第9話 日本防衛庁第1戦闘航空団・元指揮官
我々が最初にしなければならなかったのは、事実を受け入れることだった。
あの日、突如として静岡との連絡が途絶えた。
何か《とてつ》途轍もない事が起きているのは確かだったが、それが何かは一切判らない。
やがて少しずつ情報が入ってはきたが、とても信じられなかった。
『装甲車をサッカーのように蹴り飛ばす少女が街を襲い、山を焼き払っている』
情報が混乱しているだけだ、そんな事はありえない。
最初は皆がそう思っていたが、やがて望遠ではあるが少しずつ映像が入ってきた。
見慣れた静岡の港町はどこにも無かった。
ロウソクを無造作に差し込まれたホールケーキの様に、先頭車両や燃え盛る木々がビル群に突き刺さり、猛烈な炎が空を真っ赤に染め上げていた。
時折、幾本もの光る柱が山から空へと放たれ、そこで映像が乱れた。
私は既に発進していた爆撃機に攻撃を命じた。
振り返れば、我々は未だ事態の深刻さに気づいていなかったんだろう。
どんな人間であれ空爆には敵わないと、そう思っていたんだ。
程なくして護衛の戦闘機から爆撃機撃墜の知らせが届いた。
《ちょうやく》跳躍したヤツが爆撃機を掴み、燃え盛る森目掛けて投げつけたのだと言う。
私は最初、その報告が信じられなかった。
操作を誤ったか、幻覚を見たのだとしか思えなかった。
結果私は再攻撃を命じ、無為に損害を重ね、そして驚くべき報告を耳にする。
『レーザー誘導爆弾、直撃するも効果なし! 繰り返す、効果なし!!』
司令部が浮足立っていくのが分かった。
この少女を、我々は倒すことができないのでは……?
そんな恐怖が静かに伝染していったんだ。
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