第12話 ……なんか、皆の前でやると緊張するな。

 俺たちが最初に来たのは、中高生の遊びでは鉄板のボウリング。

 ゴールデンウィークなだけあって、ボウリング場はかなり混んでいたが、集合時間を早めに設定したことが功を奏し、なんとか入ることができた。


 待機する席に荷物を置き、球を選びに行く途中、「皆はボウリングってやったことある?」と、先頭を歩いている月海が振り返りながら皆にそう尋ねる。

 案の定、早瀬と武山は何度も来たことがあるらしく、逆に神崎と柏木はやったことがないそうだ。

 ちなみに、俺は小学生くらいの頃に一回だけ父親に連れて来られたことがある。要するに、ほぼ未経験のようなものである。流石の俺でも、一人ボウリングはハードルが高くてやったことはない。


 ポンドごとに並べられている球を一つ一つ持ち、自分に合った球を探していく。

 久しぶりにボウリングの球を持つが、持ち方はしっかりと覚えている。前に父親と来た時にしっかりとレクチャーされたからな。

 あらかた持ってみた感じだと、12ポンドの球が一番持ちやすかったので、それに決めた。

 ちなみに、月海も俺と同じ12ポンドのものを選んだようだ。男としての威厳もクソもあったもんじゃないな、俺。

 

 じゃんけんで順番を決めた結果、早瀬、月海、武山、神崎、俺、柏木の順で投げることになった。


 まずはトップバッターの早瀬だが……。

 

「さっすが~!」

「やっぱボウリングも出来るんだな……」


 案の定、一発目からストライク。ボールが真ん中のピンに綺麗にヒットし、そのまま全てのピンが倒れた。

 ……流石に全部ストライクで300点、とかにはならないよな……? まじでコイツならやりかねん。


 その後の月海もストライク。なんというか、普通に上手い。さっきの反応からして、早瀬とよくボウリングに来ているのだろう。動きが明らかに経験者のそれだった。


 そしてその次の武山だが……。


「だーっ! なんでそうなる!?」


 一投目で10本中8本のピンを倒したが、残ったのは両端の2つ。中々に運が無いな。ここからスペアを狙うのはかなり難しい。

 結局、左端の一本のみを倒し、スペアならず。

 

 4番目の神崎は、1投目で7本倒し、2投目でスペア。力が足りていない感はあるが、コントロールはかなり良い。ダンスも上手かったし、結構器用なのかもな。

 ちなみに、スペアをした後、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべながら「脳筋じゃあたしには勝てないよ」と武山を煽っていた。熱血漢の武山は、予想通りその挑発に乗り、「上等だ……!」と拳を握っていた。


 というか、皆上手くない?特に神崎なんて未経験なのに初見でスペアとか……。


 そして、いよいよ俺の番が来たのだが。


(……なんか、皆の前でやると緊張するな)


 人前に出るのが苦手な陰キャの特性は、実行委員の仕事を通して少しは克服しつつあるのだが、この緊張はそれとはまた別だ。

 まぁ、遊びなので、下手でもいいから楽しんでいこう。何なら失敗しても、次に控える柏木のハードルを下げてやれると考えれば気が楽だ。


 先ほど見た早瀬や月海のフォームを意識しながら、そこそこ力を入れてボールを放る。

 ボールは、結構なスピードでレーンを転がっていく。お、これは筋トレの成果が出てますね~。


「お?」


 右端の1本以外の全てのピンが倒れる。あと少しでストライクだったな。


 残ったピンのやや左側に狙いを定める。先程のボールはやや右に曲がっていたので、真ん中を狙うとガーターになりそうだからだ。

 ボールは真っ直ぐに転がっていく……ように見えたが、やはり少し右に曲がっている。

 結果、ボールはピンの右側を掠めるように通り、ピンを倒した。


 スペア。めちゃくちゃ久しぶりなことを考えると、出来過ぎとしか言いようがない。

 席のある方に戻ると、皆は少し驚いた様子でこちらを見ている。

 柏木が「この裏切り者め……」みたいな目で見てきているが、まぁ、なに……がんばれ。


「やるじゃねぇか、迅」

「お前に言われると嫌味に聞こえそうだ」


 最も、早瀬にはそういう意図は全くないだろうがな。コイツは馬鹿げたスペックを持ちながらも、持たざる者のことを見下すことは決してない奴だ。


「俺がそういうことを言わないって知ってるのにそう言う迅の方が嫌味っぽくすらあるだろ」

「はは、否定できないな」


 俺の番が終わり、次は柏木の番。

 本人は……なんか、すごい張り詰めた顔してるな……。


「あんま気張りすぎんなよ。返って空回りするぞ」


 俺の横を通る際に、小声でそう言ってはみるが……。


「頭では分かってるんです。でも、やっぱり緊張するんです……!」


 柏木は、周りには聞こえないようにボソボソとそう言う。少なくとも、普段の口調が出かけているくらいには緊張してそうだ。

 まぁ、俺だってさっきは緊張してたし、なんだかんだどうにかなるだろ。


 見様見真似でボールを持ち、構える柏木。中々に不格好だが、美少女補正でギリギリ許せるレベルだ。

 柏木はふぅっと深呼吸をしたのち、ボールを持つ腕を下に振りかぶり、全身を使ってボールを転がした。

















 

 



 


 


 

 

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