言ってない(2)
その日の午前中の授業は、何の問題もなく進んだ。
私はよく先生に指名されるけど、何を聞かれても完璧に答えられる。プリントも、解けない問題なんてない。だから先生たちにはとっっても信頼されてる。行事の係の仕事とかもよく頼まれるし、生活委員も給食係もケンニンでやってる。
今日も、給食の時間がやってきた。
私は教壇に上っていただきますのあいさつをする。
「みなさん、今日こそは残さず食べて、完食しましょう!いぃたぁだぁきぃます!」
「「「いィたぁ唾棄まあス!!!」」」
私は自分の席につきながら、すぐに隣の班を注意する。
「ちょっとうるさすぎ!食べるのに集中できないじゃない!」
さてと、っと自分の給食に向き直った時――異変に気付いた。
「……何、これ?」
おかずのお皿に、なぜか大盛りの釘が載っていた。
――こんなの、配膳の時は混ざってなかった。アスパラガスの和え物だったはず……。
そう思って、「先せ――」と手をあげかけて、私は固まる。
「ん、どうしたー?」
先生が気付いてこっちにやってくる。
「あ、いや、その……なんか、給食に変なものが、入ってて……。」
「変なもの?……どこにあるんだ、先生には見えないぞ。」
「え、いや、だってこれ……。」
私は思わず口ごもった。
てっきり、誰かが嫌がらせでこんなことをしたのかって思ったけど、そうじゃなさそうだった――だって、クラス全員のお皿に、同じように釘が盛ってあったから。
「だって、釘、って、食べられない、じゃないですか……。」
それでも私は、きちんと先生に伝える。もし、今日たまたまみんなの頭がおかしくなってるんだとしても、先生に怒ってもらえば何とかなるはずだ。
「食べられないって……おい蟋ォ蟾、なんてこというんだよ!お前、給食係だろ!?残さずちゃんと食べよう、って、いつもクラスのみんなに団結を呼びかけてくれてるじゃないか!そんなお前が好き嫌いなんて、どうしちゃったんだよぉ!」
先生はぽろぽろ涙を流しながら、私の肩をつかんで揺さぶる――なんだこいつ、クソキモいんだけど。
「は?……じゃなくて、え?どういうことですか?だって、釘って、食べたらお腹壊しちゃうじゃないですか。しかも、こんなにいっぱい……。」
「お前が!みんなが苦手な釘だから!自分が率先してたくさん食べますって!言ったじゃないか!」
「???」
「だからつぎからは大盛りにしてくださいって!みんなの前で言っただろ!?」
「いや……言いました、っけ。」
――いや、確実に言ってない!ていうかどう考えてもあり得ないだろ!
「はあ~~っ!?おい蟋ォ蟾!どうしちゃったんだよお前ぇぇ!」
鼓膜がキンキンする。
先生はとうとう、叫びながらエビ反りになって痙攣し始めた。
私はドッキリとかかな、って一瞬思ったけど、先生のこれは演技にしてはあまりにも真剣すぎた。
……どうやら、先生も頭がおかしくなったらしい。
「をい蟋ォ蟾、食わず嫌いすルなヨ!」
「そうだよ、ゐつも偉そうにシてルくせにニ!」
男子たちが便乗してはやし立ててくる。
「蟋ォ蟾ちゃん、いけないんだぁ~!」
なぜかモブ子まで混ざっている。
――あいつ、絶対許さない。
教室中のみんなが私の方を見て、くすくすと笑っている。私は顔が真っ赤になった。
なんで、私がこんな風に恥をさらさなきゃいけないんだ。おかしいのは、どう考えてもみんなの方じゃないか。
――大体、そんなに言うならお前たちが自分で食べてみろよ――
私はそこに突破口を見いだしたと思って、周りをにらんだ――みんな、普通においしそうに食べてた。
――!!?…………え、何、これ?私の方が、おかしいの?
「なあ蟋ォ蟾、頼むから、一口でいいから食べてくれよ?俺の可愛い蟋ォ蟾なら、できるよな?」
しれっとキモい言い方をしながら先生は勝手に自分の箸で釘をはさみ、私の口の近づけてくる。
「ま、待ってください……自分で、食べられますから……。」
――みんなが食べてるんだから、普通に大丈夫なはずだ。きっと、見た目ほど硬くないんだ――
私は意を決して、釘を一本口に入れて、噛んだ――がりっと、嫌な音がした。
「うっ――」
私は思わず吐き出した。普通に鉄の味がするし、歯茎がジンジンとしびれている。
先生は私のそんな様子を、ショックを受けた顔で見ている。
「――先生、これ、硬すぎます、噛めません……!」
「はあぁ~~!?じゃ—そのまま飲み込めばい~じゃないかよぉ!」
「そんな……。」
「おいみんな!姫川を手伝ってやれ!」
「え、何……?」
抵抗する間もなく、周りの人たちが私を押さえつけて、無理やり口を開かせた。
「へ、ふぁ、ふぁっへ!やらっ、やらぁっ!!」
先生は結局、お皿から手のひらいっぱいに釘をすくって、私の口に押し込んだ。
「ほら、ほら!ちゃんと、顎を動かして……!」
「んー!、んん――ぅ!!!」
誰かが私の顎を無理やり閉めようと、ぎゅっと押さえつける。
――痛い、やめて――!
そこに先生も手を添えて、すごい力で私の顔を押しつぶした――
ぼきっ――ぼりっ、ぼりっ――
ものすごく嫌な音がしたけど、意外と簡単に釘はかみ砕くことができた。
口の中はもはや痛すぎて感覚がないし、鉄の味がする気がする――それでも私は、涙目になりながら頑張ってそれを飲み込んだ――そして、喉につかえて盛大に吐いた。
「うえぇ、うげぇっ……。」
「おい、蟋ォ蟾、大丈夫かぁっ!」
先生が慌てる……お前のせいだろうがっ!
「遘?蟄ちゃんが吐いター!」
「キったねぇ!」
周りの嘲笑を浴びながら、私は涙で潤んだ薄目を開けた。
――無理だ。こんなの、絶対無理だ……。
目の前のおぼんには、私が吐いた唾液まみれの釘が散らばっていて――
「……え?」
そこには、赤い血と、砕けた歯が何本も混ざっていた。
――嘘。
「…………あ。嫌、嫌……。」
口の中の感覚が戻ってきて、激痛が襲う。
「ああああぁ~~~~~~!!!!!!!」
私は絶叫して、気を失った。
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