温かい闇 エピローグ:後の祭り

――――橋の上に、傘を差した女が立っていた。


 その手には、高価そうなガラス細工の鉢を抱えている。

 中には水が満たされ、二匹の金魚が窮屈そうに身を寄せ合っている。

 一匹は、赤と白のまだら模様で、顔が醜かった。環境が悪いせいか、もうほとんど動かない。

 もう一匹は艶やかな紅色で美しかったが、すでに息をしていない。

 おまけに欲しいと言ったら、店主が厄介払いでくれたのだ。

 女は鉢を満月の光に照らし、愛おしそうに微笑む。

「――ようやく、迷える子がたどり着いたのね。」

 そして、袋の口を下に向けて、それらを川に放った。

 金魚たちは力なく水面に浮かび、よりつ離れつ、下流に流されていく。

 その姿は、幼子たちが戯れているようにも見えた。


 ――金魚たちが見えなくなったころ、女はゆっくりと橋を立ち去る。


 祭りの明かりとは反対側の、暗闇――本来ならば、朝日が昇る方向だ。

 女は、夜のうちに歩き出す。


 橋を渡り切った頃、鉢の中でからん、と音がした。


 ――そこには金魚の代わりに、白くて冷たい、二匹の魚が入っている。

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