第3話 とある神職による証言

 そうですね、時期的に考えても、私は最初の事例を目撃した者の一人でした。

 はい、ですが直接目撃したわけではありません。


 きっかけは大江戸島……日本の小笠原諸島に属する人口数千人程の小島です。


 あれはそう、そうです、梅が咲き始める早朝の事でした。

 日課のおつとめをしていた私の元に、近所の農家の方が慌ててやって来たのです。


 訊けば注連縄が掛けられた木が無惨な状態で浜辺に打ち上げられていると言うではありませんか。


 農家の人に連れられて向かった所、既に何人もの野次馬が集まっていました。

 そして確かに、問題の木はその中心にありました。


 大きなスギの木でした。

根元の周り約12m、胸高幹周り約10m、樹高約42mの巨木で、樹齢はおよそ800年と推定されました。


 問題はその木の状態です。

 ひどく損壊しておりました。

 根っこがズタズタに引き千切られ、枝はごっそりとむしり取られており、硬い幹の一部は何かに《うが》穿たれ、その周囲はボロボロだったのです。


 《きゅうきょ》急遽派遣された《いじゅういん》伊集院博士の見解によれば、幹は何か大きな動物によって、強力な力でえぐられたのではないかということでした。


 恐ろしいことだと思いました。

 ご存知の通りスギは非常に強固で、神木ともなると加工しやすく切り分けないと、とても《あな》孔なんて空けられません。


 それをああも力任せにむしり取る動物……一体、どれほど恐ろしいヤツなのか……とりわけ枝の損壊はさておき、幹の一部を欠損させた手段が問題でした。


 一体どうやればこんな損傷を与えられるのか……当時の生物学者の権威でもある伊集院博士をもってしてもお手上げ……いえ、権威だからこそ、余計に想像の埒外らちがいだったのでしょう。


 あれは……ヤツはそれまでの生物を超えた存在でしたから……。


 「荒神じゃ。荒神様の逆鱗に触れたのじゃ……きっと次はこの島にやって来る」

 島の古老の一人が言いました。

 それは、古老の故郷で古くから伝わる龍神の名なのだそうです。


 何にせよ名前は必要でしたから、神木を殺した存在は荒神と呼称され、伊集院博士の要請によって自衛隊と共同で全国の神社に調査隊が派遣されました。

 

後にその神木は、白山市指定天然記念物にまでされていた、《しらやまひめじんじゃ》白山比咩神社の物であるとわかりました。


 ですが2週間経っても荒神を発見することは叶わず、結局捜索は打ち切られました。


 一体、神木を引き裂いたそれは何ものなのか。

 唯一の手掛かりは、神木の残骸の調査に当たっていた伊集院博士と調査団による報告でした。


 「指力に酷似した何かの攻撃」

 問題の幹の損傷の原因は、そう結論づけられました。


 誰もが……伊集院博士自身も困惑していたと思います。

 指力に酷似した攻撃……つまりモンスター映画に出てくるような力を備えた生物。


 いるはずがない……いてはいけないんですよ、そんな生物は。

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