第22話 杉山滅子
私は《すぎやまめつこ》杉山滅子、FPS好きの、普通の女子高生。
あなたのことは《いじゅういん》伊集院先生から聞いてる。
私について知りたいなら、始めから来てくれれば教えてあげたのに。
うん、ごめんなさい。
私も、このままじゃいけないって分かってる。
だからこそ、こうして一から話す事で自分を見つめ直して、悪い私に勝てるよう頑張らなきゃ。
……最初は、何ともなかったの。
元々花粉症ではあったんだけど、薬を飲めば抑えられるし。
うん、でもたまに友達が面白がってスギの枝を近づけて来るのは嫌だったな。
だけど、ちょっとしたイタズラみたいなものだし、怒るほどの事でもないわ。
最初に悪い私が出てきたのはいつだったか、実は憶えてないの。
でも、悪い私を自覚するずっと前に、製薬会社で働いていたお父さんが農林省の人と電話してたのを聞いちゃって……それで喧嘩しちゃった事はあったかも。
詳しい内容? うぅん……ハッキリとは覚えてないけど、確か『花粉症の薬が売れなくなるから、無花粉スギの開発を止めてほしい』って感じだったと思う。
でも、それが原因だとも思えないし、今のは聞き流しちゃってもいいから。
最初に悪い自分を自覚したのは、高校2年の春だったと思う。
ある日花粉症の症状が酷くて眠れない時が度々あって、ある時私は症状が良くなるようにって、まだ日が昇る前に近くの神社に向かったの。
神社の名前?
ええと……《しらやまひめじんじゃ》白山比咩神社、だったかな。
それで帰ろうと表参道の手水車前まで歩いた時にね、くしゃみが止まらなくなっちゃって。
本当に辛くて、息もまともに出来なくて、近くの御神木にもたれて休んでたの。
そしたら一瞬だけ意識を失っちゃって、気が付いたら境内がメチャメチャになってた。
私は恐くなってその場から逃げたんだけど、それから気を失う時間も長くなって来て。
気が付いたら、手錠を嵌められた生活になっちゃった。
仕方ないよね……あはは。
でもね、これで良かったんだと思ってる。
みんな気を使ってあまり言わないけど、私が気を失ってる間、沢山酷い事しちゃってるんでしょ?
だからこうして、毎回違う刑務所の独房で監禁しなきゃいけなくなってる。
わかってるんだ、私はもう普通の生き方には戻れないんだって。
最初は死刑にするって刑務官さんも言ってたんだけどね、どうしても殺せないらしくて諦められちゃった。
誰にも助けられなくて、殺されることも叶わないのなら、自分で自分をなんとかするしかない。
それまで私は、牢屋の中で悪い自分を押さえ込んで見せる。
怖がらせちゃってるみんなのために、私自身がもっともっと強くならなきゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます