ぐちょぐちゃからの

@aqualord

ぐちょぐちゃからの

「どうかした?」


いつも通り登校してきた真也は、同級生の茜が、下駄箱の前で靴を摘まんで立ち尽くしているのに気付いて声をかけた。


茜は無言で真也に靴を突き出した。

なにやら生乾きの泥のようなものがベッタリとついている。


「どうしたんだ?」


茜は言葉に詰まりながら事情を説明した。


「朝、バスに乗り遅れそうになって走ってたの…そしたら、ぐちゃぐちゃの水たまりに突っ込んじゃって。」

「茜の家の近くにそんな泥の水たまりができるような場所あったっけ?」

「途中で公園を突っ切ったから。」


真也は小学生の頃、同級生だった茜の家の近所の公園で遊んだ時のことを思い出した。

滑り台とブランコが置かれている程度の小さな公園だった。

あまり手入れがされていなかったように記憶している。

だから昨日の雨で水たまりが出来てしまったのだろう。


「いくら急いでても、そんな地面がぐちょぐちょになってたら分かったんじゃないか。」

「ぐちょぐちょじゃなくてぐちゃぐちゃ。」

「いやそれ一緒だろ。」

「違う。」

「どこが?」

「どこがか知らないけど違うの!もう、ほっといて!」


茜の訳のわからないキレ方に、真也は言われたとおり退散しようとして、茜の目尻に涙が浮かんでいること気付いた。


「どうしたんだよ。」

「いいからほっといてよ。」

「泣きそうになってるのにほっとけるかよ。」


茜は口をつぐみ、うーっと答えただけだった。


「貸してみ。」

「変態。」

「変態でいいから。」


真也は靴を上に置けるように両手を差し出した。

茜はかなり躊躇ったが、真也が諦めないことを悟ると、そっと靴を置いた。


「今日、…おろしたてだったの。せっかくのおろしたてだったのに。もう気持ちがぐちゃぐちゃ。」


ああ、だから茜は、ぐちゃぐちゃにこだわったのか。


「茜のために何かしてやりたい。」

真也の中に、まだ曖昧模糊ととして形をなさない、何かの感情が生まれたのはその時だった。









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