第8話 李 波 中華人民共和国元陸軍第2部隊・隊員
《すぎやまめつこ》杉山滅子の出現から3時間後、俺達は静岡の上空高度1万メートル上空にいた。
任務は高高度降下低高度開傘、つまりは高度1万メートルからの
当時、何が起こっているのか解らなかった。
突然日本からの一切の攻撃が途絶え、伝わってくるのは断片的で不確かな情報ばかり。
誰が信用する?
何かが《はし》疾った、静岡が燃えている、そして……素手で近代兵器を破壊する少女が現れた、なんて与太話。
だけど、静岡に近づいた航空機は有人、無人問わず、一切の連絡が途絶えた。
とにかく何か……途方もない何かが……想像を絶する何かが起こっているらしい。
《シンギュラリティ》技術的特異点の発生以来、とっくに想像もできないことに慣れていた筈の俺達人類にとってさえ、想像できなかった事が……。
輸送機の後部ハッチから真夜中の静岡へと降下した。
仲間の足から吐き出されるスモークを目印に円陣を組み、真っ黒い雲から飛び出していった。
そして、俺達はアレを見たんだ。
港に停泊する戦艦には針葉樹が何本も突き刺さり、町では兵士も市民も関係なく、逃げ惑う。
その渦中で、暴れ狂う少女が一人。
燃え盛る山々に次々と叩きつけられていく戦車。
燃え盛る木がちぎり飛ばされ、宙を舞ったそれらは次々と炎の槍となって静岡の町に突き刺さる。
熱にやられたのか、引火した火薬や燃料があちこちで次々と爆発を起こしていて、各地で煙が上がっていた。
そして乱気流に乗った炎が、熱く燃え盛る竜巻を引き起こし、真夜中の街を焼き尽くしていく。
降下中、俺達は地獄の底へ降下していくような気持ちだった。
当然、任務の遂行も最早不可能。
少女を前に、多くが生きて帰れなかった。
救援に呼んだ機体も、その《ことごと》尽くが災禍に巻き込まれ、墜落していった。
そして本土上陸作戦から奇跡的に生還が遂げられたのは、海に逃げ込み、波に《さら》攫われた俺一人だけだった。
日本は中国が突然手を引いたのを不思議がっていただろう?
俺達は国の混乱を恐れて、表向きには何も公表していないからな。
《はた》傍から見りゃ、方針を変えた中国が台湾のみに注力しだしたように見えたんじゃないか?
今だから言えるが、政府は俺の装備に装着されていたカメラから事態を理解したのさ。
そして日本を……とりわけあの少女を怖れたんだ。
なぁ、アンタらはどうしてあんな災厄を日常に取り入れられたんだ?
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