第5話 ち、ちげーよバカ!

「まさか同じグループになるとは思いもしなかったです」

「リア充を目標としている以上、最終的には同じになるかもしれないとは思っていたが……」

「いくらなんでも早すぎますね」


 柏木はそう言って肩を竦める。


「それにしても、なんでいきなり……?」

「お前の場合は容姿だろ。俺は……分からん。早瀬と仲良くなったからか?」


 そう言うと、柏木は一瞬驚いたような表情になる。そして、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて言った。


「素直に可愛いって言えばいいのに」

「カワイイ」

「全く気持ちがこもっていませんね」


 ありゃ、流石に棒読み過ぎたか。

 いや、実際顔は可愛いとは思ってるよ。だけど、それはあくまで客観的事実だし、込める気持ちもクソもあったもんじゃない。

 それにしても、中学の頃から顔立ちはそこそこ整ってるとは思っていたが、まさかここまで美少女になるとはな。


「スマン、これ以上自分の気持ちを誤魔化すことは、出来ないんだ……!」

「それ、言うシチュエーションが本来と真逆なんですけど……」


 本来は告白シーンとかによくあるフレーズだが、こういう使い方もあるってことよ。


 あれから、なぜか定期的に屋上で話すようになった俺と柏木。といっても、用のある方が一方的に呼び出して駄弁っているだけだが。お互い放課後は暇だから、相手の予定を気にする必要もないのだ。


「そういえば思ったんですけど、藍沢くん、グループ内で私に対してよそよそしすぎませんか」

「あ、やっぱり?」

「まだ周りにはバレてないとは思いますが、いずれバレそうなくらいには」

「マジ?」


 出来るだけ気にしないように意識はしてるんだけどなぁ。意識して対応するのがかえって不自然に見えるのかもしれない。

 

「いや、どう接すればいいかわからないんだよ。いつものお前とギャップがありすぎて」


 本人に直接言ってしまうのもなんだがな。


「変に距離を取って怪しまれるくらいなら、いっその事仲良く見せたほういいのか?」

「まあ、同じグループですし、席も隣ですからね。仲が良くてもおかしいとは思われないと思いますよ」

「結局俺が考えすぎてただけか」


 自意識過剰に考えすぎてしまうのも陰キャの名残だな。名残というか、内面はまだまだ陰キャなのかもな、俺。


「あと……」

「ん?」

「実際、私たち仲良しですし」

「そうだな」


 そう言うと、柏木はおかしなものを見るような目でこちらを見てくる。え?違うの?自分から言ったんじゃん。


「否定しないんですね。昔の藍沢君なら『ち、ちげーよバカ!』とか言って否定しそうなのに」

「そんなツンデレ染みたことなんか言ってねーよ。似たようなことは言ってたかもだけど」


 実際、中学の頃の俺はかなり尖っていた自覚はある。女子と仲が良いと言われるだけで恥ずかしくて否定しちゃうくらいには。


「言ってるじゃないですか」

「いいだろ、素直になったってことで。これ以上掘り返すならお前の黒歴史も」

「やめてください」

「お、おう。分かったからハイライトオフはやめてくれ」


 陰キャという生き物なら誰もが持っているであろう黒歴史。いや、陰キャに限らずほとんどの人間が持っているだろう。

 コイツにも、絶対に人には言えないような黒歴史がいくつかある。残念ながら俺には知られてしまっているが。

 同様に、俺の黒歴史も多く知られてしまっているので、お互い弱みを握りあっている状態だ。


「そういえば、そろそろ体育祭の練習が始まりますね」

「マジかよ。まだ入学したばっかだろ俺ら」


 うちの体育祭は、毎年5月の下旬らへんに行われる。そのため、一年生からすれば入学して2週間ほどで練習が始まるのだ。


「ま、運動神経クソ雑魚陰キャ同士頑張ろうじゃないか」

「藍沢君はそこそこ運動できるじゃないですか。嫌味ですか?」

「できるっていっても人並みにだぞ。お前よりはマシだが」

「殴りますよ」

「おう、やってみろ」


 俺、運動はそこまで苦手じゃないからな。中学時代ももやしというデバフを背負いながらクラスでも平均レベルにはできたし。

 いまや、そのもやしボディも筋トレで改善しつつあるし、そこそこ活躍できるのではないだろうか?

 流石に運動部勢には勝てそうにないけどな。主に体力的な問題で。そろそろランニングも始めたほうがいいか?


 一方、柏木は本物の運動音痴である。コイツの黒歴史のうちのいくつかはそれに関連するものだし。

 そんなコイツからしたら体育祭は地獄。陽キャのイメージを崩しかねない危険な行事と言える。


「ああ、最悪です。ホントに最悪」

「まぁ、運動音痴キャラでもいいんじゃないか? 結構弄られそうではあるけど」

「はぁ……せめて走るのくらいはなんとかします……」


 普段の姿からは想像できないほど、憂鬱な表情を浮かべる柏木。クラスメイトが見たらビックリするに違いない。


「グループの奴らも、みんな運動できそうだしなぁ」


 早瀬と武山は言わずもがな運動部だし、月海もバスケ部のマネージャーだからなんとなくそこそこできそうだし。唯一運動音痴の可能性があるのは神崎か……


「はぁ……」


 柏木の表情は晴れない。

 こういうことを気にしなくちゃならないのも、陽キャの大変さの一つなのかもしれないな。やっぱ陽キャってスゲー。

 




 


 


 


 


 


 

 




 


 






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