第4話
健三14歳生家で過ごす最後の夏、運命的な出会いが健三を待っていた。家の縁側にて涼を取っていた健三のもとに蛍が舞い降りた。不思議に蛍は健三の浴衣にとまり、なかなか飛び立つ様子を見せない。しばらく蛍を見つめていた健三は、意を決して近くの沢へ蛍を返してやることにした。暗い夜道をしばらく歩くと、小さいながらも清流を煌めかせる小さな沢についた。水面に近い笹の葉に迷い込んだ蛍を乗せようとしたとき、水面に映る野菊を見た。いやその野菊は夜の帳をものともせず煌々と昼間のごとく輝いていた。水面から顔を上げると、それは野菊ではなく一人の少女であった。沢のふちに座り込んだ少女のまわりを蛍が舞い、それが闇に冴え冴えと輝く野菊に見えたのだ。
「もし・・・・・・。」
少女は蚊の鳴くような声で健三を呼んだ。健三は惹かれるように沢を渡り、少女の元へ馳せ参じた。彼女の名は良子、蛍に惹かれ沢のふちまで来たところ足を痛めたとのことであった。健三は近くにあった木の枝を杖替わりとし、良子に手渡した。健三には良子を負ぶったりその手を引いてあげるような勇気はなく、良子に触れることすら叶わなかった。杖をつきながら良子の家へ向かう二人は無言であった。そして良子の家が見えたころ、ようやく健三が口を開いた。
「蛍がきれいな夜ですね。」
良子が微笑み、健三は照れ笑い。二人の淡い恋が始まった。
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