第6話 流石に舐めすぎだろ……

 ロングホームルーム、通称LHR。

 俺たちの通う夢野高校では、1週間の1番最後の時間、金曜日の6限に設定されている。

 1週間の疲労の蓄積もあり、毎週この時間はクラスメイトの大半が眠そうな顔をしている。なんなら何人かは寝ている。

 いつもは先生が連絡事項をダラダラ話すだけなのだが、今日は違った。


「次、大玉転がしやりたい人~」


 そう、体育祭の種目決めだ。

 クラス全体を見てみると、運動部の生徒はいつもよりもイキイキしており、運動が苦手そうな生徒は皆いつも以上に眠そうだ。


「――8、9、10人。おお、人数ピッタリだな。じゃあ決定で。次……の前にちょっと書記の時間を摂るか」


 ここで、ふと疑問に思った人もいるのではないだろうか?

 俺の席は、出席番号1番ということもあり、廊下側の1番前に位置している。それにもかかわらず、なぜ俺はクラス全体の様子を確認できたのか?


 ――答えは簡単。

 俺が、このクラスの体育祭の実行委員であり、この種目決めの司会だからだ。


 経緯を簡単に説明すると、立候補する人が1人もいなかったので、俺が早瀬にお願いされて仕方なくやることになった。だって、クラスの皆の前で早瀬の頼みを断れるわけがないじゃん。

 まあ実際、帰宅部の俺が1番暇で予定も合わせやすいので、特に文句は無いが。これを機にクラスメイトからの人望と信頼を集められるのでは?とも思ったし。


 体育祭の実行委員は、1クラスに男女が一人ずつ。つまり、もう1人の実行委員は女子である。

 ……ここまで来れば予想の着いた人もいるだろう。


「はい、終わったから次行っていいよ~」


 俺と同じく帰宅部で、俺と同じ境遇の女子、柏木唯花。コイツも早瀬と月海に頼まれ、仕方なく立候補した。本人は、運動できないやつが体育祭実行委員なんかやるべきじゃないと嘆いていたが。


「次は……クラス対抗リレーか」


 そう言うと、運動部ども――特に男子達の目つきが変わる。

 クラス対抗リレー。学年ごとに分かれ、それぞれ8クラス同士が優勝を争う種目。

体育祭の中では最も盛り上がる種目と言っても過言ではない。ここで活躍できれば、モテること間違いなし。いや、それは言いすぎか。


「人数は……男女それぞれ3人ずつの計6人。それじゃあ出たい人~?と行きたいところだけど、その前に皆に一つ聞いておきたいことがある」

 

 俺がそう言うと、クラスメイト達は疑問の表情を浮かべる。


「皆、やっぱリレーは勝ちに行きたい?さっき聞いたときは違うってことになったけど、皆リレーはめっちゃやる気あるっぽいし……」


 一応、種目決めを始める前に勝利を目指してガチでやるか、それぞれがやりたい種目に出場するかの方針は決めておいたのだ。結果は、皆が出場したい種目を尊重するという方針になった。

 さっき決めていたのも、それぞれの第一希望の種目で、リレーを決め終えたらそれぞれ第二、第三希望の種目も決めていくつもりだ。あれだけピッタリ集まるとは思ってもいなかったが。


「まぁ、そりゃ体育祭のメインみたいなもんだからな。俺は本気で勝ちに行きたいぜ」


 早瀬はそう言って、自信ありげな表情を浮かべる。うん、もしやるなら十中八九あなたは走ることになるでしょうね。


「他に意見のある奴はいるか?」


 皆勝ちを目指したいと思っているのか、はたまた早瀬の影響力が強すぎるのか、特に反対意見は出て来ない。もし後者なら少し申し訳ないな。

 というか、入学して2週間も経たないうちにここまで影響力を得ている早瀬がおかしいのだ。うん、全部お前が悪い(暴論)


「いないみたいだな。じゃ、リレーはガチで勝ちに行くってことで。メンバーはこの前の体力テストのタイム順で決めよう」


 結果、男子は早瀬と武山、サッカー部の男子……確か海野だったか。女子は女子バスケ部の2人と月海に決まった。

 ちなみに、俺の50メートル走の結果はというと、クラスの男子16人の中で7位。シャトルランに至っては70回程度で11位と、己の体力の無さを実感させられる結果になったのだった。









 LHRでの種目決めを終えた俺は、いつものごとく屋上に居た。


「なんか、思ったより手慣れてましたね。藍沢君の司会」

「んなわけ」


 別に上手く進めたつもりもないし、最低限やらなければならないことしかやってないぞ。


「ああいうの、やった事なさそうでしたし、もっとグダると思ってました」

「……いくら俺が陰キャだからって、流石にそれは舐めすぎだろ……」


 確かに陰キャは話すのが苦手だが、最低限の事務的な話が出来ないほどではない。

 てか、別に俺はコミュ障じゃないぞ?陰キャ友達もいるしな!


「……ていうか」

「ん?」

「なんで私たち、屋上で作業してるんですか?」

「え?気分」


 今俺たちは、先ほどの種目決めの結果を纏めている。

 俺はスマホを使ってデータ提出のものに、柏木は紙提出のものにそれぞれ取り組んでいる。

 高校に入ってから、通常の授業の課題もデータ提出のものが増えた。個人的には楽だから好きだけど。


「っていうのが半分で、もう半分は、単純にこっちの方が柏木と話がしやすいからだ」

「そんな理由ですか……」


 呆れた目でこちらを見てくる柏木。


「別にいいだろ。風も気持ちいいし」

「風のせいで紙が飛んでいきそうなんですが」

「……」


 俺はバッグからバインダーを取り出し、無言で柏木に差し出す。


「……あるならもっと早く言ってくださいよ……」


 

 













 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る