ファンタジー世界になんて行きたくない
@kumadagonnsaburou
第1話 チートをください。お願いします
「ごめんなさいね。お玉落したら貴方を殺してしまったのよ。だから異世界で新しい肉体を作ってあげるから許してちょうだいね」
「・・・はい?」
気が付くと黄金の麦畑に、満天の星空。
そんな場所に俺はいた。
さっきまで普通に車を運転し、会社に向かっていたはずだと言うのに・・。
「あ、あの~、良く分からないのですけど・・」
「いやねぇ。ちょ~っと料理していたら手を滑らせてしまって、お玉を下界に落としてしまったのよ。そしたら落ちたお玉が貴方にクリーンヒットしてしまったの。車の屋根も突き破って、真下の道路も地面も貫いて、ぐしゃぼこどごごって感じでやってしまったのよ。ですので、ごめんなさい」
「は、はぁ・・・・」
この割烹着を来ている女性は、己の失敗談というか、死因について話してくれているのだろうけど。
いろいろと理解できん。
ただのお玉が鉄の塊である車や地面を貫くって意味がわからん。
なぜ麦畑に割烹着姿の女性がいるのかもわからん。
満点の星空なのに、なぜ麦畑は陽の光を浴びているかのように黄金に輝いているのかもわからん。
わからんけど・・・・・
「あ、あの~、もしかして貴方は神・・ではなく女神様とかそう言う感じの尊きお方なのでしょうか?」
現状可笑しな世界が広がっているので、わけわからんけど納得することにする。
だって、目の前の割烹着を身に付けた女性の頭には天使の輪っかのようなモノが浮かんでるんだ。
よく見れば少し宙にも浮いているし・・・・どう見ても人外だよね。
「女神様なんて、そんな大層なもんじゃありませんよ。けどそんなに美しく見える? いやですよぉ。こんなおばさんをからかって」
おばさん?・・・おばさんと言うほど年はいっていないでしょ。
写真集とか出したら即日完売しそうなほどとっても綺麗な人なんだし。
「あらあら」
綺麗な人は頬に手を添えて微笑んでいる・・・なぜに?
「お世辞じゃなく本心なのがとても嬉しいですね」
「本心?・・・・あっ」
もしかして定番の、神様女神さまは人の心の中が読めると言うやつだろうか?・・・ああはい、コクリと頷いていますね。読めているようです。
これは下手な事を考えないようにしなくてはいけませんな。
「できるだけ読まないようにしますから安心してくださいね。それよりも、そろそろ転生する時間ですからちょっとそちらの穴に飛び込んでもらえませんか?」
「え、あの、説明は・・・」
さすがにどんな世界の、どんな世界情勢の国に転移させられるのか話が聞きたい。
何も聞かずに知らない世界に行くのは流石に困るし、何より異世界と言っても自分はファンタジー世界の異世界には行きたくない。
何故って?
それは日本と比べて衣食住が最低で底辺の可能性が高いからだ。
知識無双とか、俺つえぇぇとか、ケモミミハーレムとか、人外ハーレムとかどうでもいい。
毎日風呂入ってない女性のハーレムとか普通に考えて不衛生で無理だ。
髪に虱とか湧いている世界観だったら残念ながら異性として見れない。
そしてそんな感じの世界であった場合、下水完備のできていない街は臭いし、ぼっとんトイレとかイヤだし、トイレットペーパーの代わりに葉っぱでケツ拭くのも、ウォシュレットが無いのも嫌だ。
エアコンがないせいで、夏は暑くて冬は寒いのも耐えられない。
飯も腹いっぱい食べられないし、おしゃれ・・はそこまで気にしてないが、絶対肌触りの悪い服ばかりが溢れているよ。
チクチクセーターを素肌で着ている感じより酷いと思うな。
だからこの穴の先が中世的な世界観であるファンタジー世界なら行きたくない。
漫画やゲームは勿論の事、ネットのない世界なんかに行きたくない。
ああ、あと貴族とか意味のわからん偉ぶった人種がいるのも嫌だ。
法治国家とかほざきながら、所詮貴族を守るためだけのクソ仕様が盛り込まれて、カボチャパンツ履いていそうな貴族のボンボンに遊び半分で殺されかけるとか無理。
そんで剣や槍を振り回して血がどば~と吹き出すとかも無理だからね。怖いし。
「ええっと・・・・そんなに嫌ですか? ファンタジー世界は」
「はい、イヤです。できるなら文明の整った世界でお願いします。というか宇宙船が自転車並みに個人所有できる感じの世界に行きたいです。ロボットが全部お仕事してくれて、人のお仕事がない感じの世界に行きたいです。のんべんだらりと好きな事ができて、争いのない世界に行きたいです」
「う、うわ~」
なんですか、うわ~って。うわ~ってなんですか。
仕方が無いじゃないですか。
自分は別に活躍したいわけではなく、ちょっと(かなり)生活レベルが楽な世界観で楽に暮らしたいのですから。
「あのですね。流石にそう言う便利な異世界に向かわせることはできないのよ。転移は貴方が過ごした世界よりも下位の世界でしか、新しい身体は作ることができないのですから」
「マジ・・・ですか?」
「マジです」
何と言うことか、それでは転移する意味がない・・というか、したくない。
わざわざ不自由な生活をするのなんてイヤだなぁ。
「では転移せずにこのまま天国? 輪廻転生? に行くと言うのは如何でしょう?」
「すみません。天国も輪廻転生も只今空きがなく、開いているのは地獄のみなんですよ。ですので異世界に行かないとなると、地獄で釜茹体験などしてもらうことになるかと・・・」
「おおう、マジですか」
「マジです」
真剣な声でマジだと言って来る綺麗な女性。
これは地獄で過ごすか、不自由この上ない異世界で過ごすか二つに一つってことだな・・・・え? 異世界に行くしかなくない?
「あ、あの~。このまま異世界転移しても大変だと思うので、何かこう、生きていくうえで恩恵などはありますか? はっきり言って自分戦闘能力皆無ですし、身体能力も高くありませんし、争いごととは無縁の日本で生まれ育った一般人なのですよ」
「確かに、このまま異世界に放りだすとすぐに死んでしまいそうですね・・・・わかりました。では、貴方の戦闘力をその世界の一兵卒並みにしておきます」
「い、一兵卒・・・・」
いままで碌に運動などしていない側からすれば、とてもありがたい話なのだが、それでも一兵卒だとちょっと心もとない。
数の暴力であっけなく死んじゃいそうだよ。
いや、それが普通と言えば普通なんだけどね。
「後は簡単な野草の見分け方や、基本的な狩猟などの仕方といったサバイバル知識を差し上げます」
あ、それはとても助かります。
絶対ファンタジー世界では自給自足の可能性がとても高いですし、食べるものが得られるだけでも生き残る可能性がとても高くなりますから。
「それとちょっとした能力も付与させておきますね」
「能力ですか? それはいったいどんな・・」
「それは、あっ、説明している時間がありませんね。申し訳ありません。何の能力かはあちらでご確認ください」
「あちら? うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そう綺麗な女性が申し訳なく頭を下げると、俺は穴の中へと落ちて行った。
さっきまで目の前にぽっかり空いていた穴が、なぜか足元にあったのだ。
恐らく時間制限内に異世界転移を明確に拒否するか、自分で飛び来なかった場合自動で連れて行く仕様なのかもしれない。
はぁ、異世界・・・汚くてヒモジイ異世界には行きたくないなぁ。
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