第11話 どっちかというと大きい方なんですけど!
普段の快活な姿からは想像できないほど冷たい目で男を睨む早瀬。
(なんつーオーラだよ)
ナンパしていた男性は、早瀬の威圧のせいで完全に体が固まってしまっている。
ぶっちゃけ言うと、俺も足が
やがて早瀬は、このままでは状況が進まないことを察し、一度威圧を収め、俺に聞いてくる。
「迅。これはどういう状況だ?」
「あの人が月海のことをナンパしていたんだが、あまりにしつこそうだったので俺が止めに入った」
誤って変に煽ってしまったことは言わないでおこう。後で月海にも口止めしなきゃな。
「そうか。咲奈を守ってくれてありがとな。怪我はねぇか?」
「大丈夫だ」
俺の心配までしてくれる早瀬マジ紳士。尚更煽った事への罪悪感が湧いてくる。
「ふぅ……俺としては、あまり
先ほどの威圧とは一変して、落ち着いた様子でそう言う早瀬。いや、多分内心では相当怒っているだろう。それでも抑えてくれているのは、俺たちの為。折角の遊びを台無しにしたくないという思いが、早瀬を冷静にさせている。
「今なら見逃してやるから……早く失せろ」
「は、はい!」
高校生相手に逃げ出す大人の構図。俺に突っかかってきた時とは真逆のシチュエーションだ。
というか、別に威圧なんてしなくても、早瀬レベルのイケメンがいると分かれば勝手に諦めてくれるだろうに。
「咲奈」
「凪斗、くん……」
男がいなくなったことで安心したのか、地面にへたり込みそうになる月海を、早瀬が支える。
「え!?なにこれどういう状況?」
「……」
丁度、集合場所に到着した武山と神崎は、状況を理解できていないそうだ。
月海の介護をしている早瀬と、それを少し離れたところから見ている俺。
俺が状況を説明すると、二人は心配そうな目で月海の方を見る。
とりあえず、慰めるのは幼馴染の早瀬に任せるのがベストだと思い、俺たちはしばらく待つことにした。
あれ?そう言えば
※
しばらくし、なんとか月海が調子を取り戻した。一体どうやって慰めたのか、後で早瀬に聞いておこう。
スマホの時計を見ると、集合時間まであと2分。柏木のヤツ、プライベートまでギリギリに来んのかよ……。
「そういえば、藍沢くんも助けてくれてありがとね」
「ああ。まぁ、時間稼ぎしか出来なかったけどな」
本当は、ラノベの頭脳キャラのように機転を利かせて解決したかったが、尚早とそんな余裕は無かったからな。何も起きずに済んだだけ上出来と言える。
「ちょっと心配だったんだよ? 藍沢くん、襲い掛かられたりしたらすぐにやられちゃいそうだもん」
「まぁ、否定はしない」
これでも、中学の頃と比べれば相当マシになった方だ。大分筋肉もついてきたし、身長も微量だが伸びている。
「てか、そっちの二人がたくましすぎるんだって」
早瀬と武山の方を見ながらそう言う。
二人とも背が高いのに加えて、運動部なのでガタイも良い。彼らと比べれば、俺がもやしに見えてしまっても仕方ない。
ていうか、俺も一応174センチあるんですけど!どっちかというと大きい方なんですけど!
そう俺が、自分の身長が低くないことを心の中でアピールしていると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「みんなお待たせ~」
最後の一人、柏木唯花様のご到着である。集合時間ピッタリだ。
「遅くてごめんね」
「いや、集合時間には間に合ってるから大丈夫だ」
本当はもう少し余裕を持って来てほしいものだが、今更コイツに何を言っても無駄だということは、中学の頃にとっくに学習済みだ。
「さて、全員集まったし行くか……って、皆どうした?」
俺と柏木以外の4人は、なぜか柏木の方を見て目を丸くしていた。
柏木の顔にご飯粒でもついてるのか? なんてことを思いながら、俺も柏木の方を見返すが、特に変なところはない。
「いや、その……柏木の服が思いのほか清楚で意外だったから……。いや、別に変じゃないし似合ってるんだけどさ……」
武山が言い辛そうにしながらもそう言うと、他の3人も首を縦に振る。気になったので、俺は柏木の服装をもう一度見返す。
白のブラウスに、黒のロングスカート。言われてみれば確かに、表の明るい陽キャモードの柏木しか知らない彼らにとっては意外かもしれないな。昔の柏木を知っている俺からすれば、むしろこっちの方がしっくりくるけどな。
「なんだ、そういうことか~。私はむしろ、こうゆう服装の方が好きなんだよ」
「へぇ」
そう言う柏木に納得した早瀬は、一瞬チラッとこちらを見てから、すぐに視線を戻す。
「それじゃあ改めて……行くか」
早瀬のその一声をきっかけに、俺たちは駄弁りながら目的地へと歩き始めた。
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