尾八原ジュージ

聞いた話

 うちの兄貴、便利屋で働いててさ。

 遺品整理の仕事があったんよ。なんか理由とか知らんけど一家心中の家だって。年取ったご両親と中年の息子さんと、一度に亡くなったんだって。

 そんでさ、親戚の人? に頼まれて、とにかくどんどん捨ててくれと。もうお金になるようなもんは運び出しちゃった後らしくて。

 すごい量じゃん、人間生きてるとさ。荷物が。

 でさ、亡くなった息子さんの部屋だったのかな。確か。兄貴ともう一人後輩の人がいて、やっぱ服とかどんどこ運び出してたんだって。そんで押入れ開けたらさ、中から紙がバッサーッて出てきたんだって。

 うん、段ボールとか入ってなくて、A4のプリント用紙がそのまんま、押入れの上の段に突っ込んであったの。

 で、兄貴、気になって見たんだって。何がプリントしてあんだろって。

 そしたらなんか、黒い線がぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃーって書いてあるの。文字とか絵とかじゃなくて、ちっちゃい子供がグリグリーッていたずら書きしたみたいなやつ。

 そういう紙が押入れいっぱいに入ってたんだって。

 気持ち悪いけど、まぁこれも捨てなきゃじゃん? だから後輩と一緒にどんどん押入れから紙出して、ゴミ袋にどんどん仕舞ってったんだって。一通り詰めちゃって、やれやれと思ってたらさ。

 弾けたんだって。急に。ゴミ袋が。

 紙がぶわーっと舞って、ひらひら畳の上に落ちてさ。

 うわーっ今の何!? って兄貴、後輩に話しかけたんだって。そしたら後輩が、真っ青な顔して畳を指さすの。

 紙がさ。

 ぐちゃぐちゃーって描いたやつが、畳の上に何枚か固まって落ちててさ。

 それが――無造作に描いた線がそうやって集まると、でっかい「唇」に見えるんだって。

 偶然にしちゃ完璧に唇なんだって。何コレって後輩と二人で言ってたらさ、笑ったんだって。それが。

 いや、風でも吹いたんかな……その、紙が集まってできた唇が勝手に動いてさ、ニターッと笑った形になったんだって。

 それがもう気持ち悪くってさ、とにかくもう一枚ゴミ袋持ってきて詰め直して、わーって外に運び出しちゃったんだって。偶然にしちゃやばかった、もし顔全部が揃っちゃったところ見てたらトラウマったかもって、兄貴、電話で言ってたんだけどさ。

 結局その後死んだよね。

 その電話かけてきた後、後輩の子と手ぇつないで、電車に飛び込んでぐちゃぐちゃになったんだよね。死ぬ理由とかマジ、何もないはずなのに。


 あのさ。

 そのゴミ、ちゃんと回収されたんかね。

 いや、ほんとに関係あるか知らんけどさ。気になるじゃん、やっぱ。

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尾八原ジュージ @zi-yon

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