらほらとしか建っておらず、畑ばかりが広がっている。

 と言うことは、ここは大きな街の中と言う訳ではなく、どこかの田舎町だと言うことだろう。

 そして、どの家にも煙突が付いており、畑を耕している人達の中に獣耳が付いている時点で、やっぱりそう言う世界だと言うことを理解した。

 俺が一番来たくなかったファンタジー世界と言う訳だ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 べたりと床に座り込みながら、俺はため息を吐く。


「マジかよ。やっぱりこういう世界観なのかよ。最悪だろこれ。こんな世界で暮らしていける訳ないだろ。無理だよこれ。娯楽が少ないのはまだ耐えられるけど、設備環境が原始人並みの世界観でなんて暮らしていけねぇよ」


 泣きごと言うな! と思うだろうがよく考えて欲しい。

 人とかかわることに疲れた都会っ子が、人と極力関わらずにまったりのんびり自給自足生活にあこがれて、いざ山に来てみれば、そこは電気が通ってないわ、ガスもないわ、水は自分で引っ張って来なくちゃいけないわ、と何の設備も整っていない。

 よしんば金をかけて電気水道ガスを整え、自給自足のために畑を作ったとしても、今度は獣との戦いだ。


 猪にタヌキにハクビシン。

 場所によっては鹿に猿などもいるのだ。

 それを追い返すために柵を作るのも大変である。


 まぁ、それはいいだろう。

 それくらい皆覚悟の上で自給自足の生活に来るのだから。

 だけど俺はそんな事よりももっと耐えられないことがある。

 それは虫だ。

 森の中にいるのだから虫がいるのが当たり前だろって?


 そんなこと言うなら想像してみて欲しい。

 寝ている時にぼとりと都会では見かけない肥えたドデカイムカデが降ってくることを。

 寝ているうちに毒虫に足や手を噛まれ、死ぬことはなくともジクジク痛む日々があることを。

 そして虫だけではなく、蛇なども家に入ってきたりすることを想像してみて欲しい。

 それでも問題ない! 平気だ! と言う人がいるなら、どうぞどうぞとしか言えないが、残念ながら俺はそんなに神経図太くない。


 虫も爬虫類も大嫌いだ。


「住めば都なんて言うけど、まず環境に適応する前に心が折れそうだ」


 お家帰りたい。

 別に給料が高いわけでもなければ、仕事が楽なわけでもない。

 そんな生活を送っていたけれど、家に帰れば冷えたビールがあって、何処でも飯が購入できて、あったけぇ風呂に入れて、柔らかな布団の中で寝る生活に戻りたい。

 文明の力に囲まれた生活に戻りたい。


「あ~~~~~~~、やだやだやだやだヤダヤダヤダヤダヤダ~~~~~。こんな世界観なんざ、ゲームや小説の中だけでいいんだよ。こういうのは読むからいいんだよ。俺つえぇぇ作品は面白くねぇし大嫌いだけど、“俺何かやっちゃった?” とかほざくクソボケ主人公とか大嫌いだけれども、現実的に考えてそのくらい規格外の力がないと現代人はやっていけねぇっての。未だに鍬で畑耕しているような原始時代なんかで生きて行けるかよ。来たくなかったよぉ・・・・・・・・って、そういや能力!」


 うじうじと泣き言を吐き出しながら、ふと思い出す。


 確かあの女神様(女神様ではありません)がなんか能力くれたはずだ。

 定番のチート能力であるアイテムボックスに鑑定、他にも転移魔法やなんでも作れる錬金術。

 時間を止めたりとかそんな能力であってくれるといいんだが・・・。


「能力、能力、なんだ? 何の能力を貰ったのかわからないぞ・・・ああ、あれか。ここは定番中の定番。ステータスと呟けば・・・・マジか。わかりやすい仕様で助かるが。マジか。ゲームかよ」


