第6話 四神の守り
以来、鳴神は、晴明の庵にいた。
晴明に作ってもらった義足と義手は、鳴神の妖力により、滑らかに動くように工夫され、本物の手足のように鳴神は、使いこなしていた。
「なあ、勝負しよう?」
鳴神が庭を掃いていると、その後ろを紫檀が付いてくる。
「いけません。まだ仕事が終わりませんから」
鳴神が断れば、紫檀はシュンとして軒下に座り込む。
「お前ら、二人とも、人間界では死んでいることになっているのであろう? なのにどうしてそんなに二人ともあくせく働く?」
紫檀がため息をつく。
どうやら、晴明にも、邪魔だと叱られた後のようだ。
その子供のように駄々をこねる姿は、とても九尾の妖狐になる狐には見えないが、この抜きんでた容貌と妖力、そしてこれほどの妖力を持ちながらもまだ尾が成らない様子は、鳴神には、九尾狐になる兆候のように思えて仕方ない。
紫檀自身は、自らをそのようには考えていないようだが、鳴神が昔読んだ文献の通りの狐。それを晴明が知らないわけがない。
紫檀が育ちたいように育てばよい。あのアホ狐の事だから、このまま尾が成らずに終わることもあるだろう? と、晴明は軽やかに笑っていた。
「死者には、死者の仕事があるものです」
「それは晴明も言っていた。ずいぶん疲れる考え方じゃ」
ケラケラと紫檀が笑う。
「紫檀、仕事だ。来い!」
書斎の方から、晴明の声がする。
「何とも狐使いの荒い。行くけれどもよ」
紫檀が立ち上がって書斎に向かう。
鳴神も紫檀の後を付いて行く。
書斎の障子を開ければ、そこに晴明が座していた。
二人の入っていた気配に、晴明が顔をあげる。
「なんだ。一緒にいたのか。それは話が早くて助かる」
鳴神と紫檀が一緒に書斎に入れば、晴明がそう言って笑う。
「何事でございましょうか?」
鳴神が問えば、晴明が、床に地図を広げた。
「この都が、青龍、白虎、朱雀、玄武の四神獣の力を借りて守られているのは、知っているな?」
晴明が語り出した。
都は、「四神相応の地」と呼ばれ、東に「青龍」西の「白虎」、南の「朱雀」、北の「玄武」。四神に守られた地形にある。東に河川、西に大道、南に湖や大きな池や海、北に山。四神の力を借りやすい地形にあり、それぞれに社を置いて、四神を祭っている。
「それくらいは知っている。それがどうした」
紫檀が問えば、
「その四神の守りを破らんとする動きがあるのだ。北の玄武を穢そうとした動きは、
と晴明が答えた。
「分からんわ」
紫檀は、むっとする。そんなの知る由もない。
「なるほど。私を封じるしめ縄が急に緩んだのは、それを緩めた者がいたということですか」
「ああ。だからこそ、しめ縄の内側に籠っていた瘴気が山に漏れて、周囲を穢していた。あのまま、怒りに満ちた鳴神を放って、玄武の守りを穢すのが、狙いだ」
「どうしてそう言える?」
「鳴神の一件から、そのことを疑って、青龍、白虎、朱雀の守りの元となる場所を式神に探らせてみれば、思った通り動きがあったからだ」
晴明が、都の南を指す。
そこには、大きな池がある。
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