羨ましいから、交換しようぜ! [KAC20233]

イノナかノかワズ

羨ましいから、交換しようぜ!

 俺は不細工だ。

 それに目は一重だし、髪は天パ。鼻は丸くて大きいし、口元は少し尖がっている。目つきも悪い。

 いくら運動したり食事制限をしても、ほとんど痩せることができず、太ったまま。デブだ。


 声は変な感じだし、勉強も運動もできない。

 なんのセンスもない。

 性格も悪い。


 俺は全てが不細工だった。


 だから、中学校でいじめられていた。どうせ、来年から入る高校でもいじめられるだろう。

 それに、親からも疎まれていた。虐待まがいのことをされていた。

 

 そんなある日だ。

 夜中に悪魔が俺の部屋に来た。


「ケケ。お前、いい悪感情を持ってるな」

「……んだよ! 出ていけよ、気持ち悪い!」

「いいぜ、いいぜ。その恨み、怒り。自分が嫌いだろ。他人が羨ましいだろう?」


 悪魔は俺の鬱屈した心を揺さぶった。

 俺は怒りと憎しみと恨みと嫌気とあらゆる感情にぐちゃぐちゃになった。


 悪魔が大笑いした。


「アハハハ! アハハハハ! すごい、すごいぜ! こんな極上の感情、久しぶりだ!」


 そして悪魔は俺に言った。


「おい、お前。俺様を満足させたお礼にいいものをやるよ!」

「……なんだよ、これ」


 悪魔は見たこともない機種のスマホを俺に渡してきた。


「そのスマホで撮った写真、もしくはそのスマホに取り込んだ写真データに映っている人間の好きな部分を交換できる魔法のスマホだ」

「はぁ、何言ってんだ、お前!」

「いい、いいぞ! その怒り! そんな奇跡みたいなこと起こるわけないっていう、諦観とそれに対しての怒りだな! いいぞ!」


 悪魔は大笑いした。


「が、俺様は悪魔だ。奇跡に一つや二つ、起こせるんだぜ」


 それはまさしく悪魔のささやきだった。

 俺はごくりと唾をのむ。渡されたスマホがとてもすごいものに見えてくる。


 けど、俺は踏みとどまった。


「ど、どうせ、対価に俺の命を貰うとかいうんだろ!」

「いわないさ、そんな無粋なこと! いっただろう、これはお礼だとよ! お前の好きなように使え!」

「ほ、本当にか!? 後でスマホを取り上げるとか、変えた部分がなかったことになるとか、そういう不利益は一切ないだろうな!?」

「ああ、ないぞ。少なくとも、俺様もそのスマホもお前に害を与えることはない」

「ほ、本当だな!」

「本当だって言ってるだろ!」

「ッ!!」


 悪魔のその言葉を聞いて、俺は飛び上がった。

 それから、自分のスマホと悪魔から受け取ったスマホをケーブルでつないだ。


「なぁ、ほかのスマホで撮ったデータでもいいんだよな!?」

「問題ない。なんなら、ネット上の写真でも問題はないんだぞ?」

「……い、いや、それはいい」


 性格が悪い俺だが、小心者だし、人並みの良心はあるつもりだ。

 が、


「クソ野郎! あのクソ弟だけはいいよな! 俺の家族だし、さんざん俺をこき使って、イジメて来たんだからよ! 報いは受けるべきだよな!」


 俺のスマホの中にあった一つ下の弟の写真を悪魔のスマホにコピーする。

 

 俺の弟は俺とは正反対だ。

 すれ違えば女が全員振る変えるほどのイケメン。頭もよく、運動もできる。


 だから、俺の弟であることが唯一のコンプレックスらしく、殴ったり、蹴ったりはもちろん、ひどい時には刃物で拷問してくる。

 正直、あいつは死んでもいい! 殺したいほど憎んでいる!


 だから、いいよな!

 あいつが悪いんだよなぁぁぁぁ!!!!!!


