言ってない(1)
私は登校中、ため息をついた。
昨日の夜、お母さんに「習字のレッスンをやめたい」と言ったのに、やめさせてくれなかったのだ。
塾もピアノのレッスンも水泳も茶道教室も通ってて、もういっぱいいっぱいなのに。
しかも、お母さんは訳の分からないことを言い始めた。
「あなたがやりたいって言ったんじゃない!?」って……。
「ちゃんと他の習い事も頑張るから、お願いやらせてって頼んだから、やらせてあげてるのよ!?」
そんなこと全然言ってない。お母さんが無理やり始めさせたのだ。
いつか、やるかどうか聞かれて「うん」って答えたかもしれないけど、それは散々「やりなさい、やったら絶対ためになるから」ってわめき続けたから、諦めてしぶしぶうなずいたのだ。それをいつのまにか勝手に尾ひれをつけて、さも私が積極的にやりたがってたからしょうがなくやらせてあげてる、みたいに思いこんでる。
――お母さんってどうして、あんなに性格が悪いんだろう。
自分がしてあげたことばかり覚えてて、他人に押し付けた頼みは全部忘れちゃう。私の不満なんか、全然わかってくれない。
「……やっぱり、頭悪いのかなあ。」
私は皮肉気に笑いながら言う。お母さんは、低学歴だ。私に勉強とか習い事のことをうるさく言ってるくせに、自分は勉強のことは何にもわかってないし、教養なんて一ミリもない。「親がお金を出してくれてるんだから、感謝して頑張りなさい!」とかほざいてるけど、そのお金は全部高学歴のお父さんが稼いでるのだ。自分には何のキャリアもない。ただの華のない主婦のくせに、偉そうに。もはや滑稽だ。
――いやだなあ、大人になった時、ああいうのが母親だと、社交の場に連れて行ったら恥さらしになっちゃう。
そんな風に考えて、私は少し留飲を下げた。
私は絶対、将来あんな大人にはならないつもりだ。だから将来、堂々とあいつの悪口が言えるように、今 のうちに学力も教養もたくさんつけておかないと――とは思うけれど、さすがに体力の限界と言うものもある。
それに、友達との交友関係だって、大切な訳だし。
学校についた私は、ともだちにおはようって言って、おしゃべりを始める。
「ねえ、雋「縺偵Γ繧ケ繧ャ繧ュ縺ゥ繧の新作もう見た?」
「見た見た!あの驕灘セウ繧「繧ッ繧サ繧オ繝ェ繝シの螳峨>鄒手ォがすっごくよかったよね!」
「ねー、おいしいよねー!」
「わかるー。ほんとにウケるー!」
流行りのものはどんどん変わっていくから、ちゃんと追いついていないといけない。本当は全く興味なんてないけど、こういう知識もシャカイテキチイのイジのためには必要なのだ。
お母さんはそのこともわかってない。友達の家に遊びに行くって言うと、勉強の時間はどうするのってうるさい。
――だから友達が少ないんだよ。馬鹿が。
「あ、そういえばさぁ、遘?蟄ちゃん、このカチューシャ好きって言ってたよね?」
そう言ってナントカちゃんがスマホを見せてくる。
「え、何?」
そこには、見たこともないうさぎの耳が付いた変なカチューシャが映っていた。
「あはは、なにそれぇ、言ってないよぉ。そんな変な奴……ていうか、五千円って高すぎでしょ!」
私が冗談だと思って笑うと、ナントカちゃんは変な顔をした。
「え、だって前言ってたじゃん!『私、ウサギ耳が好きだ』って!」
「え……そんなの、言う訳ないじゃん。」
――何言ってんだ、こいつ。
「えー、絶対言ったよぉ。みんなも聞いたよね?」
「うん。」
「言った言った!」
ホニャララちゃんもモブ子ちゃんも口をそろえる。
「絶対言ったって!」
「ダメだよ、嘘ついたら!」
――ていうか、なんでみんなそんなキレ気味なの……?どうでもいいことじゃん。
「明日からちゃんとつけてきてよね!」
「はぁ?え、嫌だけど……?ていうか、明日?持ってないんだけど。」
「じゃあ今買ってあげる!」
「……は?」
そう言いながらナントカちゃんは、本当に購入ボタンをタップした。
「え……五千円も、するのに、そんな」
「うん!買ってあげたのあなたのために!五千円もするけど!だからぜったいつけてよね!」
「……………………。」
他の友達は、みんな何も言わずにこにこしてる。
――なんか、今日はみんな、おかしい。
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