 流石異世界で謎仕様。

 もはやツッコまんぞ。

 ありきたりな透明な板が出てきた事にはツッコまんぞ。

 普通にレベルが書いてあるのもツッコまんぞ。

 そしてレベルが書いてあるのにその下には、なぜか魔力しか数値化されてないのかもツッコまんぞ。


「てか、俺の名前書いてなくね? そして年齢が15って、若返ってんですけど。マジかよ・・・最悪だ」


 普通若返って嬉しい! と思うだろうが、俺にとっては15歳という年齢に戻るのは最悪と言っていい。

 だってこの時期から市販の薬を使わないと、ニキビとか凄いのだ。

 赤いぼつぼつがいっぱい出てきて大変なのだ。

 そう言う経験をしている故に碌なスキンケアのできないこの異世界では最悪と言えた。

 男だろ! スキンケアができないくらい我慢しろよ! と思う人がいたならば、俺はここで言ってやる。

 身だしなみも気にする事の出来ない男って、異性から嫌悪されるよねって。


「はぁぁぁぁぁぁ、くっそおぉぉぉぉぉぉ。まじくっそぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・あっ、そうじゃない、そうじゃない。今は能力だ。能力の確認だ。えっと・・・・う~む」


 能力の項目に視線を向けてみれば、少々頭をひねざる負えない文字が書かれていた。



ステータス


名前 無し

年齢 15

レベル 1

魔力 100/100

能力 飲料水魔法1 さしすせそ生成1 粉生成1



 飲料水生成1

 硬水 軟水を生成可能

 1ℓあたり 1魔力使用



 さしすせそ生成1

 お料理に使う“さしすせそ”の調味料を生成可能

 砂糖・塩・味噌 100g 1魔力使用

 酢・醤油 100ml 1魔力使用



 粉生成1

 そば粉、小麦粉、片栗粉、強力粉、中力粉、薄力粉、ホットケーキの素、お好み焼きの素、コーンスープの素ets・・・・・・・あと麻薬

 100gあたり 1魔力使用 ただし麻薬のみ1gあたり60,000魔力使用



 なんとも食に偏った能力であることがわかった。

 この能力のおかげで最悪餓死することはないだろう。

 それに“なろう”や“カケヨム”あたりで書かれている、定番のお砂糖や塩を売れば生活資金はどうにでもなりそうだ。

 胡椒が生成できないのは残念ではあるが、できないのだから仕方が無いと割り切ろう・・・・麻薬とか意味不明な物騒な代物が生成できるようだが、それは見なかったことにする。

 そういう社会的にアウトなヤバい物には手を出したくない。


「というか、何で飲料水生成なんだ? ここは普通に水魔法で良くないか?」


 そうすれば水魔法を使って戦えたりするのにと思う。

 そこだけが少々不満だ。

 切った張ったの世界に身を投じるつもりはこれっぽっちもないが、こんな中世丸出しの世界観であれば盗賊、山賊、海賊は勿論の事、無駄に粋がっているアホが蔓延っていそうだから、ヒャッハー族から身を守る能力が欲しかったよ。


「できる事なら隠遁とかの気配や姿を消す能力が欲しかったな。そうすれば怖い奴等に関わらないですんだのに」


 自己保身の事しか考えていないと呆れるだろうが、俺は元来そんな人間だ。

 というか、他人のために無償で動ける人間など少ないだろう。

 弱きを助け強気を挫くことを生きがいにしているヒーロー気質な人は、早々お目にかかったことがない。


「・・・はぁ、愚痴っても仕方ないよな。愚痴ったところで現状変わらないんだ。それより今後だ。今後どうやって生きていくのかが問題だ。だから愚痴らず現状を理解しろ。理解するために情報収取しろ。そう頑張れ俺。頑張って生きろ俺。やればできるぞ俺」


 己を鼓舞しながら俺は立ち上がると、ふと机の上の置かれていた麻袋が目に入ったので、中身を確認することにした。


「ローブ・・これはおしゃれと言うより、野営とかで使っていそうな感じだな。他にはナイフと小さなフライパン、いや、鍋か? そしてこれは・・・ああ、ハイハイ、この世界で使われている身分証的な感じの木札と水筒(水袋)ね。あとは干し肉なんかの非常食と。ん? もう一つ小さな袋が・・・・あぁ、なるほど。これがこの世界の硬貨イッツ!? あ~~~ハイハイハイ。なるほどね。最低限この世界の常識をインストールしてくれた感じか。行き成りだから流石にびっくりしたぞ」


