第4話 どうしてこうなった?

 入学から一週間が経過した。

 あれから、早瀬と一緒に飯食って中を深めたり、他のクラスメイトとも交友を深めたりと色々あった。


 いわゆる陽キャと呼ばれる人種だけでなく、陰キャ系の人たちにも話しかけてみた。

 最初こそめちゃくちゃ警戒されていたが、オタク趣味を表に出すとすぐに話が合い、結構仲良くなれた。


 まさに、陰キャと陽キャの両方になった経験が生きた瞬間である。いや、まだ陽キャに慣れているかは怪しいけども。

 最近の陽キャはアニメも見るらしいので、オタク趣味をオープンにしても問題ないだろう。流石にキモい系のラノベは控えておいたが。

 

 ところで、一週間というと、そろそろクラスの中でもグループが形成され始める時期だ。

 かくいう俺も、クラスの中のあるグループに所属していた。


「模試の数学難しすぎ~。凪斗君は解けた?」

「俺は大体解けたぜ」

「やっぱり?あんなの見てよく頭パンクしないね~」


 俺が所属するグループ。それは、クラス1のイケメン、早瀬凪斗の率いるグループ。

 要するに――クラスのトップカーストである。

 うん、どうしてこうなった?


 いや、なんか早瀬と仲良くしていたら自然とグループが出来上がってたんだって。

 最初は早瀬ともう一人と男子三人組的なノリでつるんでいたんだけど、途中から早瀬の幼馴染を通して女子との絡みが生まれて、気づいたらグループっぽくなっていた。


 その幼馴染というのが、先ほど早瀬と話していた女子――月海つきうみ咲奈さなである。

 肩の上辺りまで伸びた金髪をポニーテールにしていて、顔立ちは少し幼い。いわゆる可愛い系の美少女である。

 ノリの良い性格で親しみやすいが、なんというか、少しあざとい系の女の子だ。

 早瀬との掛け合いは見ていてとても面白い。いつも月海が受け流されている感じだが。


 てか、トップカーストの一員になったなら、陽キャになるっていう目標達成できてね?

 いや、陽キャの集団に所属したからって、自分の内面が陽キャになったわけじゃない。俺の性根はまだまだ陰の者である。

 

「武山くん……は良いとして、藍沢君はどうだった?」

「おい、なんで俺には聞かないんだよ」


 今ナチュラルにスルーされた男子が武山庄吾たけやましょうご

 180半ばの身長と広い肩幅も相まって、なんというか、強そう。喧嘩とかしたら絶対勝てなそうだ。 

 サイドと後ろを刈り上げた短髪で、いかにも運動部っていう感じ。ソフトモヒカンっていうんだっけ、ああいうの。

 見た目の通り、運動部である野球部に所属している。

 あと、脳筋そうな見た目の通り、おバカキャラである。


「そこそこ解けたかな。最後の方はほとんど分かんなかったけど」

 

 俺は、勉強はそこまで苦手じゃない。

 中学の頃は友達が少なかったため、暇だから勉強するなんてこともよくあったし。

 自分で言ってて悲しくなってきたな……。


「おい、迅もスルーすんなって」

「じゃあ解けたの?」

「……最初の方は」

「ダメだったんだ。知ってたけど」

「おい」


 そう辛辣に言ったのが神崎雪音かんざきゆきね

 肩まで伸びた黒髪は綺麗で、見るからにサラサラしていそうだ。

 そしてなんというか、吸い込まてしまいそうなくらい深い目をしている。

 落ち着いた性格だが、所々言うことが辛辣な子である。

 意外とノリが良く、毒舌ながら面白いやつだ。


 俺と早瀬と武山の男子3人に、月海と神崎ともう一人の女子を加えたのがこのクラス――1年C組のトップカーストグループだ。

 そして、そのもう一人の女子というのが――


「じゃあじゃあ、唯花ちゃんはどうだった?」


 俺と同じく高校デビューした女子――柏木唯花である。

 うん、どうしてこうなった?


