幼なじみの彼女と俺とのぐちゃぐちゃな関係

いおにあ

彼女が話しかけてくる日


「あんたねえ、いつまでくちゃくちゃやってんのよ」

 学校で弁当を食べていると、幼なじみでツンデレの未玖がつっかかてきた。


「るせえなあ、ぐちゃぐちゃ言うなよ。俺は食事に時間がかかるの」

「かかりすぎよ。限度があるわよ。ほら、さっさと立ちなさいよ」

「なんだよ。おまえこそ、いつも昼飯のときは、友だちとぺちゃくちゃくっちゃべっているだろ。今日はどうしてぼっちなんだ」

「うっさいわね。今日はみんな忙しいのよ。あんたにあたしの交友関係についてつべこべ口出しされるいわれはないわ。ほら、早く来てよ」


 未玖は、俺の腕を強引に掴む。その弾みで、俺がまだ食べている最中の弁当箱がひっくり返りドッシャーンッ!・・・・・・床にぶちまけられる。


「あ~ごめんなさいっ!ぐちゃぐちゃにしてしまったわ・・・・・・今すぐ片付けるわね」

 掃除具ロッカーから手早くモップを持ち出して来て、床を拭く未玖。そんな彼女に俺は言う。


「お前さあ、もうちょっと落ち着きとかないわけ?いつもちょこまかと動いてさ」

「ん・・・・・・なによ。謝っているじゃない」

「いやそういう意味じゃなくてさ」

「ぐす・・・・・・なによ、あんたまであたしのことをそんな風に言うの?こんなことになって、あたしの心はもうぐちゃぐちゃだっていうのに・・・・・・」

 まずい。未玖の地雷を踏んでしまった。


「うぅ・・・・・・ひっく・・・・・・謝っているのに・・・・・・」

 未玖はボロボロと泣き始めた。


「悪かったよ、未玖。だからさ、もう泣くなよ」

「ホント?」

 今までめそめそしていた未玖は一瞬でケロリと立ち直る。


「ありがと~。ごちゃごちゃ理屈ばっかり言わないで、いつもそんな風に素直でいれば、あんたも可愛いのにね」

「で、結局お前の用事ってなんなんだ?」

「あ、それね・・・・・・」


 未玖の頬がさっとわずかに朱に染まる。それから、彼女は深呼吸をして、意を決したように口を開く。


「あのさ、あたしと付き合ってくれない?」

「おう、いいぞ。で、何すればいいんだ?」

「え?」

「え?」

 顔を見合わせる俺たち。あれ、俺なにか変なことを言ったか?


 ・・・・・・。


 数十秒の沈黙が俺たちの間に流れる。そして、俺はようやく遅ればせながら、未玖の言葉の意味に気付く。


 一方、未玖の顔はみるみるうちに怒りで紅潮していく。


「もう、知らない!!」

 未玖はくるりと踵をかえすと、教室から出て行く。どすんどすんとした足音が聞こえそうな、怒りの歩調だ。


 告白されたとようやく気付いた鈍感な俺は、慌てて彼女を追いかける。


「悪かった、待ってくれ~」

 彼女はそんな俺を一顧だにせずに、廊下の奥へとどんどんどんどん、去って行く。


 こんな風に俺たちの関係は、いつもぐちゃぐちゃだ。まだ当分、ぐちゃぐちゃでめちゃくちゃで、もつれた糸みたいに複雑怪奇にこんがらがっていて、混沌として錯綜したままなんだろうな。

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幼なじみの彼女と俺とのぐちゃぐちゃな関係 いおにあ @hantarei

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