きららむし3

鳥尾巻

鼻歩類

 暖かいのは大歓迎だけど、春は花粉症が辛い季節。

 お祖父ちゃんの営む古書店でお手伝いしてて、埃の酷い倉庫に入ったらくしゃみが止まらなくなった。


「はくしゅん!」


 裏から店内に戻りくしゃみをしたタイミングで、同じクラスの三森みつもり世那せな君が引き戸を開けて入って来た。彼はお祖父ちゃんの茶飲み友達でもある。


 ほぼお客さんの来ない店だから完全に油断してた。マスクを吹き飛ばす勢いでくしゃみした挙句、鼻水垂らしてる姿を見られてしまった。


 三森君は驚いた顔をして、じっと私の顔を見つめた。変わり者の三森君の髪はボサボサで、頭の天辺には今日も安定の寝癖。常に眠そうな奥二重の目が今はパッチリ。

 私はティッシュを取り出しながら顔を背けた。恥ずかしい。もう最悪。


「見ないでよ」

「大丈夫、可愛い」


 何が大丈夫なの?ちょっと何言ってるか分からない。涙と鼻水でぐちゃぐちゃなこの顔が可愛いとか意味不明なんだけど。


「くしゃみした顔、ハナススリハナアルキみたいで可愛かった」


 どこかウットリした表情で彼が呟くと同時に、レジ前に座っていたお祖父ちゃんが噴出すのが聞こえた。


「三森君、それは女の子に言わない方がいい」

「なんでですか?」

「君が生物好きなのは分かるけど。あれと一緒にしたら奈子なこが可哀相だ」


 心底不思議そうな三森君に、お祖父ちゃんは優しく笑いかける。2人は趣味が合うのか、時々こうして私には分からない会話をしてる。

 

「私帰るからね」


 恥ずかしいのもあって、私はそのまま家に帰らせてもらうことにする。

 家でお風呂に入ってやっと落ち着いた頃、三森君の言ってた生き物を検索してみた。


「鼻汁を垂らして水生生物を捕獲するハナススリハナアルキの偽剥製」

 異常に鼻の長い鼠が、その鼻先から滝のように鼻水を垂らして舌を出している画像。


 これが可愛い?この前突然くれたアノマロカリスのぬいぐるみといい、彼の美的感覚どうなってんの?

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