「私もそこそこかな」


 柏木はニコリと笑いながらそう言う。

 嘘つけ、お前絶対最後まで解けてんだろ。


 それにしても……気まずっ!一週間たったが未だに慣れない。

 陰キャ時代のことを隠すためにも、表の口調で話さなければならないのだが、マジで慣れん。

 別に話が続かないわけじゃない。昼飯を忘れて語り合うくらいなだけあって、話は合う方だと思う。そうだよね?

 だけどなんかこう、後ろめたさというか、柏木と喋っている感じがしない。

 いっそのこと、別人だと思って接した方がいいのか?

 

「ホントに~?唯花ちゃん勉強できそうな顔してるからな~」

「いや、どういう顔?」


 ま、言いたい事は分からんでもない。柏木の顔立ちはなんか知的そうな感じがする。


 1年C組トップカーストグループの会話は、大抵は月海から始まる。彼女は、コミュ力だけで見れば早瀬以上かもしれない。これぞまさに陽キャ。


 今日は、学力状況調査的な模試の日。面倒臭い日だが、眠たい授業を6時間受けるより断然マシだと俺は思う。

 現在は、午前中の英国数を終えてお昼休憩中。皆で食堂でご飯を食べている。

 俺は弁当を持ってきてしまったので、食堂に弁当を持ち込んで食べている。ごめんね、食堂のおばちゃん。


 てか俺、ホントに陽キャしすぎじゃね?

 いや、陽キャになりたくて高校デビューしたんだけども。正直上手く行きすぎて怖い。上手く行ってないのは柏木のことくらいだ。


 そもそも、なんで柏木と同じ高校になったんだ?いや、別に嫌なわけじゃないけども。


 俺たちが通っている高校――夢野ゆめの高校は、俺たちの中学校の学区からはかなり離れている。そのため、俺含め電車通学の生徒が多い。

 つまり、中学の関係をリセットし、高校デビューで新しい関係を築くのにもってこいの高校。まさに夢の高校と言える。いや寒っ。


 ま、多分柏木も同じことを考えてただけで、同じ高校になったのは偶然だろう。


 元々俺達は、学校の図書室か図書館で少し話す程度の仲だった。某メッセージアプリの交換をしていたのが不思議なくらいだ。

 なので、受験期になるにつれ会う機会も少なくなり、お互いの志望校を教えることもなかった。

 今思うと、お互い高校デビューしたかったから教えなかっただけなんだが。


「――わ、藍沢!」

「ん?」


 何やら武山が俺の肩を揺さぶりながら俺の事を呼んでいる。


「やっと返事したか。さっきから何回呼んでも反応しないから死んでるのかと思ったぞ」

「んな訳あるか。ちょっと考え事してただけだ。悪いな」


 長考してしまうのはオタクの悪い癖だ。ホント、この集中力を勉強に持っていってほしいものである(n回目)


「そういや藍沢、部活何にするか決めたのか?」

「あー、まだ決めてないな」

「大丈夫か? もうちょいで仮入期間終っちまうぞ」

「特に興味のある部活がないからなぁ。最悪帰宅部でもいいや」


 早瀬と武山から、それぞれバスケ部と野球部に入らないかと誘われもしたが、普通に断った。

 もともと運動は苦手ではないが、尚早と体形が陰キャもやしだからな。体力的に運動部は無理だ。

 文化部も見て回ったが、いまいち興味が湧かなかった。文芸部とかも検討したけど、よくよく考えたら俺ほとんどラノベしか読まないし。


 でも、青春と言ったらやっぱり部活だし、何かしら入っておいた方がいいよなぁ。この学校の部活はどこもそれなりに頑張るという感じで、多分そこまで忙しくならないだろうし。


「部活といえば、唯花ちゃんもまだ決めてなかったよね?」

「私も帰宅部でいいかな。その方が自由が利くし」


 俺たちのグループの部活事情はというと、早瀬がバスケ部で武山が野球部、月海はバスケ部のマネージャー、神崎は文芸部で、俺と柏木だけ無所属だ。俺達マジでニート。

 流石に何もしないのもアレだし、いっそのこと生徒会にでも入ってみようか。絶対部活よりも忙しいだろうけど。

 いい加減決めないとなぁ。

 













 

 



 

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