ぐちゃぐちゃ

斉藤一

ぐちゃぐちゃ

 俺は、会社の昼休憩を利用して近くの食堂へ来ていた。この食堂のおすすめメニューは500円で固定されている代わりに何が出てくるのか分からない。俺には好き嫌いが無いので毎回おすすめを注文している。周りを見れば、おすすめメニューが何か分かるかもしれないが、それは自分の楽しみを減らすだけなので、極力周りを見ないようにしている。


「今日の昼飯はビビンバか」


 出された料理を、さっそく箸でぐちゃぐちゃにかき混ぜる。かき混ぜない人も居るかもしれないが、俺は断然かき混ぜる派だ。ぐちゃらーだと言われた。


「ごちそうさまでした」


 俺はレジで500円を払い会社へと戻る。横断歩道で待っていると、年寄りがふらふらと赤信号を歩いているのが見えた。その速度は遅く、老人に気が付いた車は避けて行っているが、危ない事には変わりない。だけど、誰もその老人を連れ戻そうとしていない。車がひっきりなしに通っているので、自分を危険にさらしてまで老人を助けようとする人が居ないのだ。


 老人がなんとか渡り終えるまであと数mというところまで近くに来た。まだ信号が変わる時間ではないが、今なら俺がダッシュで老人に近づき、引っ張り込めばすぐに助けられるだろう。


「いっちょう、人助けしますか」


 俺は何故か、その老人を助けることが自分の使命だと感じた。トラックが近づいてきているのも見えるが、まだ時間はある。俺は道路へと飛び出し、老人の手を掴む。


「何をするんじゃ!」


 意外な事に、老人は俺の手を振り払う。俺は、まさかそうなるとは思っておらず、バランスを崩して倒れた。トラックが、老人を避けようとハンドルを歩道とは逆側に切る。そこには、俺が倒れたままだ……。


キキーッ


「ったく、昼間からグロいもの見せんじゃねーよ」


「おえっ、夢に見そう」


「誰か救急車を!」


「もう手遅れだろ」


 道路には、ぐちゃぐちゃになった俺だけが取り残された。

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ぐちゃぐちゃ 斉藤一 @majiku77

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