第10話 ラノベの中だけの話じゃないのかよ

 家の最寄り駅まで歩き、そこから電車に乗って集合場所へと向かう。

 集合場所は、俺の家の最寄り駅から学校の最寄り駅に向かう間にあるターミナル駅だ。この辺の駅の中で最も栄えており、飲食店や映画館など、高校生の遊びに必要な施設は大体揃っている。

 

 集合場所である駅前の広場に到着。広場の真ん中には、待ち合わせ場所として有名な巨大なオブジェがある。ここが、設定された待ち合わせ場所だ。


 時計を見ると、集合時間の15分前。余裕を持って来たので、他のメンバーはいない……いや、いるな。

 オブジェを挟んだ反対側に見える金髪のポニーテール。何やら、2人の男性と話している。いや、話しているというよりは、男性たちに執拗に話しかけられている感じか。当人はスマホから目を離さない。


(知り合い……なわけないよな。ナンパか)


 実際にリアルでナンパを見たのは初めてだ。あれだけ無視されても話しかけ続けるって、本当にナンパができる人のメンタルの強さは陰キャの俺には一生理解できないな。

 歩きながらボーっと見ていたが、ついに男性のうちの一人が月海の手を掴む。


(おいおい、ああいうしつこいナンパってラノベの中だけの話じゃないのかよ)


 アニメやラノベにおいて、ナンパされているヒロインを主人公が救うのはテンプレの一つだが、実際にこんな状況が起こり得るとは思ってもいなかった。流石に俺とて、二次元と現実の区別くらいついている。

 いやまあ、月海は二次元のキャラにも劣らないレベルの美少女だし、こういうことが起こってもおかしくはない……のか?


(とりま、放っておくわけにもいかないよな)


 そう思い、とりあえず話しかける。


「よっ!月海」

「あ、藍沢くん……!」


 腕を掴まれていた月海の表情は、いつもの明るい姿からは想像できないほど怯えていた。この子、ギャルっぽい感じとは裏腹に、意外とこういうの苦手なのか。


「あ?なんだお前?」


 威圧するように言う男性。というか……。


(え?結構イケメンじゃん)


 早瀬には遠く及ばないものの、客観的に見て、2人ともかなりのイケメンだと思う。10人中8人くらいはイケメンと答えるレベル。

 

(なんでナンパなんかしてるんだ?)


 黙っていても、彼女の一人二人くらい出来るだろう。色んな女の子を食べたいのか、はたまた余程性格に難があるのか。

 ま、そんなことはどうでもいいか。


「俺はこの子の連れですよ」


 嘘は言ってない。実際、グループで遊ぶ約束をしているわけだし。


「あっそ。で?だから何?」


 あ、これ、話が通じないタイプの人だ。どうやら、性格に難ありの方だったみたいだ。


「手、放してやってくださいよ。見れば分かるでしょ、嫌がってることくらい」

「は?コイツは嫌だなんて一言も言ってねえぜ」


 そう言われたので、月海の方を見るが、やはり怯えて喋れない様子。

 ってか、見れば分かるって言ったのに、なんで言った言ってないの話になるんだか……。

 呆れるあまり、つい言いたかったことが口に出てしまった。


「はぁ……なんすか、嫌がってる子を無理やり犯す性癖でもあるんですか?歪んでますね」


 そう言うと、男性たちの顔が真っ赤になる。明らかに頭に血が上っている様子。

 

(やべえぇぇぇ!!プレミしたあぁぁぁ!!)


 マズい。非常にマズい。

 もし、暴力に訴えられた場合、筋トレ歴一か月半の陰キャもやしの俺は速攻でK.O.されること間違いなし。

 最悪、俺が受けて時間を稼ぐしかない。運動部の早瀬か武山が来るまで、俺がサンドバッグとしての役割を果たすしか……。

 

「おいお前!調子乗ってんじゃねえぞ!!」


 男のうちの一人がそういって胸倉を掴もうとしてくる。

 

(ふぅ、とりあえず、月海を掴んでいる腕は解放できたな)


 俺は一歩後ろに下がり、掴もうとしてくる腕を避ける。


「避けんな!!」

「えぇ……嫌に決まってんじゃん」


 折角姉さんが選んでくれた服にしわを付けるわけにはいかない。ていうかさ……。


「てか、後ろに壁もないのに、胸倉を掴もうとするのは悪手でしょ」

「あぁ!?」


 俺みたいな雑魚でも、後ろに下がるだけで避けれちゃうくらいだからな。

 そもそも、周りに結構人いるんだけどなぁ。頭に血が上っているせいかそれにも気づいていなそうだ。

 

 うーん、血の気が凄いな。こりゃやっぱ一発くらい覚悟するしかないか。

 痛いのはイヤだなぁ、なんて思っていると……。


「おい、なにしてんだ?」


 やけに冷めた声が、この場に響いた。

 俺に襲い掛かろうとしていた男も、思わず固まってしまっている。

 声の主の方に視線を移すと、そこには……。


「早瀬……」


 信じられないほど冷めた目をした早瀬が、そこにいた。




















 

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