 麻袋の中には旅に必要な最低限の装備が入っていた。

 そしてお金も入っていたのだが、そのお金に関して考えると、この世界で銅貨がどれだけの価値があるのか、銀貨はどれくらいの価値なのかを知るとこができた。


 半銅貨 10円

 銅貨(半銅貨10枚で) 100円

 半銀貨(銅貨10枚で) 1,000円

 銀貨(半銀貨10枚で) 10,000円


 日本円にすると大体こんな感じだろう。

 金貨とかはどうしたって?

 ああいうのは、お貴族様や大商会が扱うモノらしいぞ。

 普通に生活している庶民は早々金貨などお目にかかれないらしい。

 ちなみに金貨・・いや、半金貨? からは価値が一気に上がり、大体銀貨の100倍くらいの価値になるようだ。

 製造している国の硬貨の種類により価値は変動するが、それくらい金貨は価値が高いと思っていいだろう。


「そしてこの財布には銀貨が50枚・・・・社会保険料やらなんやらが引かれていない俺の一か月分の給料が支払われた感じだな」


 月に50万、俺って結構稼いでたんだぜ・・・・・ああ、ごめん嘘ついた。

 俺は月に30万ちょい(何も引かれなければ)貰えればいい方です。はい。

 そこまで稼いでねぇです。

 まぁ、それはそれとして、手元に50万相当の現金があるのはありがたい。

 無一文スタートは流石に困るからな。

 ただ欲を言えば俺の貯金もこちらの世界で現金化して欲しかったぜ。

 貯金2,000万くらいは持ってたんだけどなぁ。

 そう考えるとまた憂鬱になりそうだ。


「はぁ・・・これで一体どれくらい生活できるかが問題だな。そこら辺の一般常識は・・・ああ、ないのね」


 さっきのイッツ!? が来ない辺り、そこら辺の常識は手探りで探すしかなさそうだ。

 ここがどこなのかも知ろうと思っても知ることができない。

 仕方ない、どうにかこの町?村?で情報収集してくるか。

 定番の酒場・・・は荒くれ共が集まっていそうなので、ひとまず今泊っている宿屋の人に話を聞こう。

 もしくは買い物をしながら情報収集することにしよう。


「・・仕方ない! いくか!」


 凄くイヤだが、生きるためには引きこもってばかりもいられない。

 そう思い俺は気合を入れると、荷物と武器を持って部屋を出て行った。


 腰に剣を、イカツイ弓は背中に引っ掛ける部分があったので、そこに引っ掛けた。

 弓矢は・・・はて? 弓矢が無いぞ・・・・・あ、はい、どうやらこの弓は魔法武器のようで、登録者が弦を引っ張ると魔力を自動的に吸収し、弓矢を作るようだ。

 あれだね。

 魔法武器とかスゲェけど、これは結構なお値段の武器だと思うよ。


 多分女神様?は俺の貯金と同等の物を用意してくれたんだと思う。

 いや、それ以上の物を用意してくれたのかもしれないなぁ・・・・・・・ホントにありがとうございます。






お金の補足

 半金貨(銀貨100枚で) 1,000,000円(百万)

 金貨(半金貨10枚で) 10,000,000円(千万)


 多分金貨の価値なんてこんな感じだろうねぇ。

 製造している国によって異なるけど、あまり深く書かないようにしますねぇ。




弓の補足

 一射するたびに魔力1消費

 下級の魔物程度であれば一撃で仕留められる程度の破壊力あり


 魔力を込めれば込める程威力が上がる! なんて設定はありません。

 それでも魔力が続く限り使えるのは強いと思うよ。




魔力の補足

 仮に魔力が0になったとしても気絶はしません。

 ただネガティブ思考になったり、無気力になったり、五月病の様な心情になります。


 魔力は動かずじっと休んでいれば1分間に1回復します。

 これはどれだけ膨大な魔力を持っている者であっても変わりません。



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