「悪魔ぁ! どうやって交換するんだよ!」

「写真を表示しろ。そうしれば、お前の意思を読み取って交換したい項目が出てくる。お前は何を交換したいんだ?」

「ッ! 全部に決まってるだろ! あいつの体と俺の体を交換するんだよ! そうすれば、俺はあいつの人生を歩めるんだからよ!」


 悪魔が言う通り、弟の写真を表示したら、体の全部っていう項目が出てきた。


 俺は息を飲み、一瞬だけ目を瞑って躊躇った後、憎しみと怒りに背中を押されて、その項目をタップした。

 次の瞬間、


「おめでとう! 今日から君は、君の弟だ!」

「ッ!!」


 近くにあった姿見で俺を見れば、俺は弟になっていた。入れ替わっていた。

 すると、悪魔が俺に言った。


「ところで、体だけでいいのか?」

「どういうことだ?」

「才能だ、才能! いくら体を入れ替えても、才能は弟の方に残ってるぞ! 頭の良さやら、アイデア! 肉体の機能だけでは言えない才能が、あるんだぞ!」

「ッッ! なら、それもだ!」


 そして俺は弟の全てを奪った。



 Φ



 弟の全てと入れ替わってから、俺は順風満帆な中学校生活を送った。

 できないことはないと思えるほど、なんでもできる。先生たちにも覚えがいいし、何よりも女にモテる!


 中学校にいる女はもちろん、町を歩けばナンパされ放題。

 当然ヤッた。あんなにモテるんだ。ヤらなくてどうするんだと思った。


 愉しかった!!!!


 が、ある日、とある女子大生に言われた。


「アンタ、顔も体もいいけど、あそこは普通だわ。それにテクニックもあんまりないし」


 怒った。

 ムカついた。

 嫌だった。


 欲しいと思った。


 そして俺の手元には悪魔のスマホがあった!!!


 AV男優を検索して、その写真を手に入れて、俺は自分の息子と性関連の知識を交換した。

 素晴らしかった!!


 どんな女も一瞬で、俺のテクニックでイかされる!


 が、ある日とある女に言われた。


「アンタ、顔は確かにいいけど、リュウちゃんほどじゃないよね」


 リュウちゃんは国民的アイドルで、滅茶苦茶イケメンの奴だった。


 怒った。

 ムカついた。

 嫌だった。


 欲しいと思った。


 そして俺の手元には悪魔のスマホがあった!!!


 そして俺は国民的アイドルの顔と体を手に入れた。息子と知識や才能は交換しなかった。


 それから、もっと愉しい日々を過ごした。


 が、ある日。テレビで出会ったサッカー選手に言われた。


「リュウちゃんってサッカーはほどほどなんすね」


 怒った。

 ムカついた。

 嫌だった。


 欲しいと思った。


 そして俺の手元には悪魔のスマホがあった!!!


 交換した。


 が、俺には音楽の才能がなかった。

 が、俺には芸術の才能がなかった。

 が、俺には笑いの才能がなかった。

 が、俺には世界一のお金がなかった。


 なかったから、交換して、交換して、交換しまくった!!


 より、最高を!

 より、全てを!!


 交換して、交換して!!


 そして、ある日、とある少女が俺にいった。


「お兄さんって、なんでもできてるけど、ぐちゃぐちゃだね! 顔も体も才能も全てぐちゃぐちゃに混ぜられた感じがして、汚いよ! まるで絵具を全部混ぜた色見たい! 汚いぐちゃぐちゃの色!」


 俺の手から悪魔のスマホが滑り落ちた。







 Φ







「アハハハハハ! ああ、凄い! 凄いぜ!! あのぐちゃぐちゃな感情! 本当に素晴らしかったぜ!! ああ、手塩かけて育てたぐちゃぐちゃの感情はやっぱ美味いよな!!」


 少女姿の悪魔が高笑いをしていた。










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